第三章 二十九話
「氷から彼女が抜け出す前にここを離れるぞ」
「あ、ああ」
ダークとテンラは超音波を吐き続けるナキを見て、クローゼットから抜け出そうと、床に足を着けた瞬間。
「あれ? なんか、落ちてねぇ!?」
「落ちているな!?」
「キャァアアアアア!?」
「あれ、超音波じゃなくてガチの悲鳴かなぁああああ!?」
「言ってる場合かああああ!?」
ダーク、テンラ、氷漬けのナキの床は消え去り、三人は地面に吸い込まれていった。
ダークは目を擦りながら立ち上がる。上からの光で少しは見えるが空間全体は見えなかった。だが上の床だった木片以外にも何か家具のような物があり、ここは地下室かとダークは考えた。
「ダーク! そこの木片を退けてくれ」
「あ、テンラ、大丈夫か?」
「木の破片が私の足に乗っかって……」
ダークはテンラの足を見ると、テンラの足には木製の床の破片が足に乗っかっており、動けなさそうだった。ダークはすぐに破片をどかすが、テンラはうめき声を上げながら地面でもがくばかりだった。
「大丈夫か? ほら、肩貸すぞ」
「あ、ああ、すまない」
テンラはダークの言葉に甘え、ダークの肩を掴んで立ち上がろうとするが。
「いつぅ! あ、だめだ、立ち上がれない!」
テンラは悲痛な表情でそう言うと先ほどと同じように地面にうずくまってしまった。そんなテンラを見てダークはテンラの足を注意深く見た。するとどこかが酷い痣が出来ており、折れているかもしれないと素人ながら思い、テンラの顔を見た。
「テンラ、今、動かすと危ない、今から破片をどかすからそこで一旦、休んでくれ」
「わかった、そういえばナキさんは?」
「暗くて見えないが、今から破片をどかして探してみるよ」
「ああ、お前が騙してたから怒ってたんだからな、クロスボウもやりすぎだと思った」
「悪かった、ナキさんにも襲われなかったら事情を話すよ」
ダークが誠意を込めた謝罪をするとテンラはそれでいいと笑って受け答えをし、ダークは見える範囲の破片をどかす作業を始めた。
そして、数分が経った頃、純白のドレスが見え、ナキだと分かった。ナキの上には少し大きめの破片が落ちており、氷が全部溶けていたが気絶をしているようで微動だにしていなかった。
ダークはナキの上に落ちている破片も退かすと、抱きかかえ、息をしているかどうか口に手を当て、確認した。
「よし、生きてるな、暴れられるとまずいし、あんまり触れずに置こう」
そういえば幼馴染がどうこう言っていたがテンラの話に出て来ていた護衛はどうしたのだろうか。そんな疑問がふと沸いてくるが自分には関係ない話かとすぐにその疑問を消し、寝転がったままのテンラの元へ戻った。
「なぁ、テンラ、今からこの地下室みたいなところ調べようと思うんだが、ここで待てるか?」
「ま、待て、私も……いっ! つう……」
「無理すんな、大丈夫、俺に任せておけ」
「お前は先ほどもそう言っていたがどうにもなってなかったじゃないか」
「あれはナキさんが急に襲ってきたせいだ:
「あのエルフたちは倒せたのか?」
「物量の差ってやっぱり気合だけじゃどうにもならんよね」
「ダーク、危険だ、話していなかったがここで人が死んでいるんだ」
「そういえば玄関に人が倒れてたな……」
逃げるのに必死であまり見ていなかったがあれは死体だったのか、ダークは少しぞっとした顔をしつつ、それでもと言った。
「それでも俺はレイリーのために村長捕まえなきゃならんしな」
「私も行くと言いたいが、足手まといか?」
「ああ、今回は遠慮してくれ、あっちの方にナキさんが居るから目覚めたら事情を説明しといてくれ」
「そうか、ナキさんは無事か?」
「ケガは無さそうだぞ」
「そうか、良かった」
そのテンラの顔には安堵の表情が浮かんでおり、本当に尊敬してるんだなと感じた。ダークはゆっくりと立ち上がるとそれじゃ、後でなと言い残し、暗闇の中を歩き出した。
「えーと、あ、これドアか?」
手を広げながら歩いていると木製のドアに触れ、取っ手を探すようにドアに触れていく。
「あった、開けた先は光があると良いんだが……無いか」
この世界に電気が通っているとも思えない。まずバシリスが異質であって基本的にこの世界の技術はダークの居た現代よりも前の時代の技術だ。ダークはあまり詳しくないがそれくらいは考察できた。
そんな事を考えつつもドアの取っ手を掴み、開いた。開いたダークはその地下室の光景を見て絶句した。
「なんだ……これは……」
そこはレンガの様な石で出来た部屋だった。入ってすぐのところに一人が座って作業できるほどの椅子と机。だが、その机と椅子より奥に松明が何個も掛けられており、何かがライトアップされていた。
それは―――人形だった。




