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変化とは別の変化を準備する

毎朝見ているお天気お姉さんはいつも通りの笑顔を振り撒いて、特になんの面白みも感じない中間ランキングを発表していくと、最後に残ったのは蠍座と水瓶座の二択となった。

「うわ〜御愁傷様なんですけど〜」

「なにがだよ、まだ順位の発表もしてないだろうが」

「いやいや、水瓶とか無機物の分際で昆虫界最強の生きる伝説であるサソリ先輩に勝てるつもりになってるとか、今年一番片腹痛いんですけど〜」

「……はぁ!?お前こそ何言ってんの?コッチこそサソリとか水瓶に放り込んで一発なんですけど!なんならグツグツに煮えた水瓶にぶち込んでやろうか?」

「グツグツ煮えたらもう水瓶じゃないし、それもうお湯瓶じゃん!」

「いやいや!そもそも、星座は宇宙にあるから真空だし、サソリが万に一つも生きていける環境じゃないから!つまり無機物こそ至高なの、分かる?」

無益な言い争いの末に、笑顔満面のお天気お姉さんは今日の最下位の発表を告げる。

『ごめんなさい、今週の最下位は水瓶座のアナタ、今日はふとした拍子に知られたくない秘密がバレちゃうかも!でも大丈夫!そんなアナタのラッキーアイテムは睡眠薬です!ぐっすり眠ったら嫌なことの一つや二つは忘れられるよね!』

やけに実用的過ぎるラッキーアイテムの説明に呆気に取られるのを通り過ぎ、最早殺意すら湧き上がる。

人ごとだと思って笑いやがって、いつかお前の顔面に水瓶の中身をぶちまけてやる。

「……起こしてもらって、悪いんだけど今日は学校休むわ。ちょっとテレビ局に行かないといけない用事ができたのと、人の不幸をテレビの向こうで笑ってるアナウンサーが気に喰わなくて体調を崩したって、新しい担任には言っておいて」

「なに馬鹿な事言ってんの?……あっ!一位のラッキーアイテムは水瓶座の幼馴染みだって!おあつらえ向きに水瓶座の幼馴染みがいるんですけど〜」

「誰が誰のラッキーアイテムだよ!人を物扱いしやがって!この放送に携わった奴頭湧いてんじゃねえのか!」

腹立たしい!実に朝から不愉快だ。

もう一度眠って忘れたい……成る程、確かにさっきお天気お姉さんが告げていたのラッキーアイテムは効果的だ。

齧りつく様にテレビを見ていた俺の思考を読んだのか、雛は揶揄う様にテレビの電源を落とした。

「ほら、そんな事言ったって仕方ないでしょう!今週は蠍座が一位なんだから、最下位の水瓶はサソリの後ろを黙って付いて来ればいいのよ」

サソリの後ろを水瓶が付いて行く?

天秤座と並んで二代無機物のトップを飾っているのが水瓶座が?

星だけにスター街道を進む水瓶座が何かの後ろを付いて行く?

それこそ有り得ない、むしろ水瓶座が譲ったと考えるのが合理的だ。

だが、今週に限っては順位争いで負けたのも事実だ。

だが水瓶の順位で負けたとしても、俺には負けていない事柄がもう一つある。

「よし分かった、この後九時からやる今週の血液型占いも観て行くぞ、それで俺とお前の完全な勝敗をつければいいだろ!」

「そんなの観てたら完全に遅刻するんですけど〜というか、アンタと私同じ血液型なんですけど〜」

時刻はお天気お姉さんの『いってらっしゃい』の掛け声と共に八時を指し示し、定刻通りに行くのであれば、もう家を出なければ間に合わない。

それに、血液型占いが同点なら、それはもう同じ運勢と言っても過言ではない。

「……しかたない。分かった今日の所は譲ってやる」

鞄を担ぎ二人して家を出て一樹は玄関の鍵を閉める。

朝日はやや高く、今日は雨が降りそうな雲もない晴天の元を二人は並んで歩いていると、ふとした疑問に行き着いた。

「なぁ、そういえばなんでお前は俺の家に勝手に入って来ちゃうの?」

『鍵開け師』それが彼女『秋川雛』の能力だ

つまり彼女固有の『ユーフォリア』である。

読んで字の如く、彼女は能力でどんな形状の鍵でも瞬時に開けることが出来るが、鍵の難易度が上がるだけ彼女はより強い眠気に襲われる。

我が家は比較的簡単な鍵穴式の施錠がされているため、雛は容易く開けてしまうのも頷けるが、それは言うなればただの犯罪である。

「ご近所さんにお前のユーフォリア使うところ見られたら本気で洒落にならないぞ、お前のユーフォリアは悪用しようとすれば幾らでもいかがわしい事に使えるんだから」

「それは大丈夫よ、だって誰にも見えないように裏口から入ったから」

気遣いが出来る私は偉い!とでも言うように胸を張る雛だが、俺が言いたい事は違う、そうじゃないんだ。

「だから、人の家に勝手に上がり込むのはお前の行為はそもそも犯罪なの!やっちゃいけない事してなんでお前は胸を張ってるんだよ!」

中学から一緒だが、コイツの悪癖は留まるところを知らない。

「大体お前は中学の時だって、学校の備品を片っ端から鍵という鍵を開け回って中学の時に大問題になったのを忘れたのか!」

「確かに問題にはなったけど、犯人は未だ見つかってないんですけど!」

「俺と辻先輩が犯人を見つからない様にしたんだろうが!そもそも『鍵開け』なんてお前以外に誰が出来るんだよ!重要書類の入った金庫まで開けやがって!あの後、お前が三日三晩爆睡キメ込んでる間に辻先輩と一緒に関係者全員の記憶改変処理がどれだけ大変だったと思ってんだ!」

「なによ!あの時は私だってやりたくなかったけど!ああする以外に方法がなかったのよ!というか、人に見つかるなとかアンタにだけは言われたくないんですけど!」

全く悪びれる様子もない辺り、雛は一切の反省をしていないのだろう。

「とにかく、人の家に入る時ぐらいは玄関から正規の手順を踏んで入って来い!いくらお前が仲の良い幼馴染みでも起き抜けに普通に家に入られたら心臓に悪いんだよ」

「はぁ?なにそれ?意味わかんないんですけど〜というか朝に起こされたくないならアンタがちゃんと朝に起きて学校にくればいいじゃない。そうすれば私だって朝からアンタを起こしに来なくてすむんですけど!」

「だから、俺は別に学校なんてどうでもいいんだって何度も言ってるだろ?わざわざ起こしに来なくても良いってば」

「ちょっとなによそれ!アンタを二年に進級させる為に辻先輩とどれだけ学年の先生の記憶の改変をしたと思ってるのよ!ちょっとはコッチの気も汲んで欲しいんですけど!」

と言い合っている内に、遠くの方でチャイムが鳴り始め、二人は互いに『お前のせいで』という視線を交わし同時に閉まり始めた校門へと駆け抜けた。


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