峠の道
第二章 峠の道
私は、駅舎後地のベンチから見える遠くの山並を見ていると、ふとこの山の向こうの大きな集落の事を思い出していた。
送迎
自動車と言う交通手段が発達していない時代に鉄道は、地域の交通を担って居た。
穏やかでのんびりとして花に囲まれた静かな山の駅だが地域にとって鉄道は、大切な人々の足であった。
当然の事ながら山の向こうの集落の人々は、通勤や通学の為に峠を越えて駅を利用していたのだ。
私が着任してから気が付かされたのだが、駅員と通勤・通学客は、無論の事、一般の利用客や地域の人々達との濃厚な付き合いが有ったのだ。
それだけ鉄道という交通手段が重要だったのである。当然駅を利用するお客様も多く朝から晩まで利用客が絶える事は無かった。
良し悪しは、別にして国鉄一家の見本みたいな小さな山の駅に私は、赴任したのだ。
私の見習いの先生は、美野志郎という一番若手の先輩だった。
私は、美野先輩に教えられたとおり、がむしゃらに仕事を覚えると同時に駅を利用するお客様に親切丁寧な応対に心掛けた。
それが駅是と思ったからだ。その一例がある。
私が着任して、暫く経った頃、下りの最終列車で女子高校生が二人降りた。
私は、最終列車で降りた荷物を整理していると出札担当の美野先輩が窓口を閉め当務の山北さんに
「当務さん、ちょっと出かけて来ますから」
と言って自転車を押して出て行った。私は、訳が判らずに
「当務さん、美野先輩は、こんな晩くにどこに行かれたのです」
と聞くと山北さんは、笑みを浮かべながら説明してくれた。
「それはね、この駅では、最終で女子高生が帰って来て迎えが無い場合には、ほら、あの向こうの峠まで駅員が送っていっているのさ」
「何故駅員が?」
「それはね、駅も地域社会の住人だからだよ」
「それは、判りますけど、今迄も、ずっーとしていたのですか」
「いや、昨年の八月の半ばからだよ」
「何か有ったのですか」
すると山北さんは、声をひそめる様に
「実は、昨年の八月の十日だったかな、今日の様に二人の女子高生が最終で帰って来て、二人だから大丈夫と言う事で親の迎えを断って二人で帰って行ったが、何時まで待っても帰って来ない。心配した親から夜中に電話が入り宿直していた二人も捜しに出ていくと峠の畑の中で二人が泣いて居たそうだ。その事があって最終で帰った子で家族の迎えが無い女の子は、峠の向こうの集落迄送って居るのさ」
「その様な事件があったのですか」
「以前から、あの峠には、悪戯者が出るとは、聞いていたけど、あの事件は、特別だったから」
「犯人は、捕まったのですか?」
「それがなぁー犯人は、判らずじまいと言うか、高校生の男の子が四・五人いたらしいが、被害者が口をつぐんで何も言わなかった。多分知り合いがいたのかも知れなし、それに親も警察には、届け無かったんだ」
「悲しい事件ですね」
「それからだよ、この様な事件は、二度と起こしてはならない。と言う事で駅も協力する事になったのだ、君もこれからは、若いから頼む事になると思う」
山北さんの言われた通り私も三回程自転車を押しながら送って行った事がある。
それは、私が着任し見習いもすんで一カ月程経った。ある日、私は、下りの最終列車で降りた荷物を整理していると出札担当の美野先輩が
「山方君、荷物の整理は、しておくからこちらの二人を送って行ってくれないか」
「エッ私が、ですか」
「そうだよ、君も初めてだし、今迄二人以上の人数がいなかったから、今日は、二人いるから変な気も起きないだろう」
「止めて下さいよ、私は、変な事は、しませんよ」
「若い者は、判らんぞ、何しろ相手は、女子高生だから、おい君達も誘惑なぞするなよ」
「まあぁー」
と二人は、顔を見合わせると下を向きながらケラケラと笑った。
