第三章 四話
総馬は暗い道を歩いていた。そこには何もなくただ総馬は歩いていた。だが、途中、確かに見えた。それはこちらに向かってくる。
―――――――――それは生きた異世界カエルだった。
「もうカエルは嫌!!!」
そんな悪夢を見た総馬はそう叫びながら目を覚ます。だが、そこに視界に映ったのは丸太で出来た床が上・に・見・え・る・部屋だった。というよりも、総馬―――ダークが吊るされていたのだった。
「寝起きでこの体制は辛いものがあるな、確か、この体制のままで居ると死ぬんじゃなかったけ」
ダークは思い出したかのようにそう呟くと冷や汗を掻き始め、急いで自身が吊るされている足元を見る。すると荒縄がダークの両足を縛りあげて天井に吊るしていのと、現在、上半身だけが裸なことだ。
ダークは上半身を上げて荒縄に触れようとするが触れれるだけでどうこうできるとは思えなかった。
「あー、くそっ、こんなんでゲームオーバー……いや、ゲームじゃないんだった、えっと死ぬなんてごめんだぞ」
「起きたのか、人間」
小屋の入り口から聞こえた女性の声に反応し、ダークは女性を見た。
そこには耳が長く、紫色の髪を短く切り揃ており、綺麗と言うよりも幼い顔をした女性が立っていた。年はレイリーとクローバーの中間と言ったあたりか。ダークはそう分析しながら女性の装備を視認する。
着ているものは皮で出来ている鎧に、その鎧の上から銀で出来たバックルで固定された皮で出来ていると思わしきベルトをたすき掛けしていた。
後は毛皮で出来た短いスカートのようなものを履いており、綺麗な足がダークの目に映る。靴は茶色いブーツで上部分には白い柔らかそうな物が詰められていた。ただダークの感想としては全体的に使い古している感が出ており、何年もこの服装を使い込んでいるように感じた。
武装は背中に弓と矢筒があり、銀のバックルのベルトはその弓と矢筒を固定するために着ているのだろう。後は直接確認しないと分からないが、ナイフなんかを隠している可能性をダークは捨てなかった。
「どうも、こんにちわ」
「お前、エルフ語が分かるのか?」
「いや、知らないぞ、まずエルフってあれだよね? おとぎ話とかの」
「むっ、私たちはまだ滅んでいないぞ! おとぎ話扱いとはもうすでに忘れ去られた種族と言いたいのか!」
「いやいや、そんな馬鹿になんかしてないよ! 落ち着いて」
ダークの言葉に、自分をエルフと間接的に名乗った女性は激高し、弓に手を掛けた。ダークはこんな状態で狙い撃ちにされたらたまらんと手を振って落ち着くよう促した。
「……どうもこの世界の女性はたくましいのが多いらしい……」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない、そうだ、エルフってあれだ、明人が好きなやつか……」
ダークは明人との思い出を思い出す。あれは確か、出会って一か月経ったころの学食の時だ。
『なぁ、知っているか、総馬、エルフってのはエロイんだ』
『総馬、エルフの胸って良いよな』
『子どもエルフも可愛く捨てがたい、胸は控えめだがそれが良い!』
ダークは思い出したがろくな情報を得られなかったと、今は無き友を恨んだ。明人はエルフの事を総合的にエロイとしか思ってなかったらしい。だが、まさか、君、エロイの? なんて聞けるわけがないし、聞いたら死だとダークは口をつぐんだ。
「あ、あのさ、俺、ダークアナライザーっていうんだ」
「……人間の名前って長すぎないか?」
「俺はちょい特殊なんだ」
「そうか、まぁ、エルフ語を喋るくらいなんだ、人間にしては頭の出来は良いのだろうな」
「はっはっ、ありがとう」
なぜか見下されたダークだが、相手は女の子だ。それに明人の話通りでは胸部が薄いのは子どもらしい。
つまり、この子は子どものはずだ。子どもに怒るほど総馬さんは器量の狭い男じゃないとダークは胸の中で思い、笑いながら、君は? と尋ねた。
「お前に名を名乗る理由が無い」
「あ、はい」
きっぱりそう言われ、ダークはつい落ち込んでしまう。こっちは名乗ったのにという小さい理由だったが、ダークはその後、話の糸口が見えずに時間が経った。エルフを名乗る女の子はなぜか黙ってダークを見つめている。ダークは目を逸らしているが、それでもじっと見つめていた。
「あ、あの、そんなに気になるなら降ろして―――」
「ダメだ」
「はいはい、分かってますよぉ」
ダメもとで聞いてみたがやはりダメかと項垂れ、拗ねた風な口調でそう言いながらエルフの子を見た。エルフの子はやはりダークを見つめて黙っている。
「あんまり見ないでよ、恥ずかしいな」
「は? 何を言っているんだお前は? 男なら上半身裸で過ごしていても普通だろ、それに好きで脱がしたわけじゃない」
恥ずかしがるダークに一喝するエルフの子の言葉を聞き、ダークは俺の世界で言ったらバズりそうだな、炎上系でと、思いながら質問を投げかけた。
「あのさ、俺の連れ知らないかな? 緑色の髪の女とこっちはあの場に居なかったからわからないかもだけど、黒髪の小さい女の子」
「知っている、お前と緑の女を気絶させたのは私だ、黒髪の女の子は知らないが」
「ああ、気絶する前に見えたのは君か」
「お前は変だ、あの煙を嗅いでも眠らない、矢を使うしかなかった、でも安心しろ、手当は済んでいる」
その言葉を聞き、ダークが視線を肩にやると確かに包帯が巻かれていた。だから上半身裸だったのかと納得した。
「ありがとうな」
「お前、やっぱり頭の出来よくないな、撃ったのは私だ」
「まぁ、そこは煙で眠らなかった俺のせいって事で」
「意味がわからん」
呆れた様にそう言い放つエルフの子を見て、ダークは悪い子じゃないなと思った。きっと話せばわかってくれるはずだと確信した。
「あのさ、エルフちゃん」
「エルフちゃんじゃない! テンラだ! あっ!」
勢いで言ってしまった事が分かったのか、口を押えるテンラ。やはり、まだまだ子どもだなとダークは内心笑った。




