第三章 二十八話
「村長? 村長?」
テンラは村長を探して屋内をしらみつぶしに調べていた。居間や二階の部屋まですみずみ調べたが誰もおらず、テンラは逃げたのか? と辺りを見て判断しかけるがもう少し探してみようと辺りを見渡した。
「ダメだ、居ない……」
「おい、テンラ!」
「ダーク?」
テンラは息切れを起こしながら走って中に入ってきたダークに驚いた。あんな人数を一人でこの短時間の中、倒すとは思っていなかったからだ。
「さすがだな、ダーク」
「は? なんのはな―――そうだ、おい、なんか隠れる場所ないか?」
「え? なぜだ?」
「追われてんだよ」
「ダークさん? 逃げても無駄ですよ?」
「やばっ! あ、クローゼットあるじゃん、一緒に来い!」
「え? なんでナキさん……っておい! 腕を引っ張るなぁ!?」
ダークは慌ててテンラと共に居間にあった木製のクローゼットに逃げ込んだ。クローゼットは服が入っていたがハンガーの役割を果たすために付けられた内部の木製の棒に掛かっており、なんとか人二人くらいが無理無理入れそうではあったため、ダークはテンラを押し込むと中に入った。
「せ、せまっ!?」
「しっ! 静かに……」
「わ、わかったがどうしたんだいった……顔が近いぃ」
「我慢しろ」
ダークとテンラはかなり密着しており、ちょっと前に出るだけで鼻と鼻がぶつかりそうだった。ダークは数時間前にテンラが自身の顔をガン見してた時は平気だったくせに何を今頃という感想を持ったが、これ以上、物音は立てられないと思ったのか、人差し指をテンラの口に当て黙らせた。テンラは頬を赤くし、目をぐるぐるとさせていたがダークは気にせず、外の物音に意識を集中させた。
「ダークさん? いけませんよ、嘘は」
「ダークさん? 出て来てください、騙しことを償ってください」
「ダークさん? 喉を潰します」
怖い怖い怖い。ダークはナキから紡がれる言葉一つ一つが怖く、震えあがってしまう。そんなダークを見てテンラは背中のクロスボウを取ろうと背中に手を伸ばした。
「届かないな……」
「何してんだ?」
「見ての通り、クロスボウを取ろうとしている」
「ガタガタ言うかもしんないからやめろ」
「ダークこそ、グダグダ言わずにクロスボウを取れ」
「そんな上手い事誰が言えって言ったよ!?」
「見つけました」
「あ」
思わず大きな声を上げてしまうダーク。クローゼットの扉の向こうから冷え切った声が聞こえた。するとダークは慌てた様にテンラの背中からクロスボウを抜こうとしだす。
「馬鹿! ダーク! 変なところ触るな!」
「お前が取れって言ったんだろ!」
「だからって……そこはお尻だ!!」
「暴れんな!!」
「キャァアアアアア!!!!!」
「な、なんだ!?」
ダークとテンラがドタバタとクローゼットで暴れていると外側から超音波のようなものが聞こえてきた。二人は耳を塞いで対処するがダークはクローゼットが揺れている事に気づいた。
「なんかクローゼット揺れて―――」
――――――木材が割れる音が間近で響く。それは、ダークとテンラの目の前、クローゼットの扉が砕けた音だった。
「みーつけました」
「ひいいいいい!!!!!」
テンラ……ではなくダークの悲鳴が聞こえる。それもそのはず、目の前には憤怒を通り越してまるで千年の恋を見つけたかのような女性がはぁはぁ言いながらこちらを見ていたのだから。
「ダーク、ナキさんにウソがばれたのか」
「よくわかったな、テンラは天才か」
「お前は天災だ」
「だから上手い事言えって誰が言ったよ……」
ダークがそうツッコむと、ナキはクローゼットの扉の隙間に手を入れ、思い切り力を込めた。
「あの……いい加減出て来てくださいよ!!」
ナキがそう怒鳴ると両ドアは勢いよく開き、テンラとダークの姿を現した。ナキは二人を見下すように見たが、瞬間、目を見開いた。
「あいよ! つめてええええ!!」
――――――そう叫んだダークの手にあったのはクロスボウ、すでに矢は放たれていた。
ナキは飛んできた矢に超音波をかけようと口を開くが、時すでに遅し、ナキの肩にボウガンの矢が刺さっていた。するとみるみるうちにナキは凍り付いていく。
「つめたっつめたっ!!」
ダークはナキが氷漬けになっているそばで両手を必死に擦り合わせていた。一瞬、テンラの身体って子ども体温であったかそうだなと思ったがさすがにそれは出来ないダークだった。
「ダーク! 手を貸してみろ!!」
だが、そんなダークとは裏腹にテンラは冷え切ったダークの手を持つと自身の太ももに挟みだした。
「ちょっ!! ちょ!」
「凍傷したら困るだろ!!」
「で、でも!」
「うるさい! お前こそ我慢しろ! 私も冷たくてかなわんのだ!!」
ダークはそう言い返され、背に腹は代えられないと思い、テンラの暖かく柔らかい太ももを享受した。ふにふにとした感触にダークはつい、興奮を誘われるがすぐに頭を振り、煩悩を消そうとした。
「イヤァアアアアアアアアアアアアアア!!!」
だが、消す心配もする必要がなく、突如、目の前に氷漬けになりかけていたナキが超音波を発し、自身に纏わりついている氷を砕こうとしていた。氷は震えながら水晶玉が割れたような音を響かせ、どんどんナキの身体を自由にしていった。