美野先輩は、笑顔で冗談を言いながらも私に二人の女子高生を紹介してくれた。
「藤田さん・薮本さん今日は、この山方君が送ってくれるからね」
二人は、笑顔で声を合わせる様に
「よろしくお願いします」
私は、二人に頭を下げると自転車を取り出し二人と並んで駅を出た。
まだ自動車も少なくて駅前の国道も舗装されていない時代だった。
国道を少し行くと峠に通ずる脇道に入る。峠迄の山道は、急な坂道とカーブの多い砂利道だった。
三人は、駅を出て国道から脇道を少し行くと急な坂道にかかる。
私が自転車を押しながら少し遅れると藤田と紹介をされた子が
「重いでしょ、御免なさいね、私達の為に」
「大した事は、ないよ、自転車がないと帰りが困るからね」
これを機に私と藤田さんは、会話を始め出したが薮本さんは、時折相槌を打つぐらいであった。
明かりの無い真っ暗な山道を懐中電灯の光を頼りに上がって行くのだ。三人の間に妙な連帯感が生まれて来るのも不思議ではない。
私達は、雑談をしながら上って行く、途中大きなカーブを越えると峠の頂上付近に有る街灯の光が木立の合間にチラホラと見え出して来た。
すると藤田さんが私に話しかける様に
「あの街灯も今年になって付いたのよ」
「エッ、今年になって、じゃーそれまでは、真っ暗だったの」
「そうよ、昨年あそこで事件が起きて集落の人達が要請してからよ、それもたった二か所だけ」
「私も聞いたけどその後、その人達は、どうしたの」
「噂が立っちゃってね、暫くして二人共親戚を頼って都会に出て行ったわ」
「学校は、どうしたの」
「止めたのよ、私と違って二人共頭も良いし勉強も良く出来ていたのに」
すると今迄黙って聞いて居た薮本さんが
「悪いのは、男よ、佳恵ちゃんは、学校の先生になるのが夢だったのに、あいつらが、その夢を壊したのよ」
すると藤田さんが慌てて
「駄目よ、幸ちゃんそれを言っては」
「だって、佳恵ちゃんが可哀想だもの」
「貴方達が仲良しだったのは、判るけど二人の親からも口止めされているのよ」
「親も親よ、相手が判って居るのに黙って居るなんて、ね、だからあんな噂を立てられるのよ」
「もう止めましょう、御免なさいね変な話を聞かせて」
「うぅん、いいよ、私も先輩からあらまし聞いて居るから」
「駅員さんも、あの噂を聞いているの」
「どの様な噂かは、私も詳しい事は、聞いて居ないけど、事件に成らなかった事は、加害者と被害者が知り合いで、有る程度合意があったからだ。と聞いて居るけど」
すると薮本さんが怒った様に
「違うわよ、佳恵ちゃんは、あいつらと付き合う様な事はしないわ、けど親が負けたのよ」
「私も詳しくは、聞いて居ないけど、親が負けたって、誰に負けたの」
「町会議員によ、あいつら事件に成るのを恐れて知り合いの議員に口利きを頼んだのよ」
「でも、親も娘を傷者にされたのだから、黙って居ないだろう」
「そうよ、普通は、ね、しかしあそこの親は、違ったのよ、だからあんなお金にからむ噂が立ったのよ、雪絵さんも佳恵ちゃんも、親と喧嘩して家出同然の様にして都会に出ていったのよ。私も卒業したら都会に出て就職するわ、間違ってもこんな他人の顔色ばかり気にして生活をしなければならない田舎には、居たくないわ」
それっきり二人共黙り込んでしまった。私は、普段は、朗らかな彼女達の別の一面を見た様な思いがした。
峠の頂上付近は、平坦で、其処から先は集落まで長い緩やかな下り勾配となる。
確かに自転車で越えるのは、体力が要ると思いながら私は、二人の会話を聞き、事件として扱われず被害者も泣き寝入りしたと言う事の裏に隠されている。この事件の罪深さに驚いた。
それっきり会話も無く峠を越え民家の前迄来ると藤田さんが私に
