第三章 十五話
ハーフエルフの村の森にある洞窟の前、ダークは洞窟に閉じ込められたレイリーを目の前にレイリーの背後から現れた化け物と対峙していた。
赤いメタリックボディの四足歩行の化け物はレイリーを眺めつつ、徐々に首を動かし、ダークを見た。ダークは見つめられた事により、一瞬、怯む。
「レ、レイリーから離れろ! こ、このメタリック野―――」
「ガァアアアアアアアアアアアアア!!!」
「す、すいません!!」
罵ったダークに大きな口を開け、咆哮を浴びせる化け物。口の中が見えると、鋼鉄の牙が人工的な光が張り巡った口内の中に存在した。生物では無かったため、唾が飛んできたり、息吹で身体が揺れるなどということは無かったが、ダークは目を閉じ、つい謝ってしまう。
「ダーク! 伏せろ!」
その声に反応し、ダークはすぐさま頭を伏せると背後から何かが迫り、自身を越して、あの化け物に向かって行くのが分かった。ダークが伏せてから数秒後にそれはあの化け物に当たったのか、鉄を叩いた音が響いた。そして、それが砕ける音も同時に洞窟内に響き渡る。
「アァアアア!!」
化け物は咆哮を繰り返す。ダークは恐る恐る目を上にやり、化け物の足元を確認すると鉄の矢じりが付いた木の矢が粉砕され、地面に落ちていた。
「無理だ! 逃げるぞ! ダーク!」
「テンラ! 大丈夫か!?」
「ああ、イーシーとクローバーがやりあっているおかげで逃げ出せた、とにかく逃げよう、ダーク」
そう言いながらダークの元へやってきたのはイーシーに地面に叩きつけられたハーフハーフエルフのテンラだ。紫の綺麗な髪や装備が砂で汚れていたがどこも怪我はしていないようだった。その左手には弓が握られており、先ほど撃ったのはテンラだと分かった。テンラは空いている右手でダークの腕を引いた。
「待ってくれ! レイリーが!」
「じゃあ、あの光の剣を使えば良い!」
「あれはもうない!」
「やはりお前はバカだ!」
「でも他のならある!」
ダークはテンラにそう言い切ると手に力を入れる。いつものように武器を召喚していく。するとダークの手に現れたのはボウガンだった。ボウガンの矢が十本、手に握られており、ダークはボウガンをまじまじと見る。
「矢で倒せないのは見てたろ! なんでボウガンなのだ!」
「勝手に出てくるだけだからな」
「ダークのバカ!」
「それよりも使い方が分からない、主に矢のセットの仕方」
「ほんとにバカだな、貸してみろ」
テンラに文句を言われつつ、ボウガンをテンラに貸すとテンラはボウガンに矢を手際よくセットさせ、ダークに返した。ダークはそのまま洞窟の鉄格子の内側に居る化け物に向けた。化け物は相も変わらず、こちらを見て息を荒げている。
「食らえ! トカゲ野郎! うおぁああああああああ!?」
「大丈夫か!? ダーク!?」
そう大声で叫び、化け物に撃ちこんだ。
だが、ボウガンを発射させるととてつもない電撃がダークの身体中に走りだした。ボウガンの矢はそれでもお構いなしに発射するが、そのボウガンの矢にはプラズマのような物が纏われていた。
身体中が感電したダークはなんとか意識を失わずに居たが、ふらふらとしており、心配したテンラが頑張って背中から抱き着き、立たせた。
「だ、大丈夫、なんか身体が活性化した気がする、気がするだけだと思う」
「冗談を言ってる場合か! あれを見ろ!」
「うおっ! なんだあれ!」
ダークは自身が撃ち込んだボウガンの矢の行方を見ると、身体に電流が走った。いや、すでに走った後だが、それでも驚いた。
ボウガンの矢が鉄格子の前で電流を放流しながら停滞していたのだ。鉄格子に綺麗な光が宿っているのが分かった。化け物もだが、レイリーも目を細めてその光景を見ていた。
「な、なにあれ」
「この鉄格子、光魔法が掛かっている、しかも最高魔術師レベルのだ」
「まじか……よぉ!?」
ダークの足元に突然、小さい雷が落ちた。それは鉄格子の前で停滞していたボウガンの矢から放電しているせいだと分かった。
放電は続き、ダークとテンラの居る位置にまで電撃が地面を抉り出した。鉄格子の中には放電していないということはその光魔法とやらはあの洞窟に攻撃を通さないのかもしれない。だが、テンラの矢は入った。
ダークは考えるが徐々に激しくなる電撃に怯え、後方を向き、テンラの手を握って走った。
「まずい! 逃げるぞ! テンラ! クローバー! お前はいつまでそのバカとやりあっている気だ!」
「え!? って何あの雷! 悪いけどまたね!」
「なっ!? ちぃい!?」
イーシーとクローバーは未だに攻防を繰り返していたが、ダークの声にクローバーが気づくと水の魔法でイーシーの目を眩まし、ダークの方に駆けていく。
「レイリーは!?」
「今は退散するしかねえ! 感電したくないだろ!!」
「仕方ないわね……レイリーちゃん! 待っててね!!」




