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第二章 十七話


 「神様に祈りを捧げられないのは残念ですが、アビキダスが生きていて良かったです」


 「別に無駄に殺したりなんかしないさ、勇者様御一行がそんな外道なわけないだろ」


 「彼女の先代、トワイライトはこちらへ降る際、村一つを焼き払おうとしましたが……」


 「トワイライトさんなかなか外道なんですが、本当に勇者? 勇者ってもしかしてそんな感じなのか……もしかしてクローバーも」


 不意に全体の視線が勇者クローバーの方を向いた。クローバーはその話を聞いて少しげんなりとした表情をしていたが前任勇者のせいで勇者の肩書が泥だらけになっているのだ。そんな顔もしたくなるだろう。すると視線に気づいたのか顔を真っ赤にしだした。


 「な、何見てんのよ! 私はそんな事しないぃ!?」


 クローバーが顔を真っ赤にして反論している最中、隙ありと言わんばかりに弓矢が飛んできた。弓矢は運よくクローバーの頭を掠めるだけに留まったがもう少し背が高かったらどうなっていたかわからない。


 「くそっ! 信じるから周りの兵から目を離すな! お前らも次撃ったらマジでこの女の首を折るぞ!」


 慌てて威嚇すると兵たちは相変わらず大人しいまま憎らしいといった風な視線だけをダークアナライザーたちに向けた。ダークアナライザーは安堵の息を落とした。


 「あなたは女性の首を折るほど野蛮なお人ではないでしょうに」


 「お見通しってみたいに言うなよ、会って間もないんだからさ」


 「でもアビキダスを生かしたのでしょう? 普通は殺した方が良いと思いますよ」


 「だから無駄な殺しはしたくな―――!?」


 「殺した方が無駄にならなかったですね」


 「あなたは!?」


 ダークアナライザーの首が勢いよく絞まっていく。にゃんにゃんねこがひどく驚いた声を上げた。ダークアナライザーは先ほどの会話で察した。首を絞めているのはアビキダスだろう。


 「ほ、ほんものか?」


 「ああ、そうだ! 私こそがアビキダス! その聖女から手を離せ! 悪党!」


 「目覚めがこんなに早いなんて!」


 「ふん、残念だったな、この剣は返してもらうぞ」


 アビキダスは器用にダークアナライザーの首を絞めながら腰に差さっていた自身の盗まれた剣を取り返した。剣を取られたダークアナライザーは確かにあれから数時間が経ってはいたがこんなに早く目覚めるとは思わなかったと自身の思惑が外れたことに動揺した。


 「本物のアビキダス様だ! いけ! 勇者と小娘を捕まえるぞ!」


 すると一人の兵士が突然号令を掛けだし、人質にされたラフィールを囲んでいた兵士たちが一斉にクローバーとにゃんにゃんねこに剣を振るい、槍を突き出した。

 それでもなんとかクローバーは得意の水で出来た剣を振り、敵の攻撃を防ぎつつ、水圧で兵士を砂漠の上に沈めていく。だが、にゃんにゃんねこは慌てふためきながら逃げまどっていた。


 「私はともかくレイ……にゃんにゃんねこはそんなにもたないわよ! どうするの!」


 「んなことより……く、くびが……こうなったら……ふんっ!」


 「ぐっ!? あ、あ、アビキダス! く、首が!」


 「女性の首を絞めるとは!?」


 「バ、バカか……お、おまえがしめ、るから固定して、る腕が後ろにか、傾いているせいだ!」


 首を絞められながらなんとか声を振り絞ってそう言うが嘘のような真実だ。確かに固定している腕が上がってはいるがそれは首が絞めやすくなるだけで実際にダークアナライザーはがっつり力を入れている。


 「くそっ! 離せ!」


 「おめえが……はなせ……」


 「あ、あ! はな……はなして……」


 ラフィールはうめき声のような声を上げ、嘆願しているがアビキダスは迷っているようでなかなかダークアナライザーの首にかかっている腕の力は解けない。


 「解いたらまたラフィール様を人質にする気だろう!」


 「ほど、かなかったら、ラフィール……さま死にそう……だぞ」


 「あ、あ、あ、か、かみよ……」


 「祈り始めてるわよ! さっさとそのバカ、放しなさいよ!」


 「仕方ないか……」


 人を水圧で倒しながら叫ぶクローバーの訴えを聞き、アビキダスは渋々と腕を解いていく。自由になり、首への圧力が消えると同時にダークアナライザーは腕に力を込め、ラフィールの首を絞めていない方の腕の肘を思い切り後ろに引きアビキダスの顔面に叩きこんだ。


 「ぐはぁ!?」


 アビキダスはまたもや口や鼻から血を垂れ流しながら砂漠の地面に膝を付いた。気絶はさせられなかったがかなりのダメージを与えたようで口と鼻の辺りを手で押さえていた。


 「ひ、卑怯な……!」


 「おら! 形勢逆転だ! 兵ども! 俺の仲間を襲うのをやめろ!」


 ダークアナライザーは形勢逆転の意を伝えると攻撃をしていた兵士たちがまたもや悔しさを表情に露わにしたままその場で止まった。なぜかにゃんにゃんねこは森の方まで逃げており、木の上で泣きそうになりながら太い木の枝で猫の様に威嚇していた。


 「ほら、にゃんにゃんねこ、安心だから降りてこい」


 「無理です! 怖いです! 行き当たりばったりすぎます!」


 「作戦なんてそんなもんだ!」


 「それはどうなのよ」


 「はぁはぁ、あなたたち、もう神は許してくれませんよ!」


 ダークアナライザーとにゃんにゃんねこ、更には攻撃が止まり、休もうとしたクローバーにラフィールは首を絞められたせいで荒くなった呼吸を整えながらもそう凄んだ。


 「首を絞められてるくせに何言ってんだよ、無理すんなよ」


 「いいえ、無理などしていません、私はあなたたちに慈悲を掛けましたがアビキダスに対する攻撃などで気が変わりました」


 「慈悲だって?」


 「ええ、今から全力で相手をしてあげます」

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