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第三章 三十二話


 ダークたちは全員合流を果たし、イグゼムという謎の助っ人を得て、エルフたちよりも優位に立った。だが、ダークは目の前の強力な助っ人がエルフを皆殺しにするのではというほどの気迫で居るのに不安を覚えた。

 

 「レイリー、この人復讐できるって言ってるけど、俺、エルフの虐殺シーンなんか見たくないんだけど……」


 「私もですよ!」


 「イグゼム様!」


 イグゼムの事を話しているとイグゼムに向かってイーシーが膝を屈していた。イグゼムは彼を見下しながら黙った。


 「イーシー?」


 「あいつ、どうしたんだ?」


 ダークたちはイーシーが何をするのか読めずに傍観していると、イーシーは突然、頭を下げた。それを見て、兵士たちがざわざわとしだす。イーシーが誰かに土下座をしている光景など見た事があるものが居なかったのだ。驚きの声が上がり続ける。

 だが、イーシーはそんな兵士たちの声を無視ししてさらに頭を深く下げた。


 「イグゼム様、神聖王国の使者であるあなたに不義な仕打ちをし、監禁したことをここにお詫びします」


 「あのエルフなんて言ってるの?」


 「……謝罪をしている」


 ダークはイーシーが不敵な笑みも零さずに、頭を下げている光景に生唾を飲んだ。あのプライドの高いイーシーが土下座をしていたのだ。


 「それで三年間の苦しみを忘れろと?」


 「いえ、ですが、エルフたちの命は救っていただきたい、代わりにこの首を差し上げましょう」


 「なっ!? イーシー!? ダーク離……いっ!?」


 「無理すんなバカ!」


 イーシーの言葉に驚いたのはテンラだった。テンラはダークの背中から降りようと暴れるがすぐに足の痛みで暴れるのを止めたが視線は土下座をしているイーシーに釘づけにされていた。


 「ケガをされているんですか!?」


 「そうだ、レイリー、テンラの足を見てやってくれ」


 「分かりました!」


 ダークはテンラを地面に降ろすと、レイリーはすぐさま治癒魔法を足にかけていく。ダークはその間、土下座するイーシーを見て、蔑みや自業自得という感情は湧かなかった。だが、ダークが抱いた感情も分からなかった。


 ――――――優しい男なんだな


 そう感じた。


 「お願いします! イグゼム様! 私の命だけでここはお許しください!!」


 「……分かった、俺もエルフを虐殺したわけじゃない、それにお前のような高慢な男が土下座をしたのだ、お前を立てると思ってお前の命だけで許してやろう」


 「ありがとうございます!」


 イグゼムはイーシーの訴えに納得し、バシリスを解いた。

 現れたのは現在、レイリーが着ているような布の服を着た髪や髭が伸び放題の高身長の男だった。栄養が足りていないのか酷く痩せていた。


 「イーシー、その剣を貸せ、お前の剣でお前を処刑してやる、いや、俺の個人的な恨みだから私刑だな」


 「ええ、イグゼム様、あなたに殺されるのは光栄です、神聖王国第五師団団長イグゼム・アーキス様」


 「多分、その席ももう無いさ、今はただのイグゼム・アーキスだ!」


 「待ってくれ!!」


 イグゼムがイーシーから剣を借り、首に一気に振り下ろしたが、すんでのところで悲痛な声がイグゼムの動きを止めた。呼びかけたのはダークだった。


 「えっと、イグゼムさん、あんたを閉じ込めたのはイーシーなのか?」


 「……実際は村長だったか?」


 「ええ、そうです、ですが、わが父は死んだ、だな? 人間?」


 「はい、死にました」


 「そうか……だからあの結界が解けたのか……」


 「わが父亡き今、責任を取れるのは俺しか居ない」


 「代わりになんて―――」


 「良いんだ! 俺が実行したのだ、イグゼム様を洞窟におびき寄せ封印したのは俺だ、だから俺にも責任がある、大体、お前とは友人でも何でもないのだ、人間、お前はあいつの事を心配しろ」


 イーシーはダークにまじめな表情を送り、テンラの方を見て、そして、不敵な笑みに表情を変えた。


 「テンラをよろしく頼む……テンラ! いや、チビ!」


 「チビというな!」


 「死ぬまでその生意気な口をやめるな! 生意気な口をやめないと信じて前祝いにはなるが、お前にお前の親父から大人になったテンラに言ってほしいと、イーシー様は心優しいお方ですからと謎のお墨付きをいただいてな、病床時に面会した時に言葉を預かっている、聞くか?」


 「ああ……頼む」


 テンラはイーシーのその言葉を聞き、父がイーシーの事を良く思っていたことを思い出し、その言葉が本当なのだと信じ、その言葉を聞いた。

 

 「テンラ、大きくなったお前の傍に居てやれなくてすまない、小さいお前にこれを言うと泣いてしまうし、私もプレッシャーを与えたくない、だが、これを聞いていると言う事は自由になりかけているんだな、なら、言おう、テンラ、お前は私やネルにとって最愛で可愛い娘だ、だから、好きな物だけを追い求めてほしい、それが最後の願いだ、テンラ、生まれて来てくれてありがとう」


 「父さん……」


 テンラは涙ぐみながら、イーシーが語る最後の父の言葉を聞いた。そして、イーシーは微笑むと、自身の言葉を紡ぐ。


 「それにしても良いやつらを見つけたな、チビ」


 「イーシー……」


 「この言葉通り、お前は好きに生きれば良い! それと他のエルフ兵にも告げる、お前らは自由だ、この森を昔の様に区別も差別もない自由な村に戻すのも良い、新しき場所を目指して移動しても良い! 好きにしろ! 財産も全てのエルフやハーフエルフに分け与えろ! そう村人たちに伝えてこい」


 イーシーはそう宣言し、テンラに笑いかけた。

 すると兵士たちは次々にその命令をこなそうと村に戻っていき、村のエルフたちに伝え、何人かはハーフエルフの村に出向いた。


 「これで村長の息子としての役割は終わりだ」


 「そうか、なら、もう悔いはないな」


 「イーシー……」


 「ああ、イグゼム様、一思いに頼みます」


 三年間、閉じ込めらていたはずのイグゼムは少し微笑み、そのエルフの最期を飾った。


 イーシーの目には悲しい顔をしたテンラを見ていたが、イーシーの目に映っていたのはいつかの生意気なチビだった。

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