「駅員さん、有難う御座いました。此処まで来れば大丈夫ですから」
「ここで、良いのかい。じゃー私は、帰るけど二人共大丈夫だね」
すると二人共口を合わせて
「有難う駅員さんも気をつけて帰ってね」
私は、自転車に乗ると暗い自転車の明かりを頼りに峠を目指した。
集落から峠までは、自転車で乗って行く事が出来たが頂上から駅までは、急な坂道とカーブの連続である。
その上街灯もなく左側は、深い谷に成っていておまけに砂利道である。
私は坂道を降りながら
「こりゃー降りる時には、余程気をつけないと、一つ間違うと谷底いきだなぁー」
と思いながら降りて行った。駅に着くと美野先輩が
「どうだった。思ったより重労働だろう」
「そうですね、自転車を峠迄上げるのは、力が要りますね」
「そうだろう、これからは、君の役目になると思うからしっかり頼むよ」
私は、美野先輩の言葉を聞きながら
「そうだろうなぁーあの坂は、きつ過ぎるよなぁー」
と思った。
四人乗り
この頃の私は、百二十五CCの小さなオ―トバイに乗って居て、着任して三ケ月程してバイク通勤に切り替えた。
理由の一つには、通勤時間の短縮とこの自転車の送迎もあるのかも知れない。
何しろバイクだと彼女達を送って行くのに便利だからである。
事実バイクがあれば送って行くのに苦にならないし気軽に対応も出来るし時間短縮にもなる。
しかしそれだけに交通違反を繰り返す事に成った。つまり乗車定員二人のバイクなのに三人乗る事が、再々あったのだ。
それでも違反しているという意識は、なかったが、違反と言えば、後にも先にも四人乗りを一回した事がある。
その日は、最終列車で三人の女子高生が降りて来て、その内の一人で日頃よく話をする小柄の可愛い女の子が私に
「送って欲しいのだけど」
と申し出た。私は
「三人かい。一人待つ事になるけど」
と言うと三人は、相談していたが私に
「オートバイに全員乗りたいのだけど」
「ウーン私も四人乗りはした事無いのだが、乗るとなると一人は、ガソリンタンクの上にしか乗れないし、その場合でも視界を確保する為にうつ伏せで乗る事になるけど」
「それで良いわ、私が前に乗るから」
と言うので、私は、当務駅長に了解を得るとバイクを引き出し先に女の子二人を乗せ私が乗り残った彼女に手を差し伸べタンクの上に乗せると彼女を後ろから抱き締める様にハンドルを握る。そして彼女に
「悪いけどしゃがんでハンドルの元をしっかり握って居てくれる」
彼女は、私の言う通りタンクにしゃがみ込む様な姿勢でお尻を私の股間に押しつけてきた。
私は三人を乗せるとゆっくりとバイクを走らせだした。
駅前の広場から砂利道の国道を少し走り峠に続く脇道に入ると曲がりくねった急な坂道を、峠を目指して上がって行った。
バイクの振動とカーブの為タンク上の彼女は、ずり落ちて来て、その可愛いお尻を私の股間に押し付けて来る。
後ろに乗って居る子は、落ちない様に私やバンドを引き締めて来る。
それでも私は、一生懸命運転をした。何しろ運転を誤れば谷底行きだ。
バイクが峠の頂上近くになると道も平坦に成り、これから集落迄は、長い緩やかな下り道だ。
此処まで上がると正直言って、少しホッとした。何しろ小さなバイクに四人乗りをして急な山道を登って来たのだ。
私の前に乗っている子は、タンクにしがみつく様にお尻を私に押し付けて乗って居る。
後ろの一人は、両手で私に抱きつく様にしているしその後ろに乗っている子は、私のバンドを握り締めて後ろから絞めつける。
さすがに前後から若鮎の様なピチピチの女子高生に接触すれば二十歳の健康な男子とすれば意識しない方がおかしい。
私もバイクに四人乗車した時は、緊張の為に意敷きしなかったが少し走って峠の頂上に差し掛かる頃には、気持ちも落ち着くと同時に身体の方が反応をしだした。
