第二章 二十七話
巨大な虫に噛みつかれた総馬の目に信じられない光景が目に飛び込んできた。レイリーがその小さい身体で虫の頭部の上部分に飛びつき、引きはがそうとしだしたのだ。
「ダークアナライザーさんを離せ!」
「レイリ―! やめろ!」
レイリ―が小さい手でしがみついて離させようと力を入れていた。だが、レイリ―のか弱い力じゃまるで歯が立たなく、巨大な虫は上に居る邪魔なものを振るい落とすように体を揺らすが、そのたびに総馬の足に抉られるような痛みが走る。
だが、そんな事よりもレイリ―がいつ標的にされるかわからない。そう思った総馬はレイリ-に逃げるよう、叫び続けた。
「レイリー! 俺の事は良い! 逃げろ! お前じゃ無理だ!」
「嫌です! 私、まったく役に立ってないのにここでダークアナライザーさんを見捨てるなんてほんとに足手まといじゃないですか! こいつさえ、どうにかできればその足を治癒します!」
「気にすんな! いいから逃げろ! バカ!」
「絶対嫌です!」
頑固なレイリーを説得するのに難航していると総馬は自身の足の痛みが引いていくことに気づいた。だが、それが痛みが引いたわけじゃなく感覚が無くなっている事に気づくのも早かった。
「ま、まずい! 俺の足が!」
「ダークアナライザーさんの足を離せ!」
「お嬢さん! 伏せて!」
「へっ!?」
レイリーは背後から聞こえた注意喚起に戸惑うもすぐさま地面に伏せた。すると、レイリーの頭上に風を斬るような音が響いた。
「――――――――――――――――!!!!????」
「うおっ!?」
巨大な虫の断末魔と共に足枷が無くなったように地面に尻もちを着いた総馬は腰をさすりながら上に目をやる。
「大丈夫ですか? ダークアナライザー? さん?」
そこには左腕を失い、右手に大鎌を持ったラフィールが機械に包まれた身体で総馬を見下ろしていた。傍には穴から上半身をぐったりさせた巨大な虫の死骸があった。死骸は一刀両断はされておらず、半分ほどの切り口を与えられていた。ラフィールの背後には兵士たちが並んで待機していた。
だが総馬は素直に喜べなかった。ラフィールの機械の身体には虫の体液が付いていたのだ。
「体液が!? レイリーは!?」
「分かりません! でも服の上に何か落ちました!」
「なっ!?」
総馬はレイリーにあの液体が掛かったことを想像し、顔が青ざめた。アビキダスのように無残に死んでしまうのかと。そう思ったら居ても立っても居られず、感覚が無くなった足を引きずりながらレイリーの場所に這っていこうとしたが総馬は地中が振動しているのを感じ、すぐさま後ろを確認すると砂漠を押し上げてやってくる二つの塊が後方から迫ってきていた。あの老人がすかさず送り込んだのだろう。
「大丈夫、お嬢さんはこの上の服を脱がせれば助かります! 私たちはあの邪悪な生物たちを防ぎます!」
ラフィールはそう言うと機械で出来た鎧の下半身部分の足から黒色に光った短剣を出現させ、総馬に差し出した。
「ダークさん! これで液体が付着している部分を!」
「ダークさん!? あ、えっとそんなことよりあんたも液体がついてるぞ!?」
「名前長すぎます! 後私はこの鎧を着ている限り大丈夫です! では任せました!」
ラフィールはゆっくりと凛々しい声でそう言うと総馬とレイリーに背を向け、片手で持った大鎌を構えながら進行していた二つの塊に向かって素早く移動を開始した。その後を追って兵士たちも追従していく。
そんなラフィールを見て総馬は、自身も早くレイリーを助けて彼らの頑張りに応えたいと思い、レイリーの液体が付着していない部分に手を置いた。するとレイリーは身体を不自然に揺らし、砂に付けていた顔がみるみる紅潮させた。
「分かってはいるんですが! は! 恥ずかしいです!」
「悪いが我慢しろ! 付着している背中部分を切り取るだけだ!」
顔を赤らめたレイリーを宥めつつ、総馬は液体が付着した部分だけを小型のナイフのようなものでびりびりと破いた。ここだけ見るとかなり危ない絵面だが、命に関わることだと総馬は罪悪感を押しのけた。作業をやっている正面ではラフィールがモグラたたきの様に出てきた巨大な虫を二匹同時に片手で巧みに大鎌を操り、凌いでいた。他の兵士たちもラフィールの邪魔にならないようにラフィールが防いだ巨大な虫を突き殺すと目を血走らせ戦っていた。
そんな光景が目に映りながらも作業は終わり、破いた部分の服にはアビキダスに掛けられた液体のようなものが染みこんでおり、直に触れることを躊躇い、なるべく触れずに済むように少し余白を作って切り取ったおかげかすぐにレイリーから体液が染み込んだ部分を退避させれた。レイリーの背中の素肌が露呈してしまうが我慢してもらおうと思った総馬だったが切り取ったのは上着で下に一枚シャツのようなものを着ていたので総馬は安堵の息を漏らした。
「下に服を一枚着てるから背中が丸見えにはならなかったぞ」
「そ、そうでした! あ、ありがとうございます! 足の傷治します!」
レイリーは感謝の言葉を述べると安心したのか、立ち上がり、総馬の足に光る手で触れた。




