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第二章 十二話


 「はっ、わたくし、神聖王国騎士団第六師団副団長のアビキダス・クローと申します」


 礼を欠かぬよう、一生懸命、頭を深々と下げるアビキダス。それを見た女の子は突然、アビキダスの鎧越しの身体に泣きながら抱き着いた。アビキダスは女の子の背中を優しく撫でると一度事情を聴かねばと引き離した。


 「どうかされましたか?」


 「実は森に迷い、そしたら突然、兄上が咳をし出して止まらないのです」


 「げほっ! げほげほ! ごほお!! おお!! がはぁ!!」


 女の子が事情を話し終わった瞬間、まるで吐血もしそうな勢いのその男性にアビキダスは慌てて背中を摩り、自身の持っていた液体の入った瓶を差し出した。


 「これは騎士団が持つ最高級の毒消しを伴う万能の治療薬です、どうぞお飲みください」


 「あ、ありが……うっ! おええええ!!」


 貴族風の男は突然、吐しゃ物を乱射しだし、アビキダスにも多少掛ったが、アビキダスはラフィールのおかげで心身共に神のように慈悲深くなろうと思えていた次第により、怒りもわいてこず、ただただ目の前の人物を心配した。


 「大丈夫ですか!? ゆっくりで良いので吐き出す物が無くなったらこれをお飲みください!」


 「うう、すまないね……おえええええええ!!!」


 またもや吐しゃ物を吐き出す男にアビキダスは原因を考えた。貴族であろう者が森に生えているキノコを食べたのやもしれない。いや、そんなわけがないか。アビキダスは自身の浅はかな考えを訂正したが、後は流行り病に掛ったなどだが、アビキダスには治療の経験も医療についての知識は皆無だ。


 「これなら医療役の従者を一人付いてこさせれば良かった……ん?」


 だが、アビキダスは気づいてしまった。この貴族風の男のそばに食いかけのキノコがある事を。キノコは紫色のいかにも毒と言った感じでこれ食べるのは空腹で死にかけている人だけだろうと思わせるが、どう考えても、空腹で死にそうには見えないこの男はなぜこんな物を食べたのか。アビキダスはこの男を疑問視しだす。


 「あの、神聖王国に所属する貴族のお方ですよね?」


 「え? 神聖王国の貴族団体? なにそ―――」


 「ああ! 兄上!! 足が滑りました!」


 「げぼおおおええええええええ!!!」


 女の子の強烈そうな蹴りがまるで大砲を撃ったような音を奏で、貴族風の男は血反吐と吐しゃ物をまき散らしながら地面でひっくり返ったカエルの様な体制で痙攣を起こし始めた。アビキダスはその光景を見て顔が青ざめた。


 「病気の兄上に蹴りはまずいよ! 君! いや、病気じゃなければいいとかじゃないけど!」


 「兄上はこれをすると気が楽になるので」


 「気が楽っていうか、気が遠のいている気がする」


 アビキダスは慌てて痙攣する男に近づき、口に薬を流し込んだ。すると、男はだんだん落ち着きを取り戻していき、顔色も良くなってきた。

 アビキダスはそんな様子に安堵すると女の子に更に詳しい事情を聴こうと振り向いた瞬間、鋭い刃が自身の胴体を切り裂こうと迫ってきていたのを瞬時に理解し、腰に差している銀の剣を抜きさった。そのままその鋭い刃を防ぐ。刀身と刀身同士がぶつかる中、アビキダスが相手の顔を確認しようと顔を上げ驚いた。


 「貴様! 街に居た勇者か!」


 「よく覚えていたな!」


 そこには銀のロングソードを両手に持ち、力強い圧力でこちらを切り裂こうとしている勇者アイン・クローバーが険しい顔でこちらを睨んでいたのが分かり、そして理解した。これは罠だと。アビキダスはラフィールの影響を受けすぎたせいか危機管理能力に長けているはずが油断してつい服装と見た目だけで善良な母国の貴族だと思い込んでしまった。


 「うぐうう!!」


 「悪いけど、あの女に負けたとしてもあんた如きに負けるわけにはいかないの!!」


 クローバーは一気にロングソードに力を込め、無理やり相手の剣ごと斜めに切り払った。アビキダスは圧力に負け、腕を捻り、剣を落としてしまうがすぐさま拾おうと態勢を屈めるが後ろからかなりの腕力がある腕がアビキダスの首を絞め上げ、無理やり立たせられる。アビキダスは先ほどの貴族風の男だと理解し、もがいた。


 「ぐううう!! は、離せ!!」


 「さっきの薬の礼に命だけは助けてやる」


 そう言った男はアビキダスを突如、開放し、アビキダスはその思ってもみない行動に呆気にとられ、貴族風の男の方に顔を向けた。その時、アビキダスの顔面にゴツゴツとしたかなりの速さと威力を持った拳がアビキダスの顔面にめり込まれた。アビキダスは顔面から血や折れた歯を飛ばしながら森の草木に倒れこんだ。

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