第三章 十一話
レイリーは縄を解かれると分からない言語で話すエルフたちによって洞窟に押し込められていた。その際、白いシャツやタキシードの残りのズボンを脱がされ、代わりに茶色い布で出来た上下の服を着させられた。後は、欠けた木のお椀に入れられた一杯の水のみを渡され、エルフは元の道を帰っていった。
「な、なんなんですか一体……」
レイリーは元々はこんな格好しかしてこなかったので、服を変えさせられたのは慣れているから良いとは思ったが鉄で出来た格子で出入り口を塞がれた洞窟に恐怖を覚えていた。洞窟の外は大木が多く生えており、外の様子はまったく視認できない。
洞窟は真っ暗で、奥の方で蛇の声や何かの唸り声が聞こえてくる。レイリーは鉄格子に背を預け、耳をふさいだ。
「ダークさん、クローバーさん、助けてください、お願いします……」
そう願いながら、レイリーは目を塞ぐ。すると、地面と身体が密接しており、目を瞑ったことにより出来た集中により、勝手に探知の魔法が発動し、目の裏に魔力の塊がポツポツと映りだした。
「な、なんでわざわざモンスターが居るかどうかなんて……」
勝手に発動した魔法に文句を言いつつも魔力の塊を選別していく。
小さい大きさの塊は村人やモンスターで言うと蝙蝠とか虫、中くらいの大きさの魔力は平均的な魔法使いやゴブリンなどの中型モンスター、大きい魔力は大魔術師やエルフなどの魔法を得意とする部族。モンスターで該当するのは滅多に居ない。この洞窟は小が多く、中が何体という感じだ。
「こっちに来ないでください……ん? そういえば」
攻撃魔法が使えないレイリーはそう願いつつ、ある事に気づいた。
なぜあの七人のエルフたちの魔力は人間の村人並みだったのか。レイリーは自分の魔法の精度が落ちたのかもと思ったその矢先、レイリーは目を疑った。ポツポツとあったくらいの魔力の塊がどんどん消えていっているのだ。
「な、なんで……?」
小ほどの塊も中ほどの塊もどんどん消えていく。そしてレイリーは目を見張った。小さい塊が消えるにつれて露わになったのは大きい魔力の塊だった。
「ま、まさか、こんな洞窟に大魔術師が?」
だが、それはありえないと思った。村人並みの魔力しかないエルフたちに負ける大魔術師なんか居ない。それに同類のエルフを閉じ込めている可能性もあるが、あんなにエルフは強い物だろうかと言う考えがレイリーの思考が訴える。あの消え方は魔法で一つ一つ消しているわけでも、大技で消しているわけでもない。まるで武器で一つ一つ消しているような間隔と消え方だ。そしてこちらに近づいて来ている。
レイリーはそう考察し、ある結果に辿り着いた。
「まさか、悪魔!?」
悪魔という単語を出したレイリーは足を震わせながら、体育座りのような恰好になり、目に涙を浮かべた。
「い、嫌だぁ、こんな所まで来るなんて、どうして……」
狼狽し、まるで鉄格子の隙間にレイリーの背中が当たる。後ろにいけないのに後ろに下がろうと足を動かし続ける。
そして、わずかな光が照らされているレイリーが肉眼で見える範囲に、その大きい魔力の塊の正体である足が映る。それは五本の鋭いかぎ爪を持った両足だった。レイリーはそれを見てついに大粒の涙を流す。
「アアァアアアアアア!!!」
未だ足しか出ていない化け物は咆哮を上げる。レイリーは目を瞑り、頭を両腕で抱え込み、お尻を化け物の方に向けて丸まった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい―――」
そう言い続けたレイリーの目からは大量の涙が流れ、顔全体を涙で濡らしていた。
だが、そんなレイリーの近くに化け物がゆっくりと歩いてきた。足音を立てて、ゆっくりと。レイリーは目を瞑ったまま顔を化け物から背けており、魔力の塊も見えない。だが、足音は確実にレイリーの前で止まる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい―――」
レイリーの思考は止まり、それだけをただ繰り返していた。そんなレイリーの頭に何かが乗った。それはレイリーの頭をゆっくりと撫でた。ゆっくりとゆっくりと、するとレイリーは言葉を言うのをやめるとそのまま寝入ってしまった。
レイリーの頭を撫でていた化け物はレイリーが寝たことに気づいたのか、ゆっくりと腰を下ろし、鉄格子の近くの岩に寄り掛かるとレイリーをじっと見つめていた。




