第三章 三十五話
ダークはイーシーの死をなんとなく噛み砕いて飲みこんだ状態でテンラから貰った服を着て外に出ていた。だが、街の人は忙しそうにしており、なんでもハーフエルフとエルフが集まってこれからを話し合うのだとか。
「俺は口出す権利無いし、炎上した家でも行ってみるか」
ダークは一人、坂を登って二度目の元村長の家に向かった。朝の坂はのんきな風が吹いており、ダークは朝の散歩には持ってこいの場所じゃないかと少し気分が良くなった。
「ほんとだ、燃えカスだらけじゃないか」
ダークは燃えた家を見て、そう呟いた。先ほどの爽やかな気分は消え、ダークはふらふらと家に近づいていく。家があった場所はただの黒くなった木材が積み重なった山と化しており、残っているものなど無いといった感じだった。
話では深夜に炎上し、すぐに気づいた本村のエルフが水魔法で消火させたおかげで森には燃え広がらなかったらしい。
「そういえば地下室にナキを置いてったけどまさか一緒に燃えたなんてことは……」
ダークの脳裏に嫌な想像が生まれ、急いで家の庭にあるその地下室への入り口を記憶を頼りに探し出し、開けてみた。
「ゴホッゴホッ!」
黒い煙がまるで一斉に溢れ出し、ダークはむせてしまう。仕方なく、庭に腰を降ろすと黒い煙が全部出ていくのを待っていた。
「ダークさん! こんなところで何をしているんですか?」
「お、レイリーじゃん」
ダークが一人、意識をどこかに飛ばしながら黒い煙を見ていると不意に背後からレイリーが声を掛けてきた。ダークは特に驚いた様子もなく、手を上げ挨拶をするとレイリーはダークの隣に座った。
レイリーは貧相な服から明人から貰った白いシャツの上に緑色のチャックが無いジャンパーのようなものを羽織っていた。
「レイリーじゃんじゃ無いですよ、ご飯も食べずに出ていったってクローバーさんが心配してましたよ」
「本当かよ、どうせ鼻くそほじりながらだろ」
「クローバーさんの印象が酷くありませんか!?」
ダークはあの勇者の事はただの気絶する口うるさいだけの女という認識で落ち着いてしまっていた。だが、レイリーはそれではクローバーさんが可哀想です! と良い子な事を言ってきてダークは悪かった悪かったと黒い煙を見ながら謝った。
「もう、せっかくご飯持ってきたのに」
そう言いながらレイリーが出したのは綺麗な緑色の葉っぱと謎の赤い肉が挟まったパンだった。
「それ何の肉?」
「多分、豚ですよ、エルフのみなさんは豚を飼ってますので」
「誰が作った?」
「クローバーさんです」
「一気に食う気が無くなった」
「ええ!?」
「冗談だ、さすがに作ってもらって悪いからな、カエルじゃなきゃいい」
「なら良かったです」
ダークはレイリーからそのパンを貰うと一口頬張った。謎の葉っぱはシャキシャキとしており、肉も噛みやすく濃厚な味わいだった。だが、ダークはどこかで食ったことがあるなと思ったが豚肉はこちらの世界と一緒なのかもしれないなと考え、パンはみるみる内に無くなった。
「お腹空いてるなら食べてから行ってくださいね」
「ああ、悪かったな、そういえば俺ら、野宿と狩りばっかで心配したことなかったけどこのパンとかの代金は?」
「えっとですね……言い辛いんですが、全部テンラさんが出してくれました」
「あいつ、金なんかほとんど無いだろうに……」
「なんでも父の財産を貰ってはいたそうなんですが、イーシーというエルフから買い求める以外使い道が無くてかなり有り余ってるそうです」
「でも、それを旅の食費につぎ込むのはな……」
せっかくテンラのお父さんが自分の娘のために残した財産をダークたちで使い潰すのは気が引け、早いうちに旅を再開させた方が良いなと思い、立ち上がった。
「んじゃま、俺はこの下、調べるけど、レイリーはどうする?」
「ダークさんが無茶しないように付いていきます」
「そんな心配しなくても大丈夫だって、俺的には俺が何かあった時のために地上に残っててほしいんだけど……その顔は断固拒否の顔だな、よし、付いてこい」
「はい!」
ジト目でこちらを見ていたレイリーにダークは仕方ないかと諦めた様子で黒い煙が出切った地下に降りていった。
「中に焦げた木材が落ちまくってて危ないな……」
ダークは地下に降りると焦げた木材をどかしながら奥に進んでいく。目的はナキの安否だ。後、ついでに人形の部屋を覗いていくかと考えた。人形の山は木製だったはず。何か、燃え残っているものがあるかもしれないという考えだった。
「ナキさん! ナキさん!」
ダークは居るかもしれないナキを呼びかけながらナキを置いた場所に着いた。そこには黒焦げの死体などはなく、何か無かった。ダークはナキが燃え死んでいない事が分かり、安堵の息を吐いた。




