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第二章 二十一話

 

 「に、逃がすなぁ!」


 「良し! なんとか逃げれた!」


 アビキダスの叫び声を背中に浴びながらダークアナライザーはガッツポーズで逃げていく。足の疲れも残ってはいたが今は逃げるのが最優先だ。

 すると偶然にも森を抜けるとそこにはまた砂漠の光景が広がっていた。そしてそこには未だに攻防を続けているラフィールとクローバーが居た。


 「あんたしぶとい!」


 「はい、しぶとさだけは人一倍です」


 「減らず口!」


 水の剣とロングソードを交互に使うスタイルのクローバーと大鎌を両手で巧みに操るラフィールの攻防は互角の様でラフィールの優勢だった。彼女の大鎌は使い辛そうに見えるが一振り一振りは速くそして強力だ。刃の部分だけではなく、柄の部分でもクローバーの武器の軌道をずらすなど大鎌の部位を余すところなく使っていた。すると次第にクローバーは隙が見つけられず、苦戦を強いられる。

 すると大きく振りあげられた大鎌がクローバーの胴体を引き裂こうと刃が迫らせた。だが突如、進行方向を変え、切り裂くのではなく、刃部分をクローバーの背中よりも後方に押し込み、両腕を大きく引いた。


 「危ない! クローバー!」


 「っ!?」


 クローバーはダークアナライザーの声と刃先の行方を瞬時に理解したのか、素早く後ろを振り向くと自身を守る様にロングソードの持ち手と刃の平坦なとこを掌で押さえる。


 「足ががら空きです」


 ラフィールは大鎌を胴に向かって引くとダークアナライザーは思ったが、突然、刃先を地面に落とし、ロングソードが守っていない足に向かって引かれた。引き裂かれる肉の音共にクローバーの身体は砂漠の大地に崩れていった。


 「アアアアアアアアア!!!!」


 悲痛な叫びが砂漠と森に響き渡る。叫びながらのたうち回るクローバー。だが、見ていて一番辛かったのは彼女の足から溢れ出している大量の血だ。斬り落とされるわけでは無かったがばっくりと右足の太ももから血が溢れ、大量の砂を濡らしていた。

 今が暗くて助かった。夜目が効いた目を擦りながらクローバーの無事を確認するがくっきりと見えないことに若干の感謝をした。動かしたら千切れてしまうのか、表面より深くなのか、ダークアナライザーはそんな事知りたくなかった。

 ダークアナライザー……道下総馬は目を閉じていた。見たくなかった。だが見てしまった。目を伏せても、聞こえる断末魔。だが、耳に手がいかない。動けない。まるで断末魔が金縛りを引き起こしているようだった。


 「……なんなんだよこのゲームは」


 ポツリと呟いたその言葉さえ、断末魔で消されてしまう。


 「クローバーさん!!」


 木の上に居たにゃんにゃんねこが飛び降りると敵兵が驚きの声を上げている間に駆けだすと、未だ、クローバーの足を斬り裂いた機械の化け物が居るにも関わらずそんな事はどうでもいいと言わんばかりに駆け寄ると傷口に手を当てた。不思議な事に血がどんどん流れるを止めていき、だんだんと断末魔が落ちついていくと呼吸が整っていった。


 「貴様! 待て!」


 「回復させてあげなさい、手加減して足を斬り落とさないように気を付けましたが申し訳ありません、深く切りすぎました。にしても回復魔法が使える方が居て助かりました」


 にゃんにゃんねこを追いかけてきた兵士たちがにゃんにゃんねこに触れようとした瞬間、ラフィールから制止の声が上がる。

 だが、それ以上に淡々と紡がれるその言葉に総馬は自分の感情が高まったのが分かった。この女は人の足を斬り落としかける事が出来るなんてほんとに人間なのかどうか総馬は憤慨した。総馬はこの感情を最初抑えようとした。自分に合わない感情だと思ったからだ。

 だが、総馬は叫んでいた。


 「おい! あんた! 次は俺が相手だ!!」


 「いえ、やめましょう、これ以上戦っても無駄です」


 「あんたを倒す」


 「……その綺麗な顔を斬り裂いてあげてもよろしいのですよ?」


 「別に借りもんの顔だから構わないがそうはさせないさ」


 「意味がよく……」


 「分からなくていい、ただあんたと戦うってことだ」


 「無謀ですよ、あなたが私と同等の力を持っているはずがありません、これは神からの贈り物なのです」


 「俺には運が味方してくれるさ」


 「……分かりました、ですが無理はしないように、降参はいつでも大丈夫です」


 「じゃあちょっと待ってろ」


 「?」


 総馬は一度、待ったをかけると姿勢を正して目を閉じた。そして静止したまま動かなくなった。


 「あの、どうされましたか?」


 「ちょっと待ってろよ、今、なんか出そうだから」


 「は?」


 「ふざけている場合じゃないですよ! クローバーさんも今、傷を治していますが、痛みで気絶してしまいましたし」


 「大丈夫だ、信じろ、レイリ―」


 ラフィールの素っ頓狂な声は無視し、にゃんにゃんねこ―――レイリ―の発言を総馬はたしなめると、精神を研ぎ澄ました。

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