第二章 十八話
その声音は先ほどとは違い、冷たく低い声だった。ダークアナライザーは思わず首を思いきり絞め上げようとしたが瞬間、ラフィールの鎧は光を帯び始めた。
「まずい! ダークアナライザー! 離れなさい!」
「っ!?」
クローバーの忠告をすぐ聞き、ダークアナライザーはすぐにラフィールから離れ、その光景を見つめた。
「何かした方が良いんじゃ」
「あの状態じゃたぶん何をしても無駄よ、出るわよ、あの女の秘密兵器」
そんな会話をしているとラフィールがこちらに振り向いた。するとダークアナライザーはとても酷く驚いた。
「そんな!? バカな! このゲーム、時代背景どうなってんだよ!」
「げーむってあのガチャガチャするやつ?」
「え? なにそれ?」
そう質問してきたのはいつの間にか降りてきていたにゃんにゃんねこだ。友人と接触している可能性が濃厚な彼女が知っているのは無理がないし、この世界にゲームが無い決定打としてクローバーはゲームを知らない。だが、今はそんなことより目の前の機械に立ち向かわなけばならない。
「おい、クローバーこの時代にああいうのは多いのか?」
「いいえ、確かに最近、鉄の塊で車というものが出来たのは知っているけどあんな人型の鉄の塊知らないわよ」
「そうか……」
時代背景が読めない。あのラフィールは確実にダークアナライザーの元居た場所のSF映画やアニメに出てきそうな人型ロボットのようだった。クローバーが言っていた光る目とは車のヘッドライトのようなもので、ロボット的には外を映す役割を担うものだ。だが、さらに言えば禍々しいとしかクローバーが言えなかった姿は黒の鎧をベースとした外骨格が彼女の身体を覆っているのだが彼女の身体の体積が少し増えたような気がする。目しか付いていない顔部分はSFロボットそのものだ。
「私の準備はよろしいですよ、ダークアナライザーさんはよろしいですか?」
「俺の準備って言われてもなぁ」
ダークアナライザーはおどけることしか出来ない自分に驚いた。あの機械の塊は実際にダークアナライザーの世界にだって存在しない。さらに言えばSF映画でさえあれに立ち向かえるのは同等の力を持った怪獣やロボットだけだ。ギリギリ人間が持てる力全てを注ぎ込んで倒せるレベルだろう。
そんな相手に武器もなく、身体能力が向上しているとはいえ、あんな機械の化け物と戦うのは不可能に近い。
「ふざけていると死にますよ、ダークアナライザーさん」
「っ!」
おどけた態度がお気に召さなかったのか、ラフィールは鋼鉄の手の中に大鎌を出現させた。その鎌の先端はかなりの範囲を丸ごと切り取れるであろう大きさだ。あんなもの身体に叩きこまれたら真っ二つになるしかない。
実物を見るとあれを叩き折ったというクローバーの戦闘能力はとてつもない。だが、彼女はほんの一日前に敗北を経験しており、既に技を見切っており勝てるなどとはダークアナライザーは思えず、素直にクローバーに戦うよう頼めない。今はこの場での最善の策を練らねばならない。勝てなくても生き残れる策を……。
「ダークアナライザー! 私が戦うから離れなさい!」
だが、その案を見つけるよりも先にクローバーがダークアナライザーを庇うように前に出ると、水の剣を左手に、ロングソードを右手に持った二刀流のような状態になった。この立ち姿は正に勇者だ。ダークアナライザーは彼女の姿勢に感銘を受けた。が、それと今の状況を打開できるかは別問題だ。
「勝てるのか?」
「多分、でも、無理ではない……はずよ」
「結構曖昧だな、手伝おうか?」
「あんた、ハッタリやだまし以外にもなんかあるの?」
「いや、生まれてこの方、争いごとには関わってこなかったもんで……」
「やっぱりどこぞの貴族のお坊ちゃん?」
「貴族のお坊ちゃんがわざわざ変な作戦立てて行き当たりばったりに人助けなんかしないだろ」
「どうかしら、世の中いろんな人が居るからそんな貴族が居てもおかしくないわよ」
「この戦いに勝ったら教えてあげるよ」
「本当に?」
「ああ」
ダークアナライザーの返事は短かったが確かなんだろうとクローバーは両手に力を入れる。元々出会った時から謎が多い男だった。その謎の答えを知りたいと思ったからかクローバーは死ねないと覚悟した。するとにゃんにゃんねこが音を立てないほど素早くダークアナライザーの耳元に耳打ちした。
「……それはフラグでは?」
「明人みたいな事言うな」
「あなたはやっぱり大島ぁの友人の……」
「後で聞いてやる、今は目の前の敵だ」
にゃんにゃんねこは深刻そうな顔をしながらそう言うが、ダークアナライザーはそれどころでは無いとにゃんにゃんねこを背中に隠し、ラフィールを見据えた。
「安心してください、お嬢さんには手を出しませんよ」
「あら、本当に優しい聖女様ね」
ラフィールは仮面を被り、くぐもった声でそう言うが、あくまでもクローバーは皮肉交じりにそう返した。
「聖女ではありませんが仕方ないとはいえ、殺生自体嫌なのですよ?」
それが本当かどうかは分からないが、今は仕方ない状況なのだろう。彼女は大鎌を両手でしっかりと握りしめ、いつでも攻撃が出来る準備をしている。今更、話し合いで解決は望めないだろうとダークアナライザーはこの戦いに挑む覚悟を決めた。




