序章 六話
「そんな事よりゲームをしようではないか、ほら、ゲームを貸してみろ」
「ああ、はい」
総馬はそそくさとゲームパッケージをカバンから取り出すと、明人に渡す。明人はマジマジとパッケージを舐め回すように眺めていく。パッケージに穴が開きそうな勢いだ。
「ふむ、ゲーム機は私が持っているので間違いないが、やはり見たことが無いゲームだな」
「とりあえず、そのゲーム機の説明をしてくれないか?」
この装置を被ると、まるで実際にそこで戦ったり食ったりしたりという疑似的体験が出来るという優れた技術なのだ!」
「このヘルメットか」
「ヘルメットじゃなくてRDGMだ!」
「え? どういう意味?」
「リアルダイブゲームの略だ」
「覚えたての中学生が使った英語の略称みたいだな」
「技術は本物だから気にするな!」
叫ぶ明人を無視し、テレビの前に置いてある高そうな一人用ソファに座り込むと、ヘルメット状の機械―――RDGMを持ち上げ、被って見せる総馬。明人の私物であるこれはもちろん明人も使っているだろう。 明人の外見を初めて見た綺麗好きなどは、躊躇うに違いない。だが、総馬は明人が四度風呂に入る事が分かっていたため、躊躇いも無く被った。そうでなくても被らないという選択肢は無かっただろうが。
そんな事を考えつつ、装着すると目まで覆いかぶさったヘルメットは少しぶかぶかだった。明人が使っていたためだ。視界は真っ暗でまるで映画館の様な気分になる。
「ヘルメットの後ろに調節ボタンがあるぞ」
「お、これか」
ぶかぶかなのを察した明人の言う通りの場所に手を当てれば確かに丸いボタンがあった。押してみると、RDGMがどんどん狭まっていく。ちょうど良いところで止め、明人を見つめる。耳に硬い金属の様な物が当たり、少し違和感が生まれるが被り具合はまぁまぁだなと総馬は少し興奮気味になる。まるでアトラクションに乗る子どものような気分になってきた総馬は明人にそれから? というような視線を投げる。もちろん何も見えないが明人が居るだろう方向を見た。
「では、ゲームを付けるぞ、私はモニターで総馬を見守ろう」
「二人じゃ出来ないのか?」
「最近のゲームは基本オンラインゲームだからな」
「そうなのか、出来れば一緒にしたかったな、最近のゲーム寂しいな」
昔のゲームしかしたことがない総馬は少し寂しさを覚え、そう言うと、明人ははっはっはと笑う。
「その顔でそんな女子受け良さそうな事言っても女子は落ちても、俺はそう簡単に堕ちないゾはーと」
明人のねこなで声のようなただの気持ちの悪い裏声で気持ちの悪い発言をしだしたが総馬は少し昔の事を思い出し、呟いた。
「言うのは恥ずかしいんだが、似たような事を彼女に言ったらすごい撫でられたぞ」
最初、光からクリスマス会えないという話を聞いた時に、光に会えないなんて寂しいとつい口を滑らせた事があるが、その時に光は顔を真っ赤にして頭を撫でてきたのだ。あの時は恥ずかしかったなと総馬はそんな思い出を思い出しながらそう言うと、明人は思いっきり顔から色味を消して、立つんだ明人! 状態になっていた。総馬には見えていないので心配の声は上がらなかった。
「今日はもうお開きにしようかな……」
「え? 何か言ったか? ていうか早く付けてくれ、暗闇で不安になってきた」
人間の本能的な不安に苛まれた総馬は明人の喪失感を察せずに催促を促していく。顔が見えないと相手が何を考えているのか分からないは確かだった。
「ああ、付けるよ、付けますよ!」
「えぇ、急に大声出すから何かと思ったわ、ビックリするからやめてくれ」
投げやりにゲームの起動スイッチを押す明人に驚いた総馬は困惑気な声を上げるが、明人はリア充めえ! と叫びながら何やら設定をいじってるようだった。カチャカチャと何かをいじる音が響く。
「よし、出来たぞ、では、楽しんでくれ、どんなゲームか知らんが、楽しくても一時間くらいでログアウトしろよな、私にもやらせろ」
「そんなやるかな、まぁ、分かったよ」
「そう言っている奴ほど帰ってこれなくなるのさ」
その言葉を最後に総馬は二日間、飲み食いさえも自由に出来ない極限状態に追い込まれていくのだった。