023「ミーシャの告白」
「あのエビルドラゴンをやっつけたのはトーヤだったの!!」
「なっ!?」
ミーシャが真剣な眼差しで言葉を放つ。
オーウェンはそのミーシャのまっすぐな瞳を見て、いかに決意してその言葉を発したのかを理解した。しかし、
「ま、まさか⋯⋯そんな馬鹿な?! だって、トーヤはその時は避難場所に⋯⋯」
「いなかったわ! トーヤは避難場所にいなかったの! トーヤは避難場所へ向かう途中列からいなくなってたの。それに気づいた私はもしかしたら村に向かったのかって⋯⋯三人のところに行ったんじゃないかって。それで私も皆を避難場所へ誘導した後、村に戻ったの」
「な、なんて無茶を⋯⋯っ! それにミーシャは魔獣のトラウマが⋯⋯」
「うん。でも、その時はそんなことよりもトーヤのことが心配で⋯⋯。気づいたら村に向かって走ってた」
「ミーシャ⋯⋯」
オーウェンはミーシャの魔獣に対してのトラウマをよく知っている。
そんなミーシャのトラウマを払拭させるほど心配させたトーヤに、
「⋯⋯トーヤの奴モテモテだな」
オーウェンはクスッと笑う。
「?? オーウェン君?」
しかし、そんなオーウェンの余裕はミーシャの話を聞いて一切無くなる。
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「⋯⋯村に着くと魔獣が見えたからそれで私、見つからないよう隠れながら三人のところへ向かったの。そしたら、三人のところにフラフラと向かうトーヤをみつけたの」
「ト、トーヤが⋯⋯僕たちのところに来てたのか?」
「うん。それでトーヤに気づいたバスケル辺境伯様が話しかけながら近づいてきたの。そしたら『三人とも今は気絶しているだけだ』みたいなこと言ってた⋯⋯」
「っ?!」
オーウェンはミーシャの言葉に驚愕する。
というのも、あの時三人のうち最後まで立っていたのはオーウェンだったので二人が気絶して倒れていたことは覚えており、その後自分も気絶したのでその場に三人が倒れていたことを知っているのは現場で直接見た者だけだ。
つまり⋯⋯ミーシャが言っていることは、
「ほ、本当に⋯⋯本当にミーシャもその場にいたんだね」
「⋯⋯うん」
オーウェンが少し考え込む。
(それが本当なら最初に言ってた「エビルドラゴンを倒したのはトーヤ」という話が本当だと言うのか? しかし、そんなことはあり得ない! 今だってトーヤの魔力は相変わらず普通の平民よりも微弱にしか感じられない。そんな微弱な魔力でバスケルやエビルドラゴンを倒すなんて絶対に無理だ。だけど⋯⋯)
オーウェンが一人考え込む横でミーシャは話を続ける。
「そしたらね、バスケル辺境伯様が『三人一緒に殺してやる』みたいなことを言い出したの。するとエビルドラゴンの口が開いてトーヤと三人に向けてデッカイ炎を吐いたの」
「エ、エビルドラゴンが炎を吐いただって⋯⋯っ?!!!!!」
「う、うん⋯⋯」
「ば、馬鹿な⋯⋯エビルドラゴンが炎を吐いたのなら僕たちなんて一瞬で焼かれる。万が一助かったとしても大火傷どころの騒ぎじゃない⋯⋯」
「私もそれを見てもうダメだと思ったの。で、でも⋯⋯でもね⋯⋯三人に炎が届く直前にね、トーヤがひと吹きでエビルドラゴンの炎を消したの」
「⋯⋯は?」
「だ、だから! トーヤがエビルドラゴンの炎をこう⋯⋯フッと息を吹きかけただけで炎が消えたのぉぉぉーーーーーーっ!!!!!」
ミーシャがここ一番で大声を上げて主張した。
「あ、あの⋯⋯ミーシャ⋯⋯さん?」
「ほ、本当だってばぁーーーーーー!!!!!」