何しろ女子高生に前後が密着しているのだ。それにタンクの上に乗っている女の子がカーブと振動の為に少しずつ、ずり落ちてきて私の股間にその可愛いお尻を押し付ける。
私は一瞬心の中で
「やばぁー、このままだと勃起してしまう」
と思ったが健康な青年の生理現象が止まる訳がない。
峠の頂上を過ぎる頃には、ギンギラギンになった股間を彼女の可愛いお尻に押し付けていた。
この兆候は、身体が密着している彼女にも伝わって居ると思うと恥ずかしい気持ちになったが口には、出せなかった。
それでも彼女は、動かなかった。私は、股間が勃起したまま峠を降りて行った。
前方に民家の明かりが見え出した時に彼女は、何かを確かめる様に、お尻を揺すった。
長い坂道を降りて民家の前でバイクを止めると後ろの二人が降り私が降りると私は、タンクに、またがって乗って居る彼女に手を差し伸べ降ろすと彼女は、呟く様に只一言
「有難う」
と言った。後ろに乗って居た二人は、興奮してはしゃいでいたが、彼女は、それっきり顔を上げ様としなかった。
三人を降ろし駅への帰り道は、妄想の渦が頭を支配していた。
次に彼女に逢った時は、少し気恥ずかしい思いが有ったが、彼女は、はにかむ様な笑顔を見せながら挨拶をすると私との会話を避ける様に離れて行った。
その日以来彼女は、毎日の挨拶は、しても私や他の駅員と会話をする事はなかった。
無理も無い。きさくで誠実であり親切な駅員さんと思って居たのに、一皮剥けば男の本性を見せつける、いや、押しつけられたのだ。
不信感を持たれても仕方ないと思った。
松茸の返礼
記憶に残る送迎と言えば、バイクを止めて軽四の二ドアタイプに乗り換えた頃に最終列車で二人の娘さんが降りて来た。
内一人は、名字を藤田といい高校に在学中は、送って行った事のある娘さんで今年高校を卒業して四駅先の市内に勤めている。
もう一人は、見た事のない娘さんだった。最近は、車が増えた勢もあって滅多と送迎は、無くなったが、この二人は、上りの最終列車が出ても、まだ待合室で相談していた。
私は、顔見知りの娘に
「藤田さん、今日は、どうしたの、迎えが来ないのかい」
「はい、今お家に電話をしたら、お母さんが、お父さんは、不幸が出来たから、今日は、迎えに行けないからタクシーで帰りなさい。と言われたのよ」
「それでタクシーは、来るのかい」
「それがねっ、この人もタクシーで帰るのだけどタクシーが事故で来れない。と言うのよ、家に泊まりなさいと言ったのだけど用事があるからタクシーを待つわ、て言うけどタクシーが来るのが早くても十二時を過ぎると言うのよ、山方さん送って呉れない」
「良いけど、私は、そちらの人のお家を知らないよ」
「私の家から少し奥に行った所よ」
「そうかい、少し待っててね」
と言って私は、当務に了解を貰うと軽四を引っ張りだした。
二人を乗せたが後ろの席に乗ったのは、知らない方の娘さんで助手席には、藤田さんだった。
私は、当然先に降りるので助手席に乗車したものと思った。
車は、峠を越えて集落に入り橋を渡ると左に折れ少し行くと藤田さんの家の前に着く
「ほら、着いたよ」
「有難う、山方さん、お願いね、この子必ずお家まで送って行ってね」
と車を降りる時に念を押す、私は、えらく念を押すなぁーと思ったがその時は、判らずに
「分っているよ、家まで送って行くからね」
私は、藤田さんを降ろすと川上に向かって車を走らせながら後ろの彼女に
「君ねっ、私は、君の家を知らないから近くまで来たら教えてくれる」
「はい、すみません送って貰って、家は、もう少し先です」
それから暫く車を走らせ再度彼女に
「まだかい、もう少し行くと家が無くなるけど」
