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札束ビンタ

作者: 青水

 札束ビンタの話を聞いた。

 札束ビンタとは、文字通り札束でビンタをする行為のことを指す。たくさんのマネーを持っている人にしかできない、金持ちの道楽である。ビンタをする以前に、相手に対して失礼な行為を行うことも可である。


「世の中の物は大抵、金で買えるんだ」我が友は言った。「仮にビンタされたとしても、札束だったなら、きっと相手は君を許してくれるはずさ」

「なるほど」

「大切なのは、ビンタに使った札束を気前よく相手にプレゼントすることだ。つまり、君は札束でビンタその他諸々の権利を買い取るのだ」


 僕は早速、銀行で多額の金を下ろしてきた。僕は株やFXその他諸々の投資で、人生を一〇回以上遊んで暮らせるほどの金を持っているのだ。

 さて、どいつにどんな失礼なことをしてやろうか?


 街を練り歩いていると、不良少年集団がやってきた。僕はそのうちの一人に跳び蹴りをかました。思ったより高くジャンプできず、みぞおちを狙ったのだが、股間にクリーンヒットしてしまった。


「うっ、あああ……。おい、てめえ、何してやがるうぅぅぅ」


 股間を押さえる彼に、僕は札束ビンタをかました。


「この金はくれてやる。だから、今の僕の行いを見逃せ」

「「「ふっざけんじゃねえぞ、ゴラア!!!」」」


 聞いていた話と違うではないか! 世の中の物は大抵、金で買えるのだが、彼らのプライドはプライスレスのようだ。

 僕は札束を握りしめて、夜の街を逃げ回った。


 ◇


 続いて、札束ビンタできそうな相手を探していると、夜道を女子高生が一人歩いていた。塾の帰りだろうか。そんなことはどうでもいい。僕は彼女に近づいた。そして、堂々と正面からスカートをめくり上げた。


「きゃああああ!」


 白だった。


「何すんのよ、この変態!」


 僕は即座に札束ビンタをした。


「このお金は君にあげよう。だから――」

「誰か、助けて! ここに変態がいますっ!」


 まずい。このままでは僕は逮捕されてしまう。やってきた警察に札束ビンタ――という名の賄賂を渡すことによって、諸々の行為が許されるだろうか? 難しそうだ。僕は札束を持って、全速力で逃げた。


 ◇


 僕は思った。

 札束ビンタをする前に、相手に対して失礼な行為を行うのはよろしくない、と。

 とりあえず、シンプルに札束ビンタをすることにした。ちょうどいいところに、マッチョなボディービルダーみたいな男がいた。

 僕は彼に近づくと、札束ビンタをした。


「この金をあげ――」

「ぶっ殺してやる!」


 説明すらさせてくれなかった。僕はマッチョの拳を一発浴びて、嘔吐しそうになりながら、這う這うの体で逃げ出した。


 ◇


「やあ」と友人が言った。

「やあ」と僕も言った。

「どうだった?」

「全然、駄目だったよ」


 僕は札束ビンタの数々の失敗例を友人に話した。彼は僕の話を聞いて、涙を目の縁に浮かべるほどげらげらと笑った。なんだか、無性に腹が立った。


「世の中には金で買えないものがたくさんあるんだねえ」

「何をのんきに」僕は言った。「こっちは何回も捕まりかけたんだぞ」

「いやあ、ごめんごめん」友人が軽く謝る。「あの札束ビンタの話は、ちょっとしたジョークだったんだ」

「ジョークだって? ふざけるな!」

「いやあ、まさか君が札束ビンタを真に受けるとは思わなかったんだ」


 腹が立った僕は、友人をぶん殴ってやろうと思った。しかし、その前に友人が先手を取って、僕に札束ビンタをした。


「この金をあげるから、札束ビンタの件、許してくれないかな?」

「ふざけるな!」


 僕は友人を殴って逮捕された。僕たちの友情はプライスレスだった。逮捕されたとき、試しに警察官に札束ビンタしてみた。


「このお金あげますので、逮捕するのやめてもらえませんか?」

「君、ふざけてるのかい?」


 許されなかった。


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