037「お祭り騒ぎと黒装束の男たち」
「えーと、おーい、みんなー⋯⋯」
前日の『一触即発事件』のとき、アリスがトーヤを『友達だ』という発言をし、その次の日の今朝、廊下でトーヤとアリスが一緒に歩いて⋯⋯しかも『手を繋ぎながら』歩いているということで一年生だけじゃなく学校全体が『お祭り騒ぎ』となっていた。
そして、現在朝のホームルームなのだが皆がチラチラとアリスやトーヤを見続けていて、とてもホームルームを始められる雰囲気ではなかった。
「まー、いろいろと今朝の噂は聞いているが⋯⋯今はホームルームだぞー⋯⋯」
担任のルイス・ヴェルモンテが棒読みレベルの言い方で皆に告げる。
『どうせお前ら、俺の言葉なんて聞かないよな⋯⋯』という声が聞こえてきそうである。すると、
「みんな⋯⋯!」
「「「「「!!!!!!!!!」」」」」
立ち上がって教室の皆に声をかけたのはアリスだった。
「ここは学校であり学び舎だ。そして、ルイス先生は困っている。だから、私やトーヤを見ないでちゃんと先生の話を聞いて欲しい!」
アリスが皆にそう言葉を掛ける⋯⋯が、
「キャーーーーー! トーヤって! ねえ、今⋯⋯トーヤって言ったーーーー!!!!!!!」
「「「「「キャーーーーーーー!!!!!!!!!」」」」」
騒ぎは収まるどころか、さらに油を注ぐ形となった。
まあ当然ではある。しかし、
「ええい! やかましいーーーっ!!!!」
「「「「「っ!!!!!!!!!!!!」」」」」
アリスが⋯⋯キレた。
「私とトーヤのことは別にただの友達でそれだけのことだ! それよりもいい加減バカ騒ぎはやめろ!」
シーン。
『お前がそれ言う?』⋯⋯そんなセリフ、誰も言えるはずもなく、場はやっとで収まりホームルームは再開された。
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「初めまして。私はアリス・グレイス・ガルデニアという。父は国王をやっている⋯⋯」
「「「「「もちろん知っていますっ!!!!!!!!!!!!!」」」」」
——お昼休み
周囲の好奇な目を余所にアリスと一緒に俺たち『平民のテーブル』に案内した。
ていうか、『おい、トーヤ。お前の妹や友達を紹介しろ!』とすごい形相と迫力で半ば強制的に強権を発動されたので連れてきた。
俺は妹のレナ、ミーシャ、そしてオーウェンを紹介⋯⋯する予定だったが、
「お久しぶりです、アリス・グレイス・ガルデニア様⋯⋯」
「おー久しいな、ラウ・リーチェン! あと、フルネームはいいぞ。アリスでいい」
「ですが⋯⋯」
「良い。高校では『身分無礼講』だし、いずれ外でも『身分無礼講』は普及していく。父の一大政策である『平民の身分向上』はそれが目的だからな。だから、名前呼びで⋯⋯あ、いや待て。『様』だけはつけてくれ」
「もちろんです。そのほうが我々も声をかけやすいですから」
「うむ。ただ、まあそれ以外はある程度気さくな話し方で構わないぞ。言い過ぎな時は直接注意するから」
「わかりました。しかしまあ⋯⋯アリス様も大胆なことを始めますね⋯⋯」
「何のことかな?」
「フ⋯⋯フフ⋯⋯」
「フフフ⋯⋯」
「「アハハハハハ⋯⋯」」
二人が何やら意気投合して談笑していた。そしてその横では、
「お兄ちゃん! 話を、じっくり、ちゃんと、聞かせて!」
「トーヤ⋯⋯あの⋯⋯ごめん。理解が追いつかないのだけれど⋯⋯ちょっと⋯⋯混乱してます」
「おい、トーヤ。とりあえず⋯⋯」
「「「どうしてこうなったっ!!!!!!!!!!!!!!」」」
「あ、いや、あの⋯⋯その〜⋯⋯」
まったくだ。本当に『どうしてこうなった』状態である。
ただまあ、さすがに昨日の事情は誰にも言えないので、
「何かわからないけど⋯⋯アリス様が⋯⋯俺と友達になりたいって⋯⋯ハハ⋯⋯」
「「「答えになってない!」」」