と尋ねたが彼女からは、返事が無かった。とうとう集落外れまで来て二股の交差点まで来て私は、車を止めて後ろの彼女に
「これから先は、左は添田、右は山の上の集落しかないが君の家は、どちらだい。心配しないで降りろとは、言わないから」
「すみません、山の上です」
と消え入る様に言う
「そうか、山の上か」
と言って右にハンドルを切った。此処から先は、急で細い山道を三キロ程行くと妙見神社があり私は、この神社に上がった事はあるが途中脇道に入る山の上集落には、行った事は無い。
山の上集落までの道は、初めての道であり慎重に車を走らせながら
「失礼だけど君は、小学校の時は、この道を通ったの」
「いいえ、別に近道が有るの、この道は、自動車が通るだけなの」
「そうなの、今山の上集落には、何軒在るの」
「今は、五軒在ります」
「車を回す所があるかな」
「私の家の前に広場が有ります」
車は、急な坂道を上がって行き前方にチラチラと明かりが見え出した。
程なく民家の前を通り過ぎたが明かりは、点いて居ない。
「この家は、無人なの」
「はい、もう五年前に山を降りたそうです。私の家は、この先二軒目です」
私は、彼女の家の前で車を止めてドアを開いた。すると彼女の家から両親が出て来て
「まあまあ、駅員さんですか、わざわざ送って貰ってすみませんでした」
と両親が丁寧にお礼を言う、母親が娘に
「心配していたんだよ。タクシー屋に電話したらタクシーは動いて居ないと言うしお父さんとどうしようと相談していたら先程藤田さんから電話があって駅員さんに送って貰って居るから間も無く着くと思いますと言うから待っていた所だよ」
私は、父親が紙包を渡そうとするのをきっぱりと断ると
「確かに娘さんをお届けしましたよ、それでは失礼します」
と言って車を出した。さすがに山の上集落だ、星空が特別綺麗に見えた。
駅に帰ると事務室は、明かりを落としてあり私は、台所の横戸を開けて宿直室に入ると寝ていた山北さんが
「えらく遅かったね、先程まで高野さんと山方君は、えらく帰りが遅いが娘っ子を乗せて行ったから、そのお礼にと娘っ子に乗って居るのかな、と話をしていたところだ」
「やめてくださいよ、あの子を山の上迄送っていったんですよ」
「山の上ってあの妙見神社の近くの集落かい」
「そうです」
「あの娘っ子山の上集落の娘だったのか」
「そうです」
「よく、この夜更けに山の上迄上がったなぁー」
「命がけでしたよ」
「そうだろうね、細くて急な山道が三~四キロも続くんだろ」
「そうです、ライトだけが頼りでした」
「そいつは、ご苦労さんだったね。もう遅いから寝よう」
その日から三日後の勤務の日に出勤すると台所の土間に古ぼけた背負い竹籠が置いてあり松茸がぎっしりと入って居た。すると山北さんが私に
「今朝の上りの始発に乗ったお客さんが置いて行ったものだが、先日娘が駅員さんに家まで送って貰って助かりました。これは、粗末な物ですが先日の駅員さんにとお持ちしました。君によろしくお伝えください。としきりに礼をいっていたよ」
「これを私に、ですか、いくら山の上が松茸の産地と言ってもこれは、多すぎますよ、私は、ただ娘さんを送って行っただけですよ、頂く訳にはいきません、皆さんで分けて下さいよ」
「良いのかい。君に渡してくれと言われたのだよ」
「だったら、私が貰った事にして皆さんで分けて下さいよ、お願いしますよ」
と言って半分を分けて残り半分は、その日の晩酌のつまみは、松茸と決まった。
が松茸を肴にして酒など飲むものではない。確かに七輪で一本二本焼いて食べるのは、良いけれど、十本も十五本も食べながら酒を飲むと悪酔いして気分が悪くなる。そのうち全員が反吐を吐いた。
ただで、美味いからと言って食べ過ぎは、良くないと痛感した。