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第二章 十六話


 ラフィールは興奮したように少女の手を握った。


 「こんな知らない土地で迷子とはおかわいそうです、大丈夫です! 私があなたを保護します!」


 「アイアムアキバオタク」


 「分かっていますよ、大丈夫です、通訳をお願いしまう、アビキダス」


 「は、はい」


 脳を停止させたように同じ単語を呟いた少女を安心させたいのだろう。だが、通訳と言っても何を言えばいいのかと少し悩むと友人の好きなものを思い出し、それを少女に伝える。


 「マホウショウジョ」


 「トロロ・バクダン」


 魔法少女トロロ・バクダンとはアビキダス? の友人が好きなアニメだ。少女の服から察していたが少女は自身の友人と会っていると確信したアビキダス? はラフィールの方を向き、通訳の結果、了承を取れたと適当を言った。

 だが、アビキダス? は疑問に思う。ゲームのキャラがなぜ友人と会っているのか。それに友人もこのゲームを知らないと言っていた。嘘をつくようなやつじゃない。どうなっているんだ。アビキダス? の思考はぐるぐると回っていく。


 「お嬢さんのお名前は?」


 名前を聞かれ、アビキダス? は疑問の答え合わせをやめ、一瞬迷い、本当の名前を言うか迷うが名前で出身バレするかもしれないと思い、思考を巡らせる。友人が話していたアニメのキャラの名前でも適当に当てとこう。アビキダス? はそう決めると真顔で答えた。


 「にゃんにゃんねこ」


 「それがお名前ですか……? こっちの国とは名前のセンスがちがいますね」


 納得したのかうんうんとうなずき、少女―――もとい偽名を付けられたにゃんにゃんねこがアビキダス? を睨みつけているのに気づいていないのか、握手をしてよろしくお願いしますと笑い、アビキダス? の方に振り返った。


 「素晴らしいです、アビキダス、あなたに少し疑念を抱いていた私が恥ずかしいです、その泥を拭きましょう、誰か布をお願いします」


 「いえ、お役に立てて光栄です」


 ラフィールはアビキダス? の事を認め、兵から貰った大きい布を持ってアビキダス? に近づいてきた。その顔は屈託のない笑みを浮かべており、アビキダス? は少し躊躇ったが目と鼻の先まで近づいたラフィールにアビキダス? は布を持った腕を思い切り引っ張り、首を絞めるため、ラフィールの首に腕を回し、体をラフィールの背中に押し付けた。


 「ラフィール様!!」


 「ラフィール様を離せ!!」


 兵たちは騒ぎ立てつつも、ラフィールの首を折られてしまうかもという疑念を抱いたせいで近寄れずにただ慌てふためくだけになってしまった。逆になぜか縄が解けている勇者と少女がよくやったと言いながらアビキダス? のそばに寄っていった。


 「離してください、アビキダス、あなたのことは頼りにしていますがそういう間柄にはなれません」


 「違います、そういう甘酸っぱいものじゃないです」


 「え? 甘酸っぱい? 果物の話なんかしてません、男性に抱きしめられると甘酸っぱいなんて聞いたことがありません」


 「これが抱きしめてるように思えるならあんた脳みそやばいぞ、ほら、布貸してくれ」


 「どうぞ?」


 「なんかやりづらいなぁ」


 状況を理解出来ていないラフィールから布をひったくるとアビキダス? は自身の顔を片手で拭いだす。この間、勇者が水の剣を作り出し、ラフィールの首に添えていたので兵たちはどうしても手をこまねいていた。

 拭い終わった顔を見てラフィールは驚いた。鎧はアビキダスだが人相そのものは全然違う美形が現れたためだ。


 「どうも、俺はダークアナライザーていうものです」


 ダークアナライザーは口角を上げ、そう自己紹介をするとラフィールはなぜか頬を赤め、下を向いた。


 「知らない男性に抱きしめられるのは恥ずかしいです」


 「いや、だから抱きしめてるわけじゃないんですよね、はい」


 ラフィールはその男の顔を見てアビキダスがどうなったのかを考えていた。このダークアナライザーという人物が化けていたということはアビキダスはもう死んでいるのかもしれない。長い付き合いでは無かったが良い人ではあったとラフィールは少し気分が落ちてしまう。実際、騙された事にも裏切られたという気持ちが強いが、それは自身が招いた油断のせいだと特には気にはならなかった。それよりも自身のせいで死んでしまったのかもしれないアビキダスに祈りを捧げる。


 「いや、そんな早く諦めないでくれよ」


 「いえ、アビキダスが無事に神の元にいけるように祈っていました」


 「死んでないから安心しろ」


 「そうですか……」


 祈りのポーズをやめたときのラフィールの表情は肩透かしを食らったかのようだった。死んでた方が良かったのだろうか。だが、目を伏せてラフィールは一つ息を落とした。

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