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第二章 二十九話

 

 「終わったのか?」


 「ダークさん、お怪我は大丈夫ですか?」


 「ああ、レイリーのおかげでな」


 「私の力で腕も再生できれば良いのですがそこまでの大けがだと……」


 「大丈夫ですよ、それはそこの左腕をつぶした人に責任を取ってもらいます」


 「は!? あれは戦闘だしおあいこだろ!」


 突然、責任取ってよねみたいな言い方で責められた総馬は慌てて反論するがラフィールは綺麗な声で笑うだけで許してくれそうもなかった。後で何を言われるか分からない恐怖を覚えつつ、総馬はあの老人について尋ねた。


 「そういえばあの不気味なじいさんは?」


 「交戦中に逃げられたようですね」



 通りで姿を見ないと思ったら既に砂隠れしていたらしい。あの老人にも聞きたいことはあったが今は情報収集が先決だ。そう思った総馬はラフィールに色々と質問した。


 「あのじいさん知ってたか?」


 「知ってたらアビキダスを死なせたりしません、獣心共和国の者でしょうが………」


 「なぁ、その獣心共和国ってのはなんなんだ?」


 「私も詳しい事は前線に最近出たので戦ったのは初めてですが半獣半人の国だそうですよ」


 「元々一つの国だったって」


 「はい、ですが、半獣半人などは見たことがありません、すいません、実は私、孤児だったもので歴史や教養などは正直、きちんとは習ってはいないのです、フューリー先生という方がたまに勉学を教えてくれるだけで……」


 「なんか悪い事聞いたな……」


 すぐさま墓穴を掘ってしまう。孤児の事もそうだが、一番はアビキダスの死だろう、話している彼女の表情に後悔のようなものが付きまとっていた。だが、総馬はこの女性をよくは知らないし、アビキダスから鎧を奪ってしまったのは総馬だ。責任を感じるのだ。


 「いえ、大丈夫です、アビキダスの事もあなたのせいじゃない」


 「だが、鎧を着ていたら死ななかったのかもしれない」


 「あの時は敵同士だったのですから仕方ありません、アビキダスもあなたを恨んだりはしていませんよ、きっと」


 「ならあなたのことも恨んでないと思いますよ」


 「アビキダスは優しいですからね」


 精一杯のフォローだった。総馬はちょっとそっけなく言ってしまい、まずいかと思ったがラフィールは少し笑顔になったため、結果オーライだった。だが、実際、あんなにもこの女性を守ろうと必死に行動していたアビキダスが祟ったり、幽霊になって出てくるとは思えない。それは短期間の出会いでも充分に分かった。それほどまでに熱い男だった。


 「とりあえず、アビキダスの亡骸は私たちがすでに回収していますので、拠点に撤退します、荷馬車はないですが騎士であり、神の子である私はこの苦難を乗り越えようと思います」


 「そうか、あ、アビキダスの愛馬なら森の中で待機してるぞ」


 「え!? アビキダスの愛馬は肥溜めに落ちて亡くなったのでは!?」


 「嘘だ、あんな何もない森に肥溜めなんかない」


 「ダークさんは本当にウソつきですね」


 「信じたあんたもあん―――」


 「ラフィール」


 「は?」


 「あんたではなく、ラフィールです、そう呼んでください」


 「……ラフィール」


 名前呼びの要求をされ、戸惑うがこれ以上、あーだこーだと言われないために早速名前で呼んだ。するとラフィールは満足そうにはい! と笑っていた。確かに聖女のような笑顔なのだろう。総馬はそう思った。


 「なぁ、どうして助けてくれたんだ?」


 「アビキダスを助けようとしてくれたお礼です、走って駆け寄ろうとしてくれましたね、ありがとうございます」


 「それだけ?」


 「はい、ですが私にとっては充分です」


 「あんたの腕をつぶしたんだぞ?」


 「それは責任を取ってもらいます、ですが私は死んでません、なら良いです」


 その表情は寂しさと感傷が混じった表情だった。それでも微笑むのを止めない彼女に泣きたいなら泣けと言えるのは芯の強い主人公なんだろうが生憎、道下総馬はただの大学生だった。ちょっとキザだが、相手を思いやる言葉を飲み込み、その儚い笑顔を見つめて心の中で謝ることしかできなかった。


 「まぁ、何かしてほしいことがあれば言ってくれ、責任取るよ」


 「では私と信仰のみ―――」


 「そういうのじゃなくて! あんたのタメになることをしてやりたいなって!」


 「信仰を共にしてくれるのは嬉しいですよ?」


 「無理矢理信仰されても神も迷惑だと思うぞ」


 「た、確かに……」


 納得したようだがどうにも不満気なラフィールは目線を総馬の背後に居るレイリーに移した。


 「じゃあ、レイリーちゃんは」


 「私は神様好きですよ!」


 「ほんとですか!? なら一緒に拠点に行きませんか?」


 「ごめんなさい、おばあちゃんの家に一度帰りたくて……」


 「そ、そうですか……仕方ありませんね、では私たちは撤収します、王国にもしも来る際は神聖王国騎士団第六師団団長のラフィールの知り合いと言っていただければすぐさま、私が参りますので」


 「ど、どうも、あ、この鎧返すよ」


 ラフィールは勧誘に二度も失敗したせいか露骨に肩を落とし、残念がりつつも、王国での世話は私がすると意識表明をして、兵士たちを集めて森の中へ行こうとしたが総馬は着ていたアビキダスの鎧を思い出し、泥だらけだけどと言い、脱ぐとラフィールは構いませんと微笑んで受け取ると大事そうに抱え、軍勢を連れて森の中に消えていった。

 あれは王国に来たら責任を取らせるという意味と同意なのではと総馬は少し怯えつつもレイリーに目をやった。

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