006「黒い思惑」
[初心(敗北)表明]
※この作品は設定がザルな為、毎日更新は期待してはならない
※この作品は設定がザルな為、各話で大幅修正不可避と覚悟して臨みましょう
「首尾はどうだ?」
男が従僕に問う。
「万全です」
「うむ」
従僕の返事に満足した男は地下から上がり、屋敷内の自分の書斎へ戻っていった。
書斎に戻った男は一人、誰にともなくひとり語り出す。
「まったく⋯⋯ようやくこの村ともオサラバできる。三年かけて準備したこの計画で私はようやく自由になれる」
男はそう言って、一口ワインを口にする。
「まったく! 何が辺境伯ですか。こんな田舎でずっと終える人生なんて真っ平ごめんですよ! それにしても⋯⋯」
男は眉間に皺を寄せ怒りの表情に変化する。
「父が死んで私が辺境伯の地位を受け継いだ後しばらくしてすぐにマクスウェル家がこの村にやってきたのは恐らく偶然ではないでしょう。あのマクスウェル家が理由もなくこの地に毎年のように滞在するのはどう考えても不自然です。どこまで、いつから、私の『計画』を把握していたのかはわかりませんがやっかいなことに変わりはないですね」
男はもう一度ワインを口にし冷静さを取り戻す。
「まあいいでしょう。多少『計画』にない者が現れたとしてもこれを止めるのは不可能ですしね。あの『騎士の名門マクスウェル家』とて今ここにいるのは、あの『第一騎士団団長』ではなくその息子二人のみ。後は邸宅に常駐している二十人弱の衛兵と国境の騎士団と術士団⋯⋯。あー、あと少々腕の立つリンデンバーグ夫妻くらいですかね。この程度の戦力しかない村には少々『過剰火力』かもしれませんね。くっくっく⋯⋯」
男が口角を上げ、下卑た笑みを浮かべる。
「私が辺境伯になってから度々この村にやってきては事あるごとに分を弁えず、この私に説教などしおって⋯⋯あのクソヤロー共め。しかし、これでやっと、やっと奴らに報いを受けさせることができます。ヒャハハハハハ! 楽しみですね! 楽しみで仕方ない!」
男はさらに下卑た笑いを爆発させる。
「まったく⋯⋯父も私の言う通りにあのクソヤロー共をさっさと追い出していれば父に『瘴気病』を注入して殺すことなんてなかったのですが。まったく⋯⋯それもこれもあのクソヤロー共のせいですね。あいつらのせいで私の父は殺されたようなものです! なんて! なんて非道い連中なんでしょう、マクスウェル家! まったく⋯⋯本当に罪深き連中ですね! ぶつぶつ⋯⋯」
バスケルは自らの手で実の父親を殺した⋯⋯瘴気病を使って。しかし、彼はそれすらもマクスウェル家のせいにしてしまうくらいにはマトモではなかった。
『あら? 妙にごきげんね、バスケルちゃん?』
突然、部屋にピエロの仮面をつけた『黒フードの男』が現れ、バスケルに声を掛ける。
「あー、不可視ですか」
『そうよ。不可視よ。あら? もしかしてバスケルちゃん、明日の計画を前に怖気付いた?』
「笑わせないでください、不可視。逆です。明日、いよいよ私の願い、復讐、すべてが成就される一日になるのです! 今から楽しみで興奮して寝付けないのですよ、不可視! そう⋯⋯まるで両親と初めて行ったピクニックの前夜のように!」
バスケルの常軌を逸する発言に不可視は笑みを零す。
『すばらしい! 実の父親を瘴気病を注入して殺したあなたが吐くセリフではない、だからこそ美しい! あなたがそこまで我欲で狂人であるからこそわたくしはあなたを気に入りました。だから協力は惜しみません!』
「それにしてもあなたとの出会いには感謝してますよ、不可視。あなたとの出会いのおかげで父を殺すことができ、辺境伯になった後の三年間で緻密に隠密に迅速に計画の準備ができたのですから」
「いやね、バスケルちゃん。あなたの優秀さとその良い性格のおかげよ」
「ふ⋯⋯『魔族』のお前にそんなことを言われるとはな」
バスケルが不可視の言葉にニタァァと口角を上げる。
「⋯⋯明日、村人もマクスウェル家もリンデンバーグの二人も魔獣によって村ごと滅ぼされる。しかし、バスケルちゃんは魔獣を殲滅し何とか一人生き残る。そして王都に凱旋し褒賞を受け、地位と名誉と権力を手にする⋯⋯これが筋書きよ?」
「うむ、エレガントなシナリオです、不可視。ああ⋯⋯一応証人が必要ですので村人数名は残さないといけませんよ?」
「くく⋯⋯なるほど、証人ですか。確かに必要ですね、失念してました。さすがね、バスケルちゃん。ちなみにあなたの夢はそんな王都での地位・名誉・権力を手に入れる『程度』ではないでしょう?」
「もちろんです。平民ごときがここまで身の程を知らない社会になったのは政治の失敗に他なりません。ですから私がこの国の国王となり、清く美しいエレガントな身分制度の見直しを徹底的に行います」
バスケルはこの村での平民の自由な暮らしぶりに納得いっていなかった。彼は平民はもっと貴族を敬い、命令には従僕であり続ける平民を求めていたのだ。
「なるほど。私は応援しますよ。ええ、応援しますとも。あなたとなら我が『魔族』ともうまくやっていけると思いますから」
不可視が不敵に笑いながら眼差しを向ける。
「ふむ。まあ、魔族の生き残りがほとんどいないのはわかっている。不可視も魔族の血を絶やしたくないという気持ちもわからんでもない。だが⋯⋯」
バスケルが一拍置く。
「あくまで『こちらが利用してやってる』ということをゆめゆめ忘れるでないぞ? 魔族の生き残りなど本来見つかれば皆殺しの対象だからな?」
そう言って、バスケルが不可視に脅しをかける。
一瞬、わかるかわからないかのレベルで不可視は肩を震わせる。
「もちろんよ、バスケルちゃん。私はあくまであなたの協力者に過ぎないことは重々承知してるわよ」
「ふむ⋯⋯ならばよい。では、明日の用意を頼むぞ」
「はーい! それじゃあね」
そう言うと、不可視はフッとその場から消えた。
「⋯⋯ふむ。やはり不可視もいずれ始末しないといかんな」
バスケルの『計画』がいよいよ動き出す。