ですよねー。
俺が言い訳に困っていると、
「やあ、皆、驚かしてすまないな」
「「「アリス様!!!!!!」」」
アリスがラウと一緒に俺たちのほうにやってきた。
「実はトーヤについてはサイハテ村での噂を聞いててな。そこで興味を持って話しかけたのだ」
そう言って、アリスは俺との『出会いのきっかけ』を話し出した⋯⋯まことしやかに。
「しかし、まあ、その噂は間違いでただの噂だったということがわかったのだが⋯⋯まーそれはそれで個人的にトーヤと友達になりたくてな、それで私から『手を繋ぐほどの仲の良い友達になろう』といったのだ」
話の中に嘘と若干の真実が紛れ込んでいた。
ちなみに、アリスは俺があのエビルドラゴンを倒したことは知っている⋯⋯その上で『他の人には黙ってて欲しい』と頼んだので、アリスはその約束を守って話していた。
しかし、それにしても⋯⋯さすがに『苦しい説明じゃないか』と思ったが、
「す、すすすす、すごい⋯⋯お、お兄ちゃんが⋯⋯アリス王女様から好かれるなんて⋯⋯」
「ほ、本当ですー! トーヤ、すごいよ!」
レナとミーシャはアリスの話を完全に信じ切っていた。
「いやはや⋯⋯すごいよ、トーヤ! アリス様、今後ともトーヤをよろしくお願いします」
オーウェンでさえも完全に信じ切っているようだ。
やはり、身分がかなり上の人の話であれば皆信じるんだな、といろいろ勉強になった。
「ちなみに君たちも平民だからといってかしこまり過ぎなくていいからな。『身分無礼講』⋯⋯これは私の父、国王が支持する政策なのだから」
「「「はい、わかりました。ありがとうございます!」」」
三人が元気よくアリスに返事をした。
こうして、レナ、ミーシャ、オーウェンたちへのアリスの紹介も無事何事もなく終えた。
——???
「おい、アリスとあのトーヤ・リンデンバーグの関係はどういうことだ?」
黒の装束で身を包む男が厳しい口調で質問をした。
「さ、さあ⋯⋯我々もまだよくわかっていない状況でありまして⋯⋯」
一人の⋯⋯これまた黒装束の男が若干、しどろもどろに答える。
「トーヤ・リンデンバーグ⋯⋯あいつは一体何者なんだっ?!」
別の黒装束の男が声を荒らげる。すると、
「***様。今はまだ何もわかっていない状況ですので情報を集めています。なので、もう少し⋯⋯お待ちください」
声を荒らげた男に相反するような冷静な口調で淡々と説明をする、また別の黒装束の男。
「お前⋯⋯相変わらず冷静な言い方をするがわかってるのか? これまで我々の計画通りに事が運んでいたのに、ここにきて異分子のトーヤ・リンデンバーグが現れ、しかもアリス王女と関係を持ったのだぞ! しかも、話に聞くとアリス王女からトーヤ・リンデンバーグに近づいたというではないか! まったく⋯⋯何が何やらわからん!」
声を荒らげた身分が高そうな男がさらに声を張る。
「まあ待て、***。***の言う通り、まだ情報が少ないのは確かだ。迂闊には動けん。それに⋯⋯アリスのことだ⋯⋯何か思惑があるやもしれん」
最初、厳しめな口調で質問をした男が宥める。
「⋯⋯はい。なので、まずは情報を集めるのを最優先とします。そして、情報が集まり詳細が分かり次第、すぐにご報告いたします」
先ほどと同じように淡々と冷静に話す黒装束の男がそのように告げると、
「わかった。***にまかせる。それとアリスと同学年にいる***、お前は今後もその情報収集を密に行え、よいな?」
「は、はは、はい! 承知いたしました!!」
しどろもどろに話す男に、この中で一番身分の高そうな男がまた厳しめな口調で命令をする。
「⋯⋯では、今日の集会は終了だ。情報が集まり次第、すぐに報告するように。以上!」
「「かしこまりました!!!」」
そうして黒装束の男たちは闇に消えていった。
10万文字達成。
これから、また少し投稿がゆっくりとなります。