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断章 七話


 黒いワゴン車の後ろのドアが開き、飛び込むように入るとワゴン車が一気に走り出した。船見は乗っていた人物を見ようと顔を上げる。そこには巨体の男―――大島明人がかなりスペースを取って居た。船見は明人を見て困惑するがさらに助手席には船見が知っている大八木が居た事により、驚いて叫んだ。


 「なんでお前ら居るんだよ!」


 「僕もびっくりだよ、正体不明の人物が勢揃いって笑えるし、ああ、少女と黒人は居なかったけど」


 「どっきりとかじゃないんだな?」


 「こんな大掛かりなドッキリは誕生日にしかしたくないよ」


 「誕生日でも嫌ですよ……」


 大八木のちゃらけた冗談に明人はうんざりしたように答える。すると運転席からなぜかペットボトルの水が差し出される。船見は受け取ると一気に喉に押し込んだ。


 「おつかれさまです、船見さんでしたっけ? 私は未市光です、偽名ですけど、便宜上、名前が無いのは不便なので……そこの二人にも言っていますが詳しい話は後で」


 「あんたが正体不明の人物の? 確かに正体不明だな、国籍は?」


 「その覚え方は失礼ですね、国籍は秘密です」


 「え? 日本人じゃないんですか?」


 「船見さんのせいで大島さんが食いついてしまいました」


 「悪い、大島くん、今は我慢してくれ、えっと免許証あるか?」


 「す、すいません」


 「免許証というものがあるということは知っています」


 「よし、運転変われ」


 「いえ、それよりも追いつかれた時に対処してください」


 「車に追いつく人間が居るかよ」


 「人間じゃなかったらどうですか?」


 「……対処って?」


 「どうぞ」


 そう言って光が出したのは拳銃だった。船見は拳銃を預かるとまじまじと見た。すると船見は手慣れた手つきで安全装置を外し、また入れた。


 「本物か?」


 「はい、本物です」


 「手慣れてますね、まさか仕事ってそういう?」


 「いいや、違うよ、ただ男の子が憧れる物ランキングに入ってそうだろ? 拳銃ってさ」


 「船見君は昔からそういうの好きだよね」


 明人の質問に笑ってそう返す船見だが明人は心配出来ないのか不安そうに拳銃を眺めていた。そんな明人の不安をよそに船見は拳銃を安全のため銃身を持ち、運転席にいる光に目をやった。


 「どこでこれを? この車は? どこに向かう? 詳しくなくて良い三つ全部答えてくれ、簡潔に」


 「せっかちな人ですね、まず車と銃は盗みました、かなり前にですけど、後、これから向かうのは下水道です」


 「盗んだってどこで? しかも下水道って……」


 「日本で本物の銃を手に入れるのは難しいらしいですね、でも私が最初に日本で来た場所にはありました」


 「なぞなぞかな? 分かる? 船見君、大島君」


 「その筋の娘とか?」


 「いいえ、違うわ」


 「その銃、日本産の9mm拳銃ですよね? つまり自衛隊から盗んだ?」


 「正解です、大島さん、その話も後でしましょう」


 明人は正解したことに少し喜んだのか、満更でもない顔をした。船見はへーと感嘆した声を上げ、大八木は答えた明人にやるじゃないかと称賛の拍手をした。だが、光からは疑問の声が上がる。


 「でも本当に大島さん? 総馬さんの話と全然違いますね、もっと賑やかな方かと、電話でももっと変わった喋り方でしたし」


 「そ、それは……」


 光が言っているのは魔術師になりきっているときの明人だ。明人はそれが分かり、あたふたしていると大八木が口を挟んだ。


 「そうだよね、噂じゃああの道下君と居る時の君はもっとうるさくてうざいって聞いたことあるけど僕は見たことが無いよ」


 「そ、そんな噂流れてるんですか!? あれは総馬や他の仲間が居なければ出来ないんです」


 「どうして?」


 「内緒です……」


 「僕のマネ?」


 明人はバーでの大八木が内緒にしたような素振りを見せると大八木は笑いながらそれ以上は聞いてこなかった。すると突然、車が止まった。赤信号だ。車はすでにこの街のはずれにまで来ており、二車線の道路で停車していた。はずれはかなりの田舎で他に車などはなく、景色も田んぼが多くなっていた。だが、それでも赤信号を無視しないのは無免許運転しているからだ。


 「そういえばその地下道に何があるんですか?」


 明人はふと、地下道について聞いていなかったと思い、質問をした。すると光はたんたんと言い放った。


 「簡潔に言うとあなたたちは狙われているので別の世界に行ってもらいます」


 「っ!?」


 「それはどういう意味ですか?」


 「なっ!? 意味がわからねえ! 降ろせ!」


 「ダメ! 開けないで!」


 突然のその言葉に明人は驚き、大八木は疑問を投げかけるが、一番目立ったのは怒り出した船見だ。船見は車のドアを開けようと手を掛ける。光が止めようと声を荒げると、船見は手を離した。だが、それは光の言う事を聞いたのではない。窓ガラスの向こうに立っていた人物に驚愕したのだ。


 「先ほどぶりだな、たばこ、美味しかった……ぜ!」


 そこにはサイファーが居た。赤信号で止まっているこの車の窓をのぞき込んでいた。そしてサイファーが窓ガラスに手を突っ込んできた。窓ガラスはいともたやすく割れ、車の内外に窓ガラスが飛び散った。

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