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序章 三話


 「にしても光さんがゲーム好きだったなんて」


 光と別れた総馬は帰路の中、なかなかあの綺麗でまじめな令嬢のような女性がゲームをしたがる姿を想像できない。実際、我慢してたかどうかなんて、自身の憶測だとは分かっていた総馬だったが、彼女がゲームをやりがたる理由に納得を得たいというわがままが総馬に纏わりつく。ゲームが好きだからどうこう言うつもりは総馬には無かったが、実際、これまで彼女から得ていたイメージとしては少しかけ離れている気がする。

 ふと、そう言えば、まったく詳細なゲーム内容を聞けてないなと思った。精々これがファンタジーRPGであるということだけだ。


 「明人に聞いてみるか、それに明日届くゲーム機の設定も手伝ってもらおう」


 総馬は六畳一間の部屋と小さい風呂とトイレ、キッチンが入り口の端にあるアパートの一室に帰ると、早々に六畳一間の床に敷かれたおしゃれな青いカーペットに胡坐を掻き、真ん中に置かれた机に放置されたペットボトルの水を飲みながら、親しい友人の明人を思い浮かべ、スマホを取り出すと、一対一の連絡用アプリを起動させる。

 アプリを起動させると「ダークアナライザーSS」と明記され、アイコンはゲームのキャラで明人には似ても似つかない赤い髪にまるで昔の貴族が着用していそうな綺麗な白いタキシードを見にまとう王子様の様なキャラがドヤ顔をしているユーザーを見つけるとそこにメッセージを送る。


 【明日暇か? それと聞きたいことがあるんだが】


 総馬は簡単かつ明快なメッセージをポンッと手軽に送る。すると、すぐに既読が付き、返信がやってくる。だが、その返信に総馬は苦笑いしか出来ない。


【明日の魔法大学が終わり次第、上級クエストに入ろうと思っていたが親しみの関係である総馬が私に用があるのなら上級クエストはキャンセルさせてもらおう、お得意の貴族の頼みだが、総馬の頼みなら仕方あるまい】


 などと言う謎の怪文書が送られてくる。明人はネットだとこんな感じだった。総馬の大学は魔法なんか習わない。ちなみにユーザー名のダークアナライザーSSのSSについて総馬は昔聞いたことがあるが、なんでもそのゲームのクエストをどこまで受けられるかを示しているらしい。そしてSSは最上級クエストで、その上にSSSがあるとかなんとか。明人は三百種類の武器を扱うキャラらしく、武器倉庫がどうのと言っていた。


 【それはありがとよ】


 【ふむ、で、用件は?】


 【お前が今日言ってたゲームってフリーダムってやつ?】


 総馬は少しの希望とたまには役に立つんじゃないかという点で期待感が募る。だが、返ってきた反応は残念なものだった。


【うん? それはなんだ? すまないが聞いたことが無いな】


 意外だった。ゲームマニアの明人が知らないのもだが、そんな明人が知らないゲームを光が知っていたことに総馬は驚きを隠せない。


 【いや、俺の彼女がしようと言ってきたゲームなんだが、写メ送るわ】


 【彼女とゲームだと! リアルでもゲーム内でもイチャイチャか!? あぁ、いや、私の持つ念写用のスクロールに念写してくれ】


 最初の文面から嫉妬の二文字が滲み出ている。だが、それは無視し、総馬はパッケージの写真を撮ると、すぐさま送り付けた。


 【おお! これは!】


 【なんか分かったのか?】


 【ああ、この真ん中の幼子が居るだろ? そして、その隣にエルフの幼子が居るだろ?】


 パッケージには確かに幼いエルフが魔法の杖を持って恥ずかしそうに笑っている。それに見覚えがあるのだろうか。


 【ああ、居たぞ】


 【可憐だ】


 【???】


 そんな感想を聞きたいわけじゃない。総馬はそう思い、返信しようとしたが、すぐさま飛んできたメッセが飛んでくる。


 【このゲームは知らんがこの子の為にしたくなってきた、だが、聞くのだ、総馬よ】


 いつもの返信とは少し違う。雰囲気が作られておらず、総馬は少し眉間の皺を寄せる。


 【ん?】


 【このゲームは通販サイトにも売り出されておらず、公式ホームページも無い、つまりは未発表のゲームだ、お前の彼女はあの未市(みし)嬢だったか、彼女がゲーム研究部などに参加しているという情報は聞かんが、親がゲーム会社の人という線は?】


  調べるのが早いな。という感心と共に不意に出された彼女の名前に少し戸惑う。未市というのは光の苗字だ。だが、総馬は彼女がゲーム研究部に入ってるなど、聞いたことが無い。それに。


