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046「リカ・ブリッジストーン」



「⋯⋯なんだ、お前?」

「私か? 私はただの通りすがりの⋯⋯⋯⋯Sランカー冒険者だ」


 そこには『Sランカー冒険者』という言葉と、その背中に背負っている『大剣』が、およそ似つかわない可愛らしい幼女が立っていた。


「っ?! あ、あの方は⋯⋯」


 アリスが突然の訪問者を見て驚きの表情を見せる。そして、次には、


「「「「「Sランカー冒険者の⋯⋯リカ・ブリッジストーンっ!!!!!!!!!!!」」」」」


 生徒全員がその幼女の名前を叫んだ。


「リカ・ブリッジストーン⋯⋯?」

「っ!?」


 アリスは、トーヤがSランカー冒険者リカ・ブリッジストーンの名前を聞いて、一瞬⋯⋯ほんの一瞬ではあるが名前に反応したことに気づく。


「おい、トーヤ・リンデンバーグ。お前の事情は聞いた。一旦、冷静になれ」

「なんだ、お前? お前も貴族連中の仲間か?」

「いや違う。だが、お前がこのまま力を行使するのなら私は止めなきゃならん⋯⋯力ずくで」

「⋯⋯力ずくで? 面白い。やってみろよ?」

「まあ待て。抑えろ。お前はまだその『力』をちゃんと理解していない。その話もちゃんとするから一旦怒りを鎮めろ」

「来ていきなり人を殴ったあんたが何言ってやがる?」

「そうでもしないとお前があの生徒を殺しかねなかったからな」

「ああ。そのつもりだった。どうせ貴族連中は平民というのを『物』か『奴隷』としか見てないからな。だったら俺も逆で同じことをやろうとしたまでだ」

「わかった。わかったから。とりあえず、一旦落ち着いて⋯⋯」

「じゃあ、あんたが言葉通り力ずくで⋯⋯俺を止めてみろよーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!」


 トーヤが今度は膨大な魔力を拳に込め、リカ・ブリッジストーンに殴りかかった⋯⋯が、


「ほいっと」

「な⋯⋯っ?!」


 ドシャ!


 リカ・ブリッジストーンはトーヤの拳を片手で受ける瞬間——その受けた手の腕を体ごと回転させ、拳の勢いそのまま『柔道の一本背負い』の型でトーヤを投げ沈める。そして、同時にトーヤの腕の関節を決め動けなくさせた。


「⋯⋯くっ?! う、動け⋯⋯ない⋯⋯」


 トーヤは全く身動きが取れないでいた。するとその時、リカ・ブリッジストーンがトーヤに耳打ちをする。


(おい、トーヤ・リンデンバーグ。とりあえず私と話しをしろ。これはお前にとっても妹にとっても重要な話なんだ)

(ぐっ⋯⋯い、今のは⋯⋯柔道⋯⋯一本背負い⋯⋯な、なぜ⋯⋯?)

(それも含めて⋯⋯話す)

(⋯⋯わ、わかった)


 スゥゥゥ。


 トーヤの体から発していた青白い魔力のオーラ⋯⋯魔力放出が解かれた。すると、生徒たちの金縛りもすぐに解け、教室が安堵の空気に包まれる。


 そして、トーヤはリカ・ブリッジストーンに後ろから関節を決められたまま立ち上がる。それを見た一般貴族の生徒たちは『トーヤが抑えられた』ということで、


「おい、平民! 貴様、許さないぞっ!」

「そうよ! そうよ! あんたみたいな危険な平民は即刻死刑よ! 覚悟しなさい!」

「レオ・マクラクラン様にあんな仕打ちをしたんだ。貴様は死刑確実だぁぁーーーー!!!!」


 さっきまで、トーヤの威圧に体を1ミリも動かせず恐怖に怯えていた生徒たちが、トーヤに罵声を浴びせまくる。しかし、


「あぁ?」


 ドン!


「「「「うぉあ⋯⋯っ(キャアアアア)!!!!!!!!」」」」


 トーヤは罵声を浴びせた生徒だけに対し、再び魔力放出による威圧をかける。


「お、おおお、おい! 何やってんだSランカー冒険者! さっさとトーヤのそれをやめさせろっ!」


 他の威圧をかけられていない一般貴族の生徒がリカ・ブリッジストーンに指示をする。しかし、


「は? なんでお前みたいなクソガキに私が指図されなきゃいけない? 殺すぞ?」

「⋯⋯え?」


 リカ・ブリッジストーンがさっきのトーヤと同じような殺気を込めた言葉を投げる。生徒はまさかそんな言葉を言われると思っていなかったのか唖然とした。


「今、トーヤ・リンデンバーグを止めたのは別にお前らのためじゃない。私がトーヤ・リンデンバーグと話したいから止めただけだ。もちろん、トーヤ・リンデンバーグとの話し合いが終わればあとは知らん」

「え? え?⋯⋯⋯⋯え」


 生徒はリカ・ブリッジストーンの言葉の意味が理解できたのか次第に顔が真っ青になっていく。そして、それは威圧をかけられている生徒も同じだった。


「⋯⋯お前ら(つら)覚えたからな?」

「「「「ひぃいいいいいいいいいい⋯⋯っ?!」」」」


 そういうとトーヤは威圧を解いた。


「じゃ、いくぞー。トーヤ・リンデンバーグぅ〜」

「わかったから、この手、話せよ」


 二人が去った後の静寂した教室には、和気藹々としたやり取りをするトーヤとリカ・ブリッジストーン二人の声が無駄に響いていた。


 この日、トーヤ・リンデンバーグがキレた一件は、のちに『学校の都市伝説』の一つとして語り継がれることとなる。


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