「い、いやいやいやいやいやいやいやいや⋯⋯ミーシャ。それは流石にいくら何でも⋯⋯」
オーウェンはミーシャの言っていることを受け入れることはできなかった。
当然だろう。トーヤの魔力量は平民の中でも少ない魔力量しかない。
それに、身体能力も周囲の同級生よりもかなり落ちる。
そんなトーヤがBランカーのエビルドラゴンの炎を消すなど⋯⋯ましてや『息を吹きかけた』だけで消すなどあり得ない話なのだ。
オーウェンはそんなミーシャの言葉に困惑していたがミーシャはさらに話を続ける。
そして、その話を聞いたオーウェンはさらに驚愕することとなる。
「⋯⋯そしたらね、今度はバスケル辺境伯様が『黒い石』を出してエビルドラゴンに話かけたの」
「っ!?⋯⋯い、今『黒い石』て言った?」
「?? うん」
ミーシャの口から『黒い石』という言葉が出てきた。
その『黒い石』については現在、関係者以外口外禁止という『緘口令』が敷かれている。
なのに、ミーシャの口から『黒い石』という単語が出てきたということは⋯⋯実際に現場で見たことを意味する。
「それでね、その『黒い石』から黒いモヤモヤがワーっていっぱい出てきて、それがエビルドラゴンに纏わりついたの」
「黒いモヤモヤ⋯⋯?」
「うん。でね、そのモヤモヤがエビルドラゴンの周囲に集まった後、石が割れたの」
「⋯⋯」
ミーシャの話はオーウェンどころか調査班ですら知らない情報だった。
「そしたらね、黒くなったエビルドラゴンが爪でバスケル辺境伯様の首を飛ばしたの」
「黒くなったエビルドラゴン?」
「うん。そしたら次に黒いエビルドラゴンがトーヤに迫ったの。でも、トーヤは冷静で⋯⋯そして、何かエビルドラゴンに話しかけたと思ったら、何か⋯⋯なんていうか⋯⋯」
「?? ミーシャ?」
「トーヤの体からね、目に見えない圧みたいなのがドーンて! そしたらエビルドラゴンが一瞬立ちすくんだの」
「なっ! エビルドラゴンが⋯⋯っ?!」
そ、そんな馬鹿な。
ミーシャが言っているのは恐らく『気迫』のことだろう。
しかし、Bランカーのエビルドラゴンが怯むほどの気迫をトーヤが放つなんて⋯⋯そんなことできるわけ⋯⋯、
「それで、トーヤが今度は右手をエビルドラゴンにかざしたんだけど、そしたらその手から物凄い明るい光がカッて出たの。すごく眩しかったから私、目を瞑ったんだけど次に目を開けときにはエビルドラゴンの上半身は消えてたの」
「ひ、光? その光でトーヤがエビルドラゴンを消滅させた、てこと?」
「⋯⋯うん、たぶん」
「そ、そんな⋯⋯馬鹿な⋯⋯」
信じられない。
あまりにも荒唐無稽過ぎて。
だけど、ミーシャが嘘を言っているようには見えないし⋯⋯それに一般人には伏せている『黒い石』の存在を彼女は口にした。
トーヤがエビルドラゴンを消滅させた。
そんなことが⋯⋯本当に可能なのだろうか?
「ミーシャ⋯⋯」
「っ!! は、はい!」
オーウェンがミーシャの肩に両手をかけた。
ミーシャが照れ臭そうな反応をする。
「この事は僕以外の人に絶対に話しちゃダメだよ」
「う、うん」
「両親はもちろん、アリアナ先生やレナ、トーヤ本人も含めて誰にもこの話はしちゃダメだ。この事は二人だけの秘密にしておく。いいね?」
「わ、わかった」
「とりあえず、僕が一人で調べてみる。だからミーシャはこの事を誰にも気づかれないようにいつもどおりにしていてね」
「う、うん。わかった」
オーウェンはミーシャの話をまだ受け入れられずにいたが、ミーシャが知らないはずの『黒い石』の話をしたこと、話の『辻褄が合っていること』を受け、とりあえず独自に調べてみることにした。