第三章 二十一話
テンラたち家族はクロムドア二世と立ち話をしていたが、クロムドア二世がそろそろ帰りますと言い、テンラたちはクロムドア二世を見送ると大祖父の家に帰った。
「おかえり」
「ただいま帰りました、大祖父様」
「ただいまです、大祖父様」
「ただいま! 大祖父様!」
テンラは元気よく大祖父に挨拶をすると大祖父の方まで駆け寄った。大祖父はひ孫のテンラが大はしゃぎしているのを見て、どうかしたのかと微笑みかける。
「あのね! 今日森の本村で綺麗な人が昔話をしてくれたの!」
「楽しかったかい?」
「うん! あとね、さっきクロムドア二世さんって人が人形を……大祖父様?」
クロムドア二世の名前を出した瞬間、大祖父の顔が強張った。それを見たテンラは怯えながら大祖父を呼ぶが大祖父は、はっとしてテンラを見るとまた微笑んだ。
「そうかそうか、良かったね」
「クロムドア二世は何か言っていたかい?」
「人形技師で大祖父さまに人形を贈ったって!」
「そ、そうか」
「私、見たいなぁ」
「それはダメじゃ!」
「え……」
急に大声を出した大祖父にテンラは驚き、呆けてしまう。だが、大祖父はまるで何かを恐れるように息を小刻みにし出した。
「テンラ、大祖父様は疲れているのよ、少しお外でお家の修繕をお父さんとお願いできる?」
「ほら、テンラ行こうか」
「お母さんは?」
「お母さんは大祖父さまに料理を作るから、後で行くわね」
「分かった……」
テンラは少し寂しく感じながらもアビゲイルに手を引かれ、お外に行った。それからだった。
家から外に出て、突然、聞こえた。魔法の起動音。そして―――家が炎上していく。
「お母さん!! お母さん!!」
「テンラ! 危ないから!! 行くんじゃない!」
「でもお母さんが!」
テンラを抱きしめて離さないアビゲイルも炎上する家から目が離せなかった。妻や大祖父が中に居るからだ。だが、今はテンラの安全を最優先に考え、アビゲイルは飛び込むのを我慢した。
「あ、誰か出てくる」
「ネル! 大祖父様!!」
炎上して木が割れる音が響く玄関の扉から人影が見え、ネルか大祖父かと二人は期待したが出てきたのは想像外だった。
「な、なにあれ……」
「に、人形……?」
「でも動いてるよ……」
テンラとアビゲイルの目線の先にはとんでもない光景が映し出されていた。なんと服がドロドロに溶け、顔の塗装も剥がれている全身木で出来た人形がこちらにふらふらと向かって来ていたのだ。
「逃げるぞ、テンラ!」
それを見たアビゲイルはテンラの腕を引いて、森の中を駆けていった。背後からは人形が迫ってきており、アビゲイルは途中、テンラを抱きかかえると精一杯逃げていった。
「もうすぐ本村だ!」
アビゲイルは本村の入り口まで駆け寄ると槍を持った見張りのエルフを見つけ、縋りついた。見張りエルフは槍を森の木に立てかけるとアビゲイルを心配そうに見つめた。
「助けてくれ!! 子どもも居るんだ!」
「どうしたんですか?」
「に、人形が!」
「人形? なっ!? あ、あれは!?」
見張りのエルフは背後から迫ってくる人形を見つけると槍を取って、人形に向ける。
「侵入者だ!! 人間の男性とハーフエルフの子を保護してくれ!」
見張りが大声でそう叫ぶとどんどん槍や弓を持ったエルフたちが集まってきた。最終的には二十数名のエルフが集結し、アビゲイルとテンラは本村の奥までエルフに連れられ、避難された。
「がうぁ!?」
「げゃぁ!?」
「ぐあぁ!?」
テンラとアビゲイルの背後でエルフたちの断末魔が聞こえてきたがテンラたちは耳を塞いで振り向かずに本村に匿われた。
その後、人形はエルフの兵二十人の犠牲のもと、鎮圧され、その人形が神聖王国の物と分かり、テンラはクロムドア二世を思い浮かべた。人形技師の彼が作った人形が暴れ出したとアビゲイルは思った。
母と大祖父の亡骸も燃えつきた家から発見され、テンラはアビゲイルと共に供養した。
この事件の後、エルフの本村に神聖王国が攻めてきた。イントラル王国と獣心共和国、神聖王国の三つの国のちょうど境目に拠点を作った神聖王国は中立の街を争わずに森に攻めてきたのだ。
獣心共和国の力を借りてエルフたちは血みどろの戦いをし、結果は砂漠の進行。神聖王国は毒や火、なんでも使った。幸い、獣心共和国の領土は守られたがエルフたちは住居を狭められ、純潔のエルフたちは自分たちの生活水準を低くしないため、ハーフエルフたちを隔離する道を選んだ。
テンラとアビゲイルも同様に村に押し込められてしまうが、それでもテンラは残った父と二人で仲良く暮らしていた。




