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第三章 十八話


 大祖父は良い人だった。もうすでに人生を達観しているような雰囲気もあり、テンラは大祖父の事は嫌いではなかった。

 ただ、外出した際、たまに見せる敵を探すような目にテンラは怯えることもあった。


 それからテンラ達、家族は一ヶ月ほど大祖父の家で過ごした。アビゲイルは家の修繕や雑草狩り、農夫だった父は大祖父のために肉体労働を買って出て大祖父が呆れるほどに働いた。


 「アビゲイルくん、少し休みなさい、一日、二日くらい働かなくても何も変わらんよ」


 「でも大祖父さまに良くしてもらって本当に感謝しているんです、これくらいなんともありませんよ」


 「なら、たまにはテンラとネルを連れて本村の方に行きたまえ、今、エルフの森に珍客が来ているようじゃぞ」


 テンラが来た当時はエルフの森は現在よりも広く、現在のリーシャ砂漠の方が面積が狭いほどだった。さらにレントの村を国境にし、争い続けていた獣心共和国と神聖王国が和平を結ぶという噂もあり、レントの村よりも奥のリーシャ砂漠の手前に存在していたエルフの森は平和だった。

 たまにエルフの森の南側にある山に住むサラマンダーとサラマンダーが所有する鉱山から出てくる小物モンスターがサラマンダーの方で退治するはずがエルフの森にやって来たりして揉めたりはした。



 「わぁー! 広い!」


 テンラが陽気な声を上げる。そこは本村(ほんそん)と呼ばれる場所で、テンラが子どもの頃は純粋なエルフとハーフエルフが娯楽を楽しんだり、外食を楽しんだりする場所だった。たまにやってくる旅人や獣心共和国の人たちが芸や話をしてくれる時もあった。


 「珍客というのはあの人かな?」


 大祖父が話した珍客には目立っており、すぐに分かった。珍客は女性だった。本村の真ん中に位置する噴水を囲む石垣に腰を降ろし、微笑んでいた。噴水の周りにはたくさんのエルフの子どもたちがその女性を囲んで腰を地面に付けていて、彼女を見て目をキラキラさせていた。

 そんな子どもたちが怯えないようにとの配慮なのだろう、黒い羽が何重にも重ねて作られている上下の服を着た男が一人、噴水の反対側に立っていた。彼は時たま、女性を見ていた。護衛の方だと誰もが分かった。


 彼女はとても美しく目は綺麗な青色で肌は白く、その髪は長く綺麗な薄い金色をしており、首元から胸元までが見える純白のドレスを着ていた。その美しさにエルフたちは老若男女問わず、みな足を止め、彼女を見ていた。

 テンラもその美貌に目を釘付けにされていた。母も綺麗だがこんなに非現実的な女性を初めて見たと思った。


 「テンラも近くで見てきなさい」


 アビゲイルはテンラを子どもたちのように近くに座るよう促した。するとテンラはニコッと笑いながら子どもたちの中に混ざり、地べたに座った。

 だが、親が近くに居ないと不安に思ったテンラは両親の方を振り向くとアビゲイルとネルはテンラに手を振ってここに居るから安心してと地面を差してジェスチャーで答えていた。テンラはそれを見て頷くと美女の方を見た。


 「こんにちわ、エルフの皆さん、ハーフエルフの皆さん、人間の皆さん、私は普段、獣心共和国を周り、物語を歌にして歌っております、カナリヤのナキと言います」


 かなり多く集まったエルフ、ハーフエルフ、人間に挨拶をしたその声は外見通りの綺麗さで観客たちの心を鷲掴みしていった。喋り方、動作、その綺麗な目で見つめられた者は誰であろうと赤面した。


 「今日はこのエルフの森で語るのはある魔術師に選ばれた女の子の物語です、とても美しい物語です、是非、みなさんが楽しんでくれればと思います」


 そうして彼女は歌い出した。綺麗な声で紡がれる物語は魔女の物語。その魔女はこの世界が出来て、まだ神聖王国が出来たばかりの頃のお話だった。

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