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序章 一話


 十二月二十三日。日本。とある大学のキャンパス内。講義が始まろうとしている教室で、大学一年も終わりに差し掛かり、冬休み一歩手前の大学登校日、男は一番後ろの窓際の席でスマホをいじりながら欠伸をしていた。するとスマホの画面が上から降り注ぐ影で暗くなる。男は煩わしそうに上を見上げる。それが誰か確認すると煩わしさを捨て、真顔になった。そこには腹部が出っ張った男がリュックサックを揺らしながらこちらを覗き込んでいたのだ。


 「ほほーん、今日のデートは喫茶店ですか、なるほどなるほど」


 「んだよ、勝手に見んなよ、明人(あきひと)


 「ここ座るぞ、総馬(そうま)


 「おい、こら、無視するな」


 腹部が出っ張った男―――明人は男―――総馬の注意を無視したのか聞いてなかったのか、総馬の隣に座る。こうして見ると少し異様な光景だ。なぜ仲が良いんのだろうと周りの同回生は疑問に思っている。

 総馬の容姿は並みの男子よりも上で、流れる様な釣り目。綺麗に染められた赤髪。ウルフカットを施された髪型。彼は今時珍しい野生が溢れる青年だが、服装はかなり気を使われている。


 それに対し、明人は太った外見に、清潔とは少し離れた毎日同じ服。本人曰く、何着も持っているという。しかも、この自己中加減、明人と男は釣り合ってはいない。月とスッポンだ。

 だが、総馬は明人が人の言う事を無視して座った事に対して、これ以上責める気を起きない。もう慣れたのだ。実際、明人は総馬にとって田舎からこの街にやってきてからの大親友だった。


 「で、なんだったか、俺の意見を聞きたいのだったかな?」


 「いや、何の話だよ」


 「だから俺がお前に女の子とのデート場所を伝授してやろう」


 「は?」


 自信満々にそう言い放つこの明人という男を冷めた目で見つめる。態度や言動ではなく、顔だ。脂肪で膨らんだ顔を右斜めにして空を見上げて言うものだから、どこ見てんのお前という感想しか出てこない。だが、もしかしたら結構、俺が考え付かない盲点だった場所を言うかもしれない。そう少し期待して男はスマホから目を離す。


 「そうか、ありがとう」


 「うむ、良いか? 総馬、女とデートする時は自宅だ」


 「その心は?」


 「ヤりたい時にすぐヤれる」


 「……」


 得意気にそう言いだす明人に総馬はツッコミをする気も起きない。ヤりたい盛りの童貞に聞いた俺が間違いだったとスマホに目を戻す。実際、総馬も童貞だが、突然家デートなどという暴挙は起こさない。下手したら下心丸見え男と認識されてしまう。


 「あ、そうだ、総馬、お前に今度俺の家に来る権利をやろう、良いゲームをさせてやる」


 「ゲーム? いいよ、あんま興味無いし」


 総馬はゲームをほとんどしたことが無い。精々が有名RPGや積んで崩す系のゲームで、ソシャゲもやっていない。だがそんな釣れない態度を示したにも関わらず明人は総馬の肩を片手で揺らす。


 「そんな事言うな、今回のゲームはフルダイブシステムを搭載したゲームでな、実際にそのゲームに入ったかのような感覚で遊べるゲームなのだ、興味が無くても面白そうとは思うだろう?」


 「まぁ、確かに、面白そうではあるけどな?」


 だが、やはり気が乗らない。それなら実際にダーツやボーリングの方が楽しいのではないかという思いが強いからだ。だが、友人がここまで言うのだ。暇なときにでも行ってやるか。もしかしたらゲームを一緒にやる友達が俺しか居ないのかもしれない。


 「暇なときに行くよ」


 「きっと驚くぞ、目玉が飛び出るぞ、内臓が飛び出るぞ!」


 「そんなグロい光景見たくないだろ」


 冗談めかした様にそう言うと、まだ何か言いたかったのだろう、明人はぶつぶつと何か言ってきたが、総馬の耳から右から左へ通り抜けていく。その後は特に会話もなく、大学の教授の声を子守歌代わりに寝付いた。

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