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第三章 二十七話


 洞窟内でイグゼムは困惑していた。それは目の前で寝息を立てて寝ている少女に対してだ。それは珍しく洞窟に入れられた少女で、イグゼムは自身に怯え、怖がり、泣きながら自身に謝る幼い少女を可哀想だというくらいにしか思っていなかった。

 だがイグゼムがエルフから貰った残飯を食べていると少女は変わった。


――――――――


 イグゼムがエルフの飯を貪っていると彼女は急にイグゼムの元へ来て頭を撫でてきた。イグゼムは照れや嬉しいなどという感情よりも困惑、疑問などの感情を前面に押し出した表情を浮かべた。


 「な、なんだ? 急に?」


 「いいえ、別に、その姿が犬の様で愛くるしいと思っただけよ」


 「犬? そうだな、負け犬だからな」


 「いいえ、犬は獰猛でお利口な動物よ? 狼には負けるけど犬、私は好きよ」


 「なぁ、どうした? レイリーちゃん、雰囲気変わったけど……あ、ごめんな? もしかして俺がこんな肉食ってたから同情した? 最近、ろくなもの食べれてなくてさ、気持ち悪い光景見せたな」


 「うふふ、いいえ、大丈夫よ、さぁ、食べていいわよ」


 「あ、ああ?」


 イグゼムはすでに先ほどのレイリーとは別人だとしか思えない少女の態度に疑問を覚えつつ、気色の悪いシーンを見せた罪悪感でそれ以上、突っ込んだ話をせず、お言葉に甘えて、飯を食べ続けた。


 「誰か来るわね……」


 「またエルフどもか?」


 「エルフは一人、後は人間二人とエルフにも人間にもなりきれないのが一人」


 「よくわかるな」


 「ええ、だって私は魔術士ですもの」


 そう言って笑う少女は確かに数百年生きていても不思議ではないオーラを漂わせていた。イグゼムは息を飲んで少女を見つめた。


 「俺はどうすればいい?」


 「そうね、まずは私が接触するから、あなたは奥で待機して誰かが近寄ってきたら威嚇してちょうだい」


 「威嚇なんて必要ない、この洞窟の格子は内から外からも魔法を通さない光魔法の薄い膜が張ってある、エルフの得意な弓矢なんかは通すが、そんなもの俺のバシリスが防ぐ」


 「あなたが最初から居たら警戒してしまうわ、まずは私が様子を見たいの、ね? お願い? イグゼム?」


 上目遣いのお願い。イグゼムはそれでも可愛いというよりは威圧を感じ、渋々頷くと、少女はにっこり笑ってありがとうとお辞儀をした。


 それから、やってきたエルフと人間、少女の言うなりそこないはいざこざを起こしながら、格子に雷魔法を撃って、逆に反射され、逃げるように去っていった。

 残っていたのは電撃が届かない位置で留まっていたエルフの男だった。その男は逃げた三人の方を特に毒を吐いたり、苦い顔をすることもなく、ただただ目を瞑り、息を吐いた。

 

 「久しぶりだな、イグゼム様」


 「お前は誰だ?」


 急に話しかけてきたエルフの男はイグゼムを知っているようでなぜか様付けで呼んできた。イグゼムは三年間、洞窟に閉じ込められていたせいで精神的な疲れが溜まって、誰かを思い出せずにそう質問した。


 「この俺を忘れるとは、神聖王国の人は薄情だな、俺はエルフの村長の息子、イーシーだ」


 「イーシー? イーシー……お前!! 俺をこんなところに閉じ込めたやつか!! アァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 「くそっ! 黙れ!! うるさい!!」


 バシリス状態のままで居たイグゼムの咆哮がイーシーを襲った。イグゼムの咆哮にはこれまで以上に圧と怒りが込められており、イーシーは耳を塞ぎながら黙れと怒鳴る。


 「三年間もこんなくそったれな場所に閉じ込めやがって!!」


 「それは悪かった、親父は神聖王国が嫌いでな、当時、俺にあんたをこの洞窟までおびき寄せろと命令したのは確かに俺だ、だが、あの当時、俺たちはあんたらと獣心共和国の戦争のせいで森を焼かれ、砂漠にされたんだぞ、それを意気揚々とこちらに付けと言ってくる神聖王国さんもデリカシーが無いだろ」


 「使者で来た俺は本気でお前らを救いたかったんだ!! お前らエルフさえ、味方につけば東の森全てをやるつもりだったんだ!!」


 「黙れ!! 神聖王国は獣心共和国を裏切った!!」


 「裏切っていない! 前王は本気で獣心共和国と同盟を結ぼうとしていた! 全ては神父だ!! 神父が悪い! あいつは前王に男の後継が居ないことを良いことに好き放題だ! 俺が使者に行くと言わねばお前らは今頃、神父が命令して東北の拠点からやってくる大群の騎士団に森を焼かれていたんだ!」


 「俺たちには獣心共和国が居る!!」


 「今は知らんが東北になぜ、三国の境界線スレスレに神聖王国が拠点を作れたと思う? 普通は獣心共和国またはイントラル王国が邪魔をしに来るよな? でもイントラル王国は邪魔どころか助けてくれたんだだ」


 「イントラル王国だと? あそこは日和見国家じゃないのか?」


 「イントラル王国は武力を示したかったのか、自己顕示欲が沸いたのか、知らないが勇者と名乗る男を巡察として送り込んできた、拠点を作ろうとすれば獣心共和国は邪魔をしに来る獣心共和国の軍を勇者が率いるイントラル王国の軍団が獣心共和国から神聖王国を守ったのだ、だが、ふたを開ければそれは勇者の独断で、勇者は拠点を完成させるとこちらに寝返り、イントラル王国は勝手に自分たちを危機に晒し、獣心共和国はそのイントラル王国のせいで危機に陥れた、勇者の裏切りを予測し、イントラル王国が知らず知らずのうちにこちらを助ける、そんな絵図を誰が描いたと思う?」


 「さっきの神父か?」


 「ああ、その通りだ、神父は本気でこの地方の全てを食らうつもりだ、俺を閉じ込めた時点でお前らは詰んでるんだよ」


 イーシーはそんな言葉を聞き、息を飲む、わかったとだけ言うと森の奥に去っていった。

 それからイグゼムは少女を見ると、少女は寝息を立てて寝ており、現在の落ち着いた。


 「はぁ、君は誰なんだ?」


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