第三章 三十四話
鳥のさえずりが聞こえ、ダークは目を覚ます。そこは一人用のベッドだったが、お詫びと言う事もあり、少し立派な寝床だった。木の良い匂いに広いベッド。毛布も羽毛だった。更におしゃれな松明……松明は別におしゃれではないが良い感じの明るさでダークは久々に落ち着いていた。
だが、全員個室というわけにもいかず、隣にはイグゼムが寝ていたのだが、このイグゼム、イーシーを断頭し、俺は居ない方が良いだろうとどこかに行こうとした瞬間、疲れの限界が来たのか、突然、地面に倒れ伏したのだった。
そして、エルフは彼を見ると怯えるのでダークが引き取る事にしたのだが、ダークはこの男に少し困っていた。
「臭い……あの砂漠であった女性と別ベクトルで臭い」
そう、彼はレイリーの話から三年間あの洞窟に居たらしいのでかなり臭かったのだ。だから落ち着けたのは実質寝ている間だった。起きれば生ごみの様な匂いがダークの鼻を襲った。
「あのお、そろそろ起きてお風呂でも行ってくださいよー」
「がぁああ」
だが、イグゼムは起きない。もうこのまま起きないんじゃないかと思えるほどだ。ダークはイグゼムの耳元まで顔を近づける勇気はなく、呼び起こそうとした。
「すいません! イグゼムさん!!」
「があああ」
「すいません!!!」
「ごおおおお」
「イグゼムさん!!!」
「ぐぅぅうぅ」
「起きろって言ってんだろうがぁ!」
「がぁ!?」
最終的に切れてポケットに入っていた石を投げてしまい、額に直撃した。イグゼムは額を押さえて痛がるがすぐにまた眠ってしまった。
「くそっ、この野郎! そんなに寝たいなら息の根を止めてやろ―――」
「うるさいのよ! さっきから!!」
「クローバー! お前! エルフの服似合ってないな」
「はぁ!?」
文句を言いに来たのは鎧を脱ぎ、エルフが来ているシンプルな布で出来た上着と短パンを着たクローバーだった。
だが、ダークはそういう地味な格好は勇者っぽくなくて似合ってないなと思い、つい口から洩れてしまった。
「あんたねえ! 朝っぱらからうるさいし、失礼だし! なんなのよ!」
「こっちはこの生ゴミみたいな男を起こすのに必死なんだよ!」
「うるさいぞ、あんたら、人がせっかく寝てたのによ……」
「お前が起きないからだろうが!!」
「いてぇ!? はぁ!? なんだよ!?」
不意に起きて文句を言ってきたイグゼムにも腹が立ち、ダークは手持ちの石をさらにイグゼムの額にクリーンヒットさせた。
イグゼムは文句を言うが、ダークの剣幕にだんだんと押され始めた。
「あんた、臭いんだよ! 久々に風呂に入りたいだろ!? 入ってこいや!」
「分かった! 分かったから!」
イグゼムは何度も了承の意を唱えると逃げるように部屋を後にした。ダークはそれを見て、安堵し、ベッドに寝転がった。
「しばらくはゆっくりできるな」
「ちょっと」
「まだ居たのか?」
「ほんとに腹立つ男ね」
「なんだよ、俺はやっと異臭の元が消えてゆっくり出来そうなんだ」
「そんなことより、さっき村長の家が夜中に炎上したらしいわよ」
「そりゃそうだろ、あんだけ恨みかうような政策してたら放火くらいされるだろうよ」
「なんかあんた、やさぐれてる?」
ダークはクローバーのセリフを聞き、図星だったのか、少し黙ると別にとだけ返した。だが、クローバーはその返答じゃ満足したなかったのか、わざわざダークの寝ているベッドの傍まで寄ってきた。
「部屋の中に入っていいなんて言ってないぞ」
「お前は乙女か」
「心が繊細なんだよ」
「あの処刑されたエルフのイーシーって人のこと?」
「ん……」
「あのね、あれは責任を誰かが取らなくちゃいけなかったのよ」
「でもイーシーじゃなくても良かったろ」
「じゃあ誰が首を飛ばせば満足なのよ」
「誰にも飛ばしてほしくなかった」
「でも誰かがイグゼムさんに詫びないといけなかったの、イグゼムさんは三年間酷い監禁を受けてきたの、逆にそれを一人の首で収めたイグゼムさんもすごいのよ、私なら……そうね、例えば私を置き去りにした従者どもを氷漬けにして五年は放置するわね」
「おーこわ」
「それにイーシーってエルフもイグゼムさん二人が決めた事なんだから、あんたが落ち込む権利なんか無いわよ」
「……そうだな、分かったよ」
ダークはベッドから起き上がると、クローバーの顔を見た。クローバーは心配そうな表情を浮かべていたのにダークは気づき、もう大丈夫だよと笑って言うとクローバーはまったく心配ばっかりかけるんだからと頭を小突いてきた。
「お前、気絶したり暴力振るったり、性格悪いところ以外は良い女だよな」
「それほとんど外見しかないんだけど?」
「悪い、外見は特に好みじゃなってぇ!?」
「あんたは顔以外ほんとクソ」
殴られたダークはクローバーの言葉にそんなわけあるかい、俺は性格も全部かっこいいだろとちょっとナルシぶったがそうでもないかと思った。




