変化とは別の変化を準備する
2040年突如として現れた奇病、通称『眠り病』と呼ばれる後天的疾患を引き起こさない為に投与された『ユースティティア』特効薬。
それはあらゆる年代、性別の垣根を越えて投与された祝福と悪夢の始まりだった。
『ユースティティア』特効薬はその安全性から一年と経たぬうちに妊婦である母体ヘの投与並びに、新生児への投与が押し進められ……
新生児投与が始まって、初めて生まれて来た子供が一年経った頃、それは始まった。
最初の『ユーフォリア』保有の子供は、期せずして親の記憶を喰った。
自身を生んだ両親の記憶を、自身が生まれたという記憶ごと根こそぎ喰い散らかしたのだ。
親は子を憶えておらず、その様子は世間にとって悪夢と等しい衝撃があったことだろう。
だからこそ、最初発見されたユーフォリア保有者である子供への世間からの恐れは尋常ではなかった。
そして能力者の一人目が出た同時期に、それは次々に一年経った子供達にユーフォリアが発現した。
まさに最悪のタイミングだったと言える。
恐ろしい能力『ユーフォリア』というレッテルが貼られた上から数多くの子供が『ユーフォリア』を発現していく様は何も持たぬ一般の大人にとっては理解の範疇を超えた異常事態に他ならない。
ユーフォリアは『恐ろしい物』だという考えが根付くのに、そう時間は掛からなかった。
『ユースティティア』投与から三年の時を経て、政府はとうとう能力者を作り出す原因が、眠り病特効薬である『ユースティティア』にあることを突き止めた。
即座に『ユースティティア』の新生児への投与を禁止した政府だったが、既に投与の施された『三年間の子供達』に関してはどうすることも出来なかった。
世間は『ユースティティア』を開発した会社の名前を取り、胎児状態の子供に母体を介して『ユースティティア』を投与する事、又は新生児状態の子供へユースティティアを投与する事によってのみ発現する能力者を『ユーフォリア』と名付けた。
人とは違う、人ならざる力ユーフォリア。
能力や異能と呼ばれる力は人々を恐れさせるには十分過ぎた。
だからこそ『奇跡の子供』と呼ばれる……恐れられるだけではない、人へ益をもたらす『ユーフォリア』保有者である子供が祭り上げられるのは必然だった。
どんな傷、病気でも直す『奇跡の子供』の出現とその能力『新生』と呼ばれる『ユーフォリア』保有者である『奇跡の子供』の注目は一躍世界へと駆け巡った。
今のキャスターも最後のトピックで『奇跡の子供』の話題に触れている辺り、下火はまだ燻っているのだろう。
「お前の言う通り、どこの番組も本当につまらないな……」
二人並んで気の引かない番組を無表情で見続けて、番組最後に映ったのは星座占いのコーナーへ映り変わる。