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第二章 十一話


 ラフィールが他の荷馬車に向かおうと歩いている中、先ほど休憩を進言した兵士が早足で駆けてきた。彼はこの師団の副団長アビキダスであり、ラフィールもにっこりと彼を出迎えた。


 「どうかしましたか?」


 「ラフィール様、少しお優しすぎます」


 「それはいけませんか?」


 「い、いえ、ラフィール様のすることにケチを付けるわけではございませんが、ですが、やつらが調子に乗って反乱を起こすかもしれません」


 「それはあり得ません、彼らはもう充分、私たちは恐怖しております、それを益々怖がらせてはそれこそ暴動になりかねません、今は彼らの安全をこうして態度や行動で分かってもらいます、グローバルで彼らにはしっかり働いてもらわねばなりませんので」


 「なるほど、分かりました、そのご慧眼を信じます、出すぎた真似を致しました」


 「いえ、あなたのように危機管理に敏感な人物はなかなか居りません、重宝していますよ、アビキダス」


 「はっ!」


 「そういえばあのご老人は?」


 「英断をされた老人なら一番後ろの荷車の中でじっとしていますよ」


 「そうですか、悪いことをしました、神父様の言う事とはいえ、居場所を奪ってしまいました」


 「こちらへの協力が終われば、すぐ開放するのでしょう?」


 「はい、ですが、やはり住み慣れた場所を離れるのは……」


 「あ、えっと」


 ラフィールの表情に影が落ちたためか、アビキダスは冷や汗を浮かばせる。自分に配慮が足りなかっただろうかと悔いるアビキダスにラフィールは影を潜め、笑顔を浮かべた。


 「アビキダス、良いのですよ、心配かけて申し訳ありません、よろしければ先の道を見回ってきてもらいませんか?」


 「わ、わかりました!」


 「頼りにしています」


 「はっ!」


 アビキダスは嬉しそうに頭を下げるとラフィールが今後、困らないよう、早馬で先の道の偵察を進言し、すぐさま出発した。


 ――――――――


 アビキダスは本隊と離れて数時間後、数キロ離れた森に辿り着いた。この森を抜ければ自分たちの拠点だ。荷馬車があるからこそ何日もかかるが、実際には二日もあれば着く距離だ。だが、荷馬車があったとしても後、半日くらいで森まではたどり着ける。アビキダスは頭で計算式を弾きながら、ラフィールの事を考える。


 「彼女はやはり神父様が認めた聖女よ、トワイライトという下種な男から解放された上にあんな綺麗で美しい清廉潔白な乙女の元で働けるとは思わなんだ」


 アビキダスは森の涼しい木陰に馬を繋ぐと森の中を散策しながら天に感謝する。思えば、この騎士団に入り、トワイライトの元に付いて働いてからというもの、こき使われる事が多く何度トワイライトの首を斬り落としてやろうかと画策した。だが、今は違う。聖女のような乙女の元、民を虐げるでもなく、きちんと神の教えを守ることの重要性が良く分かった気がした。それにトワイライトの頃からの働きを認められ、副団長の任まで貰えるとはいたせりつくせりである。アビキダスはうんうんと頷きながら嬉しそうにほほ笑んだ。


 「ううっ、ゴホッゴホッ」


 「ん?」


 アビキダスが嬉しさで天にも昇りかけていた瞬間、森の茂みから咳をする男の声が聞こえだした。アビキダスは森の茂みを掻き分け、木々が無い空間に出るとそこにはなぜか倒れこむ男と女の子がおり、男の背中を懸命にさする女の子の純真さに心ときめきそうになったアビキダスだったがすぐさま、駆け寄ると二人の格好からある事を察した。


 「そこの男……いや、貴族様?」


 その倒れこむ男は綺麗な青髪の清潔そうな青年でなかなかに装飾豊かな服を着ており、白い礼装に身を包んでいた。もしかしたら神聖王国の貴族の方かもしれないと態度を改めるアビキダス。女の子の格好も白い男物のようだが白い礼装でどちらもサイズは異なるが同じような服装だったため、益々、貴族のお家柄の方だと思えた。


 「すみません、騎士様」


 アビキダスは銅の鎧を着こんでおり、確かに騎士と呼べるかもしれないが迷いもなく騎士と呼ぶ辺り、これは貴族の方だと確信に変わった。

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