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変化とは別の変化を準備する

部活、正式には『ユーフォリア研究部』に所属している俺達だが、基本的な部活方針は二つある。

一つは、学校内に居る生徒ないし、学外に居る同年代に有用又は有害とされる能力を持つ人間をスカウトし、能力を有用する、又は著しく危険を伴う能力をバンカーと呼ばれるユーフォリア能力者に預ける事である。

だからこそ俺は、今朝沢城が手酷くやられた転校生の自己紹介を思い返す。

「今日先輩方にもメールで送りましたが、俺のクラスに転校生が来ました。黒髪の長髪で、かなり口調がキツい感じの女子生徒、名前を柊真琴です」

部活動とは名ばかりの『ユーフォリア研究部』と称されたこの部活だが、この部活の本質は研究にはない。

「柊真琴、彼女のユーフォリアは『奇跡』それも、人の奇跡を吸って自分の奇跡に変換するのが彼女のユーフォリアだそうです」

途端、熊谷先輩の視線は厳しい物となり、雛も続いて視線だけを雑誌から上げる。

この真面目な二人が食いつくという事は、やはりこの話題を持って来て正解だったという事だろう。

「それは一樹が能力を直接見たって事?それとも何処かでその情報を仕入れたのかしら?」

「これは柊真琴が自己紹介で言っていた事だ、つまりこれらの情報は本人からの自己申告でしかない。だが柊真琴が言っていた事が本当なら、これはあまりにも危険なユーフォリアだと俺は思う」

「確かに『奇跡』なんて聞いたとこもないユーフォリアなのは確かね。それも自分にだけ利益のあるユーフォリアなんて、正直珍しいというか本人にとっては当たりもいいところじゃない?」

それぞれのユーフォリアには作用と反作用が存在する。

辻先輩は人の狙った部分の記憶を喰う事が出来るが、その代わり自身の身体年齢が若返る。

雛は、どんな鍵でも開ける事が出来るが、開けた鍵の複雑さに比例してユーフォリア使用直後激しい眠気に襲われる。

熊谷先輩は、ユーフォリアを所有している代わりに、誰に対しても嘘をつく事が出来ない。

それぞれがそれぞれ、予期せぬ副産物を抱えてユーフォリアを扱っているにも関わらず『柊真琴』のユーフォリアにはそれが存在しない。

本人曰く人の奇跡を吸い上げ、自身の奇跡に変換するユーフォリア『奇跡』は本人に対するデメリットが存在しない。

「成る程のう……一つ疑問なんじゃが、その柊が嘘をついている可能性はないのかのう?本人が持つユーフォリアはもっと別の能力で、それを周りの人間に知られたくない。一樹、お前みたいにじゃ」

確かにその可能性もあるが極々僅かな可能性だ。

そもそも知られたくないという理由だけで、転校初日にわざわざ人を遠ざける必要があるだろうか?

能力を隠すだけであるなら自己紹介を交えたあの演説には無駄が多過ぎる。

何かを隠すでもない、だが自身の周りから人を遠ざけたいなにかが柊真琴にあるとしか俺には思えない。

「柊は人を避けてる。そして、別の能力を隠したいならそもそも最初に自分の能力を転校初日にクラス全員に向けて説明なんてする必要がない筈だ。多分だが柊は自分のユーフォリアを制御出来ていないんだと俺は思う」

これらは全て仮説でしかない、そもそも本人が能力を使っている所も見た事が無いのだ。

ただ、柊真琴が言っている事が真実であるのなら放っておく訳にもいかない。

「なら手っ取り早く直接柊を呼び出して事の詳細を聞くしかねえ、その後本当に危険な力つう事が分かって、自前での制御もおボツかねえならバンカーの力を借りるしかねえだろうなぁ」

熊谷先輩の言葉に二人は同意を示し、俺もその言葉に軽く頷く。

事情を聞く。ここには嘘のない言葉を喋らせる事の出来る熊谷先輩も居る。

だが、問題はもう一つある。

「さしあたって問題なのは誰が柊をこの部室に連れて来るかですね」

そう、問題は彼女に近づく事が沢城のせいでより困難を極めているという事だ。

ちなみに、説明するまでもなく俺は嫌だ。

であるなら、俺が推薦すべきはただ一人だろう。

「俺は雛が適任だと思いますね。刺激物同士、多分仲良くなるんじゃないですかね」

「はぁ?なんで私が行かないといけないわけ?意味分かんないんですけど〜というか、同じクラスなんだからそのまま一樹が行けば良いと思うんですけど〜」

「お前は本当何も分かってないのな。ああいう転校生は同性の方が警戒なく近づけるもんなんだよ。俺が言っても沢城の二の舞になるだけなの」

「そんなの、同性が行っても同じなんですけど〜というか、近づくならそれなりの理由がありそうな人が近づいた方が良いと思うんですけど〜」

雛は熊谷先輩を見るが、熊谷先輩は自嘲気味に笑って見せた。

「俺はユーフォリアの都合上嘘がつけねえんだよぅ。いいのかぁ?本当に俺が行ってもよぅ、最悪この場での会話を全部バラしちまう可能性もあるぜ」

確かに熊谷先輩を行かせるのは愚策も愚策に等しいだろう。

なら第二候補の出番だ。

「じゃあ、辻先輩はどうですか?先輩なら弾道ミサイルも慌てて引き返す溢れ出る可愛らしさでどうにかなるんじゃないですか?」

「ふむ、確かに一樹にはこれから助けて貰う借りもある事じゃし、我が一肌脱ぐのもやぶさかではないが……なんじゃ熊谷、そのいかにも不服そうな顔は!」

「いや、お前よぅ出来んのか?三年の中じゃお前まともな友達の一人もいねえだろうがよぅ。人とまともに喋れんのかぁ?」

「なぁに、心配には及ばん。我は年下の扱いには慣れておるし、何かあれば同じクラスに一樹が居るんじゃから、いざとなれば助けを求めるのじゃ」

この幼女事あるごとに困ったら俺に頼るつもりらしい。

仏の顔も三度までという言葉もある、幼女に向ける顔が三度では些か少な過ぎると思っていた頃合いだ。

遺憾なく、この幼女を助ける用意が俺にはある。

「一つ質問なんですけど、先輩はどうやって柊とコンタクトを取るつもりなんですか?」

「そりゃあのう、我はこの部活の部長じゃからして、ユーフォリア研究部に協力を要請する建前じゃよ!この栄えあるユーフォリア研究部からの要請!部長直々に足を運べば、間違いないのじゃ!」

ユーフォリア研究部、なんの活動をしているかも分からない部活動の部長から協力の要請を受けたなら、どうするか?

俺なら絶対に受けつけない。

ユーフォリア研究部にどれだけの実績があるのか俺にはさっぱり分からないし、そもそも学校内での知名度など皆無に等しいユーフォリア研究部に協力を快諾してくれるとは思えない。

「本当に大丈夫なんですか?」

「まぁ、見ておれ。我が万事上手くやってみせよう」

無いに等しい出っ張りをポンと叩き、辻先輩が自信満々に言ってのけたのが昨日の事だ。

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