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第三章 六話


 知らない声が聞こえ、イーシーは目を細めて声の方向を見た。


 「テンラちゃん、嫌がってるからやめましょうよ!」


 「誰だ貴様」


 「お前、どうして……なんで腰布しか着けていないんだ!?」


 テンラは赤面し、そう言う。上半身裸は良いけど下もはダメなのかと能天気に思ったその男はダークだった。

 だがなぜか腰から陰部を隠すだけの役割を果たす布しか着けておらず、片手には刀身が無い剣の柄だけが握られていた。それを見たイーシーはテンラを予定通り、従者の三人に投げるように渡すと睨んだ。


 「名を名乗れ、人間、と言ってもこの言葉が通じるかな?」


 「俺はダークアナライザーって言います」


 「なっ!? エ、エルフ語だと!?」


 目の前の男を馬鹿にしたような口調で煽ったイーシーだったが、ダークがこちらの会話に合わせてきた事に驚きを隠せなかった。


 「き、貴様、どこでエルフ語を習った? まさか……」


 イーシーは背後で従者が捕えているテンラが一瞬、頭の中で浮かんだ。

 だが、エルフ語を人間が一から習うのに最低でも三年は掛かる。だが、その最低も人間でも稀な天才魔術師などが読み解いた場合だ。イーシーはテンラの居るこの場所にたまに憂さ晴らしに来ていたが、こんな人間の匂いに数年も気づかないわけがないと自身の能力を疑わずにそう思い、テンラを頭の中から消した。


 「俺は天才だから学ばずとも喋れるのです」


 ダークはエルフ語を喋っている感覚は無いがそう言ってのける。それに対してイーシーはさらに睨みを強め、両腰にある剣の柄を両手をクロスし、一本ずつ握りしめる。


 「平和的解決がしたかったんだけど、そっちがその気ならしかたないな」


 敬語をやめ、柄しか無い剣を刀身のあった場所を上に向けて構える。イーシーも二つの剣を抜き、笑みを浮かべる。


 「そんな刀身のない剣でどうする気だ、人間、俺は本村でも二刀流の達人と呼ばれ―――」


 「で、でろうおおおおおおお!!!」


 「なにっ!? うわぁあああああああ!!!」


 イーシーの語りを中断したのはダークの持っていた柄だけの剣だった。柄だけの剣から出たのはとても太く大きいさきほど天に向かって放たれた光の柱だった。光の柱は近くにあった木に光の粒子を浴びせる。木は一気に燃えていく。だが、燃え広がりはせず、その木は黒焦げになり、消失していった。


 「う、うわあああああ!! まじでこれ扱い方わかんないし、熱い!!」


 「き、貴様、その光魔法の武器をどこで手に入れたんだ!」


 「し、知るか! ちょっ、まじでこれにビビったならさっさと逃げろよ! お前の仲間は既に逃げてるぞ!」


 「なっ!?」


 ダークの言葉を聞き、イーシーが振り向くと木の茂みを飛び超えながら逃げていく三人が居た。テンラはロープを巻かれていたらしく、ロープを解こうとどこから取り出したのか小さいナイフを縛られた両手で器用に持ちながら地面でのたうち回っていた。イーシーは不意に右手に持っていた剣を素早く左腰の鞘に戻すと、テンラに右手を伸ばした。


 「くそっ! 来い!」


 「あ、おい! 卑怯だぞ!」


 イーシーの狙いはテンラを盾にすることと思ったダークだったが下手にこの光の剣を振るうとテンラまで巻き添えにしてしまう可能性を考え、下手に動けなかった。

 だが、テンラは大人しく攫われるような女では無かった。


 「さ、触るな!」


 「がぁあ!?」


 右手を近づけたイーシーにテンラは両手で持っていたナイフを両腕で振るって払おうとしたが、それが運良くイーシーの右手を切り裂いた。思ったよりも深く切り込まれた右手をイーシーは震えながら見た。


 「お、俺の手がぁ!! お、覚えていろ!」


 イーシーは右手を押さえながら、ダークとテンラにそう吐き捨てると仲間たちが逃げた方に一目散に逃げていった。テンラは血の付いたナイフをその場に手を震わせて落とすと身体を上に向けて未だに残っている光の柱を見つめた。


 「救いの光か……」


 そう呟いたテンラの顔には笑顔があった。あのイーシーに一泡吹かせた。その事実がテンラの心を熱くさせた。そして、光の柱を出している人間の男、ダークアナライザー、彼が救いに来てくれたことを思い出し、更に心がどくどくと脈を打った。

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