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第二章 七話


 「おいおい、こりゃあ楽勝じゃねえか!」


 松明を放り出して倒れていく敵兵士たちを見て唸る。それに呼応したのか恐怖を感じていたはずの他の兵士たちも景気よく矢を放っていく。

 だが、少しクローバーは恐ろしかった。運よく当たらずに歩けている敵兵たちは仲間の死を見ても抵抗することもなく、行進をし続けていたからだ。無理な前進とまでは言わないが彼らが仲間の死体に動揺している様子もない。これも神聖王国の兵たちの精神力の賜物かもしれないが、クローバーは実戦経験は野盗や略奪部族との戦ばかりで本当の敵兵を見るのは初めてだったが、彼らは仲間が死んでも動揺しないほどに戦ってきたのだろうか。クローバーは彼ら敵兵士が心が壊れた成れの果てのようにも感じた。それは無論、黒い鎧を着た兵士―――おじいさん曰くトワイライトにも言えることだ。


 「なんだあいつら、自殺願望か?」


 「気味の悪いやつらだ」


 街の義勇兵たちは雄叫びを上げ、景気良く矢を放ちまくる。だが、兵の数が少なくなった分、だんだんと命中率は下がっていった。それでも門に黒騎士が辿り着いた頃には二百の兵は百余名ほどの数になっていた。後方の馬や荷馬車は無傷だ。

 少し前の時点で分かっては居たが彼らは伏兵などは居らず、全員が全員松明を持っていたらしく、彼らは本当に総勢二百名だったらしい。彼らは約百名も犠牲にして何も思わないのだろうか。クローバーは理解に苦しんだ。


 「どうした、トワイライト、お前の部隊はすでに壊滅状態ではないか」


 扉の上からのおじいさんの挑発のようなものに黒騎士は答えない。おじいさんも相手の返事が無いことに眉を傾ける。すると、黒騎士は馬から降り仮面を脱ぎ捨てた。おじいさんとクローバーが驚愕の事実に気づいた。


 「おまえ、誰だ?」


 見下ろしていたおじいさんから信じられない物を見たかのような声が呟かれる。仮面を脱いで現れたその顔は女性だったのだ。金髪のポニーテイルが揺れ動きながらその綺麗な顔が門の上からのぞくおじいさんを見つめた。そして、トワイライトは男だ。つまりこの人物は別人。


 「その鎧は確かにトワイライトが着ていた鎧のはずだ」


 「はい、トワイライトは確かにこの鎧を着ていましたがこれは専用のバシリスが届くまでの代わりの鎧なのでトワイライトの鎧という事ではありません」


 喋ったその声は物静かで聞き取りやすい声だったが少し冷たさを感じる声だった。女性は鎧を揺らしながら、門の前に立った。おじいさんはすぐに女性に警戒反応を示す。


 「それで? トワイライトは?」


 「そうですね、彼は少し残忍性が強くて、わがままで確実に嫌われてしまう男ナンバーワンみたいな男だったのでここの街の人を捕虜にする際、子どもやら女性をなぶり殺ししてしまう可能性があるので代わりに私が来ました」


 「元勇者の評価が低すぎでは? 勇者であるわた―――」


 「お嬢さん、捕虜にしに来たってことはやっぱり征服しにきたのかい?」


 とんでもない悪口を言われ、現勇者であるクローバーの苦言を呈そうとしたが、おじいさんの問いに掻き消され、女性は少し穏やか笑みを浮かべて答える。両手を重ね、まるで祈りのようだ。


 「はい、ですが、穏便になるべく人死にが出ないようにですが、ここに来る際、百人ほどが犠牲になりましたが彼らはこの街に被害が出ずに自分たちの犠牲だけでこの街が征服できると信じ死にました、なので抵抗はやめて降伏してください」


 その表情はますます神に祈りをささげる幼子の様な無垢な笑みだった。だが、クローバーは背筋が凍った。商人の話を聞いた通り、神聖王国は宗教に乗っ取られているのだと。彼女たちは神を信じ、そのためならなんでも出来るのだと。たとえ、味方がどれだけ犠牲になろうとも神のためと死んでいけるのだと。


 「そんな勝手な言い分が通るわけないだろ!」


 冷や汗をかいているおじいさんは断固として拒絶する。彼女は確かに物腰柔らかく、配慮も出来る人間なのだろう。だが、彼女の元に行くことはいつか神の名のもとにどういう扱いを受けるかわかったものではない。居るかもわからない神に従う国に安全があるとは思えないからだ。

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