第二章 二十二話
これはゲームなのだ。つまり、この難局を乗り越えるシステムがあるはず。さっき盾が出たのもそのシステムが作動したのかもしれない。昔やってたRPGでは装備品から装備していた。つまりこのゲームもどこかにそういう項目があるはず。総馬はそう思い、目を閉じ唱え続けていた。
装備品一覧!! 装備品一覧!!!! 装備品!!!! 装備品はありませんか!!!
心の中で叫んだ。この機械の化け物を倒すための武器を授けてくれ。そう願いまくっていた。すると目の裏が見えているはずの目にある光景が浮かんできた。そしてあるシルエットが浮かんできた。総馬はそれをつかもうと必死で手を伸ばした。そしてシルエットに触れた瞬間、目を開けた。
「こ、これ!?」
総馬が手に取ったものはクローバーの持っているロングソードよりも短く剣身も細い剣だった。ラフィールの部下の兵士が持っている剣と似ており、総馬は少し肩透かしした。
「あんな大仰なシルエットでこれ!?」
「叫んでいるところ悪いのですがそれで立ち向かうと仰らないでくださいね、ほんとに加減を間違えたら殺してしまいそうです」
「そそそそその……あれだよ、余裕だよ! あんたなんかこれで余裕だよ! 余裕だっつってんだよ!」
「声が震えていますよ……?」
「無理ですよ! ダークアナライザーさん! それ、銅剣ですよ! あんな大鎌とぶつけあったら絶対折れますよ!」
「大丈夫だ、レイリ―、クローバーの事任せたぞ」
銅剣をラフィールに向け、距離を詰めるようににじりにじりと進んでいく。ラフィールもゆっくりと一歩一歩、総馬に向かって歩み出した。
そして、武器の範囲内に入るやいなや、ラフィールは大鎌を振るった。振るわれた大鎌の刃先が総馬の胴体を斜めに斬り裂こうとした瞬間、持っていた銅剣をめちゃくちゃに振り回す。ちょっと前に総馬は思ったのだ。剣の使い方なんて知らないということを。だが、今はなんでもいいから防がねばと両手で銅剣を振り回す。
すると―――銅剣と大鎌が偶然刃と刃どうしがぶつかった。そして、奇跡が起こった。
「なっ!?」
「爆発だと!?」
ラフィールと総馬はその現象に驚いた。刃と刃の間で小規模の爆発が起こったのだ。ラフィールはすぐさま後方に地面を蹴って下がった。だが、爆発のせいか、ラフィールの大鎌は木端微塵となっており、彼女の握っていた大鎌は刃を失っていた。
「いてぇ……」
総馬の銅剣も木端微塵となっていたがラフィールと違い、武器の形状上、持ち手に近かったせいか手に火傷負っており、どこか裂傷したのか血が垂れていた。周囲には破壊された銅剣の欠片や大鎌の部品が大雑把に地面に落ちており、総馬の血が砂漠の地面を濡らしていた。
「ダークアナライザーさん!」
「大丈夫だ! クローバーの治癒に専念しろ!」
「わ、分かりました」
レイリ―がこちらに来るのが分かった総馬はまだ戦闘ど真ん中のこの場に来させたくないと考え、無理をしてレイリ―を制止した。やせ我慢した総馬は腕の痛みが酷く顔が歪んでいた。
「なんですか、今の武器は」
「こ、これが秘密兵器ってやつだよ」
ハッタリだった。なぜ爆発したのか、普通の銅剣とどう違うのかなんてまったく分からない。説明しろと言われてもこのハッタリしか出てこない。だが、総馬は少し危機感を覚えていた。銅剣が木端微塵になった今、秘密兵器は失われてしまったからだ。
「秘密兵器……御見それしました、爆発魔法を使えるとは」
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
マズイ予感が総馬の頭によぎった。秘密兵器を銘打ってしまったが壊れてしまえば意味は無い。彼女がこれを機に本気でこちらに来られたら総馬はどうしようもない。
「いえ、待ちません」
容赦ない声と共に砂漠の粉塵が一気に舞い上がった。一直線の跳躍をしたのか、数秒の内に総馬の目と鼻の先にまでラフィールは迫っていた。
ラフィールは右拳を握り、その機械仕掛けの鋼鉄の拳を迷いもなく突き出した。総馬は慌てた。慌てた結果、慰め程度だがアビキダスから奪った銅の籠手で包んだ左手を握りしめ、ラフィールの拳に激突させるように突き出した。だが、装備の違いの差は歴然だ。ダークアナライザー自身が自分の腕は砕け散るだろうと心の中で思った。レイリ―に関してはすでに目を閉じていた。
だが、総馬は心の中で思った。
――――――なんか出ろ!! 出て、俺を助けろ! ゲームなら少しはプレイヤー贔屓しても罰は当たらないぞ!! 製作者の―――
「馬鹿野郎!!!!!」
そう叫んだ瞬間、機械と生身の拳はかち合い、肉や骨が潰れる音が辺り一面を覆った。一番恐怖していた総馬はその音を聞くと自身の腕が吹き飛んだと思った。その証拠に左手が重い。きっと砕けなかった部分が垂れさがっているのだと思った。今は脳が麻痺していて痛みを感じない。目を開けたら痛みと痛ましい光景が頭の中に入ってくる。そう思うと総馬は目が開けられない。




