第三章 二十三話
イーシーが現れたことにより、ハーフエルフの子どもは解放され、お母さんのエルフと抱き合っていた。それを見てイーシーは不遜な笑みを浮かべる。
「そこのハーフエルフを連れていくのか?」
「はっ!」
「そうか、誰にだ?」
「オーラン様です、使用人が病気で亡くなったそうで」
「オーランか、まぁ、そんなに変態趣味な男でもないな……母親は?」
「いえ、特にどうこうしろとは……」
「なら連れていけ、使用人が欲しいなら母親も連れていった方がその子どもも働きやすいだろう」
「なるほど……」
「心配ならオーランには俺が言っておく」
「分かりました」
イーシーの提案を受け入れたエルフは母親と子どものどちらも連れていってしまった。
「どうだ、村人ども、俺を感謝しろ、母子がバラバラになるのを防いだぞ」
イーシーは村の人にそう豪語した。村のエルフやハーフエルフはざわざわとしだすが、テンラはよくわからず、またイーシーが好き勝手したという認識だった。アビゲイルはやはりイーシーは良識があると確信した。
イーシーは村人の反応を待たず、ふっははは! と笑いながら村を去ろうとしたが、テンラを見て立ち止まった。
「このチビはいつまでもチビだな! ふっはは!」
「イーシー嫌いだ……」
「俺を呼び捨てにするだと!? 恥を知れ!」
すると軽く頭を叩かれたテンラはイーシーを見て睨むが、イーシーもにらみ返す
「その無駄に生意気な口を死ぬまで続けられたら俺が良いものをくれてやるわ」
「要らない!」
「ほ、ほら、イーシー様、そろそろ戻らないと村長がうるさいんじゃ?」
「ああ、そうだな、じゃあな、チビ、生意気な口も達者でな」
「べー!!」
イーシーはそこから去る際、また高笑いをしながら村を離れていった。やはり苦手だと思ったがアビゲイルが少し嬉しそうにしていたのでテンラはそれ以上文句を言うのを我慢した。
その後、テンラ、アビゲイルの転落人生が始まった。
初めはハーフエルフの村で流行り病が起こり、純潔のエルフの医者が村に調査しに来た際、エルフ一人一人を診断していき、テンラの血にはエルフの血が四分の一ほどしかないことが分かり、ハーフエルフでも人間もない彼女を利用した。
彼女をさらにハーフエルフの村からも追いだし、住めるわけもない場所に家を建てられ、そこに親子もろとも住まわされた。見張りはイーシーだったがイーシーは前の態度と違い、厳しくなっていった。
最初はアビゲイルが庇ってくれていたが、アビゲイルは心労と過労、さらに栄養失調で亡くなってからはテンラは一人。この住めない場所に押し込まれて数年が経った。
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「ぐえっひっ、テンラぢゃん!」
「な、なんだ、クローバー! だ、抱き着くな!」
クローバーはテンラの話が終わると泣きながら抱き着き、延々と泣いていた。
「おい、ダーク助けてくれ!」
「無理だ、今手が離せん」
ダークはテンラの家に戻ると何やら鍋の前で袋から何かを取り出しては放り込んでいた。
「あんだ、ばなじぎいでだのお!?」
「聞いてたよ、テンラ、お前は悪くない、が、ここのエルフも悪くない、戦争の被害者だな、だが、俺はお前をここから連れ去ろうと思う」
「な、なぜだ」
「イーシーの考えも分かるが、もういいだろ、テンラは自由になるべきだと思った、それだけ」
「私は嬉しいが……父と母が眠るこの地を離れるのは……」
「お前の親父さんや母親なら自由に娘が暮らしてくれる方が嬉しいと思うぞ」
「なら私はお前の傍に居たい……」
「自由の身になってわざわざ俺たちの後を付いて来なくてもいいだろ」
テンラの言葉にダークはやっとテンラの方を向いた。まじめな顔で自由になったらもっと好きな事をしろと諭すが、テンラは首を振った。
「私はお前の傍に居たい!」
「良いのか?」
「良いに決まってるじゃない! テンラちゃんは寂しい思いをしてきたのよ!」
クローバーが変な絡みでダークに野次を飛ばしまくり、ダークは鬱陶しいなと思いつつもクローバーを無視し、テンラを見つめた。
「……そうか、そうだな、分かった、テンラ、一緒に来い」
「ああ! ありがとう!」
テンラはにっこり笑うとそう答えた。ダークは目を細め、これで良かったのかと思ったが、テンラの笑顔にこれ以上何かを言うのは躊躇い、鍋の方に向き直った。
「じゃあ、とりあえず、レイリーだな、助けに行くぞ」
「行けるの?」
「ああ、秘密兵器も用意したぜ」
そう言ってダークは鍋を持ってにっこり不敵な笑みを浮かべた。クローバーはまた突拍子もない作戦かと思って見るが、テンラはニコニコとダークを見た。