【いや、親御さんは有名な物流会社の重役のはずだ】


 一度、総馬が光から親の仕事について聞いたことがある。だが、有名な物流会社と言う事しか聞けず、後は「コネ入社したいの?」と意地悪な笑みを浮かべて聞いてきた光に面食らって、思わず話題を逸らしてしまい、それっきり親御さんの話を聞いたことが無かった。


 【なんだか、きな臭いな】


 【そんなに考えることか? あ、ほらもしかしたら親が貰った試作品のゲームをレビューするために手伝ってほしいとか】


 【む、それはありえるな、だが……よし、明日と言わず、今すぐ私の家に来てくれ、そのゲームパッケージを見る限り、この前出たゲーム機のパッケージだ、実は総馬に勧めたゲームもそのゲーム機なのだ】


 【つまりはそのゲーム機をお前は持ってる?】


 【そういうことだ】


 総馬は考えた。今から明人の家に行くのは不可能ではない。今は夜の二十時、夜遊びも大学生の本分ならば余裕な時間だ。明日、機材は届くと言うが、明日まで疑心暗鬼で過ごしたくない。普通のゲームと言う事が分かればそれで良いのだ。


 【そういえばお前は機材を持っていないと私は予測するが、買うのか?】


 当然の疑問だ。総馬は軽い気持ちで真実を送る。


 【いや、彼女が明日届くよう、送ってくれたらしいんだが、買ってもらうのも悪いから今度金を返そうと思うんだが、その機材いくらするんだ?】


 総馬がそう送ると、突然、そのアプリの通話機能が動く。顔を見ずに喋るのを苦手とする総馬は普段、その機能を使わないため、少し焦るが通話を繋げられ、安堵する。


 『五十万だ』


 鼻息が荒い明人が低くまるで意を決したかのような声で言い放つ。総馬は急に出されたその金額と威圧感のある言葉に圧倒される。


 『ケタが一つ多くね?』


 明人の冗談だろうと高を括って冗談交じりにそう言うが、明人の声音は変わらず、その金額が現実だと総馬に叩きつけられる。


 『総馬、お前はあのゲーム機を動かすのにいくら必要だと思ってるんだ? 本体にフルダイブ用ヘッドセット、更にはそれらをバックアップするための小物を揃えるだけで、合計五十万以上だぞ! それを容易く送るなど、どれだけ金持なのだ! この逆玉男め!』


 俺はそれを聞き、唖然とした。そんなものをこの家に送ると言っていたのか。俺は彼女がそこまでしてこのゲームを一緒にやりたいのかと少し異常感を覚える。それにそんな金を返す当てがあるわけがない。


 『な、なぁ、何かの間違いじゃないか? だってただのゲームだろ? お前はどうやって買ったんだよ?』


 『ん? 私は親に車を買うからくださいと土下座した』


 『……』


 控えめに言ってクズだった。だが、今は明人を糾弾する気は起きない。というか、もう買ってしまっているし、そのおかげで調べられるから明人の親御さんに同情する気持ちはあるが、ナイスとしか言いようがないと総馬は下衆な事を考えた。


 『ていうかよくそんな高いもん、勧めようとしたな』


 『勧めたのはゲーム機ではなく、ゲームソフトだ、ゲームに関心が無いお前が関心を持てば、私も趣味を共有できるようになるではという布教用だ』


 『いや、ゲームソフトだけ買ってどうすんだよ、飾れってか?』


 『ああ、飾れ、いつかゲーム機本体を買いたいと言う欲求を刺激されろ、そしてどうしても買えずにやりたくなったら私の家に来てくれ、一時間千円で良いぞ』


 『金取るのが目的かよ、お生憎様、明日には届くからハマっても金は払わなくて済むな』


 『初心者レクチャーは要らんかね? 一回千円』


 『要らない』


 『装備アイテム、高レア装備二千円』


 『要らない、というかゲームが違う』


 タダでは転ばない精神で色々提案を繰り返す明人。だが、総馬が断っても明人はあっはははと笑うだけで何度も提案を続ける。ポジティブな男だと総馬は笑う。さっきまで感じていた異常感をこのやり取りで拭いさった総馬は立ち上がる。


 『そろそろそのセールストークはやめろ、今からお前の家行くわ』


 『うぬ、そうか、待っているぞ』


 『ああ』


 総馬は頷くと通話を切り、ゲームパッケージを入れたカバンを肩から下げ、アパートから出ると鍵を閉め、陽気な歩調で歩き出した。


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