第三章 七話
光の柱は効果が消え、無くなるとついに剣の柄も消滅してしまった。ダークは召喚した武器が突然、消えた事を思い出し、仕組みが分からず唸る。
「使用制限がある武器が出てくるのか? もしくは俺が使い方を誤って使用していたとか……もっと自由に使えたら……いや、人を殺せる武器を易々使おうなんて考えるべきじゃないな」
ダークは考えを振り払うように頭を振ってテンラの居る場所に振り向いた。
「ん? うおっ!?」
視線の先にテンラが居らず、目線で探していると下の方にこちらを見上げていたテンラが居た。しかもかなり近い。幼くかわいらしい顔にちょっと顔を屈めたら触れてしまいそうだった。こうしてみるとテンラはダークの胸の辺りくらいしか身長が無かいことが分かった。
ダークは身体を後ろにのけぞり、距離を取る。それでもテンサは黙ったままダークの顔を無言で見つめていた。小屋の中を思い出す。その表情は何かを訝しむような表情だった。
「顔が近いんだが、もしくは顔に何かついてる?」
「いや、お前に興味がわいた、ダークなんとか」
「ダークアナライザーね、ダークで良いよ、テンサ」
「ダークのおかげで助かった、ありがとう」
「いや、俺は別に問題ないよ、あー、でも小屋の屋根を破壊しちまったからその償い?」
「そうか、別に構わない、あの場所に住んでいるわけじゃなかった」
「じゃあ俺みたいなやつを収容するため?」
「いや、あそこは私の憩いの場だった、それだけだ、あそこからは森がよく見渡せたから」
少し寂しそうな顔をして答えるテンラにダークはいたたまれない気持ちになるが本人が良いと言っているのに蒸し返すのも悪いと思い、それ以上その場所に触れなかった。
「あ、俺の上着返してくれない? 俺、もうあれしか着るもんが無くて」
「下はどうした?」
「さっきの剣で縄を切ろうとしたら燃えつきた、靴もな」
「自分の武器くらいちゃんと扱え」
「別に俺の武器じゃないよ、勝手に出てくるんだ」
「やっぱりお前はバカだ」
そう笑うテンラは付いてこいとダークに促すと元の道を戻っていった。そして、あのボロ小屋に向かう。ボロ小屋に辿り着くとダークは周りをキョロキョロとした。
「なぁ、ここ不気味だな」
小屋の周辺は変な形の木で覆われており、日の光も届いていなかった。テンラはそうか?と笑いながら一蹴すると小屋の扉に手を置いた。すると扉は小屋の中に倒れていった。
「ずいぶん力持ちだな」
「違う、元から固定されていない」
「毎回こんな開け方めんどうすぎるだろ、なんか若干だけどこの家傾いてるし、俺ならこんな家作ったやつを生涯クソ野郎認定するね」
「ああ、ならさっきのクソ野郎だ」
「さっきのってあのエルフの事か?」
「ああ、そうだ、イーシーだ、その下の奴らだがな、私の家のためにわざわざ金属やカギを付けなくて良いと言っていた、家に使う木も古い木で良いと」
ダークの胸がむかむかとした。あの自信たっぷりといった面を思い出し、殺意が沸いた。
「とんだクソ野郎だな、光当てればよかったな」
「ふふっ、あの時はすごく胸が高鳴った、あのイーシーが怯えていたぞ、スカッとした、あんなにスカッとしたのは父さんと一緒に居た時以来だ、だからありがとう」
「良いよ、別に」
ダークは何度もありがとうと言われ、少し照れてしまう。この世界に来てから罵倒や暴力に身を置きすぎたためだ。優しい言葉につい涙腺が緩んでしまう。
「あ、思い出したけど、緑の髪の女は?」
「むっ、ああ、あいつならここだ」
テンラはダークの言葉になぜか眉間を寄せ、頬を膨らませた。そして小屋の中のある部分を指さした。
ダークはなぜムッとしたと疑問に思ったが、ダークは小屋の中にお邪魔する。中は木のテーブルにクローゼットのようなものが一つ。さらに汚れた土台が木で出来たベッドに薄い毛布が一枚敷いてあるのみだ。
ダークはこんな生活で大丈夫なのかと心配したが、まずはテンラが指さしたクローゼットのようなものを開けた。
そこには足と腕を縛られて気絶していたクローバーが体育座りをしてクローゼットに寄り掛かっていた。そしてクローバーが入っていたスペースの空いている場所にダークの上の方の服が入っていた。
「なんで俺は宙づりだったんだ」
「二人も物入れに入らなかった」
「でも宙づりにする必要が……まぁいいや」
ダークは言いかけてやめると自身の上着と下のシャツを取った。広げて確認するが肩の部分が矢のせいで破れていた。だが、仕方ないと諦め、着かけるとテンラが話しかけてきた。
「見たことが無い服だ、ダークは人間の中で偉いのか?」
「偉い人間が焚火で暴れてるかよ、ただこの服しかないだけ」
「その服を着る必要が無いなら、この服に変えた方が良いかもしれない」
「ん?」
そう言ってテンラは物入れのクローバーの居る場所の下の長方形のスペースを開ける。すると着衣をセットで渡された。緑色の布で出来た簡易な軽い服とそれに合わせたズボンだった。どちらも男物で少し汚れていたが、ダークは笑って受け取り、ボロボロの貴族服の代わりにその服を着ていく。




