第三章 五話
エルフの子ども―――テンラはダークアナライザーの居る小屋から出ると、一目散に下に降りていく。この小屋は大木の上に蔦や丸太で支えられていたのだ。
身軽に大木の下に続く木で出来た階段を降りたテンラは地面に降り立ち、少し歩く。テンラが歩いている場所は木が多く乱立した雑木林で虫や蛇がそこらをうろうろとしていた。
一瞬、雑木林の奥を見たテンラはため息を吐く。そこにはダークアナライザーを閉じ込めた小屋と同じくらいの大きさの小屋が一つ、無理矢理建てられたかのように建っているのみの空間があった。その唯一の小屋もところどころの家のパーツである木が腐っており、快適に住める場所では無かった。
そんな小屋がある場所を抜け、整備された綺麗な森の中に入ると嫌な物を見たような顔をした。
「イーシー、なぜ来た?」
「お前には用など無い、お前が拾った人間に用がある、隠しても無駄だ、俺たちが捕まえた人間の仲間の匂いを追って着いた先の焚火にお前の匂いが濃く残っていたぞ、まがい物の匂いがな」
そう冷たく言い放ったのは両腰に一本ずつ剣を吊るし、胸元が見えた熊の毛で出来た服を着ていた若い緑色の長い髪を持つエルフだった。その顔には自信と態度のでかさが表情として表れていた。そして背後には同じように若いエルフの男が一人と女が二人の計三人が付き従っており、この三人もテンラを見てニヤニヤと嘲笑の笑みを浮かべていた。
テンラは幼い顔を歪ませ、エルフの男―――イーシーを睨みつける。
「何を睨んでいる? まがい物中のまがい物を置いてやってるだけ感謝しろ」
「……」
「おい、聞いているのか!」
「い、痛い! やめて!」
イーシーはテンラの態度が気に食わないのか、テンラの髪を引っ張った。短い髪を何度も何度も引っ張るイーシーは笑いながらテンラを地面に叩きつけた。
テンラは地面を握りしめながら立ち上がろうとしたが、イーシーはそれを狙ってテンラの顔面目掛けて蹴り上げようとした。
「っ!」
テンラは目を瞑って耐えようとしたその時、突然、上空から爆発音が聞こえた。イーシーは蹴るのを止め、上空を見上げた。イーシーは酷く驚いた顔をしており、お付きの三人も酷く狼狽していた。
テンラも恐る恐る音の先を見る。イーシーからは木で隠れていて見えなかったろうがそこはあのダークアナライザーの居た小屋だった。
だが、それよりもテンラは目を見開いて驚いた。小屋のある辺りから金色の柱が上空に向かって流れていたのだ。
「な、なんだあれは! 説明しろ!」
イーシーはテンラの肩を揺らして聞いてくるがテンラにさっぱりだった。変わったことと言えばダークアナライザーという変な男が居ることぐらいだ。
「あ、き、消えていきます!」
背後でイーシーの従者の一人の声が上がる。光の柱はどんどん細くなりそして消滅した。イーシーは安堵の表情を浮かべるとテンラを見て怒りだす。
「貴様! やはり神聖王国か獣心共和国のどちらかを匿っているな! さっきの光が証拠だ!」
「ち、違う、あ、あの男は騎士でも獣でもない……」
「ふん、だが誰かを匿っているのは真実か」
「んっ!?」
「お前は昔からよく馬鹿正直に物事を言うからな、隠しても無駄な事が分かったか?」
「くそ……」
テンラは自身の口の軽さを憎み、口に手を押さえる。それを見てイーシーははっはっと高笑いし、イーシーの頭上を強く手で握った。
「い、いたっ!?」
「俺を騙そうとした罰だ、本村の洞窟に丸一日、閉じ込めてやる」
「い、嫌だ! あそこは化け物が住んでいるのだろ!」
「ふんっ」
テンラは怯えたような顔をすると首を横に大きく振った。イーシーはそれを見て鼻で笑った。
「馬鹿め、そう思っているならそうなんだろうよ」
「どういう意味だ!」
「それは洞窟で一晩過ごしてからのお楽しみだ、おい! こいつを縛り上げろ!」
「おいおい! 待ってくれよ!」
「あ?」
イーシーが従者の三人にテンラを渡そうとした時、光の柱が立った方向から男の焦るような声がイーシーの動きを止めた。




