第二章 二話
「あ、本題に入る前にクローバーさんは彼をどう思います?」
彼というのはもちろん、総馬の事だろう、総馬は自分に話が振られるとは思っていなかった。確かにこんなところにこんな格好で居るのは怪しい。だが、それは君もだぞレイリーさんと総馬は恨みがましそうな目でレイリーを見た。
「最初は恰好を見て神聖王国の騎士だと思ったわ、そんな恰好、この地域じゃ神聖王国の貴族しか着ないわ、けど、貴族がこんなところに来るはずない、神聖王国の事はよく知らないけどうちの国に砂漠に行きたいなんて貴族居ないもの」
「ならレイリーは?」
「可愛い女の子を疑うわけないでしょ」
「そんな理論で納得しろと?」
この女、実は明人なのではないのか、明人くらいだと思っていたよ、そんな理由で俺を疑うのは。そんな疑念を抱きつつも、さすがに妄想が過ぎるなと自分をなだめる総馬。
「では今は違うと?」
「ええ、だって水の魔法食らって死にかけてたのよ、無理でしょ密偵」
「なるほど」
「こらこら、死にかけてないからな、溺れてただけだから」
「そっちの方がかっこ悪いわよ」
捨て身の言い訳は斬り捨てられ、少し心が痛くなった総馬はこのゲームやり始めてから罵倒されることが増えている気がした。気候も人物もサディストだらけのこのゲームで彼女は何がしたかったのだろうと光の事を思い出す総馬。
「で、あんた名前は?」
「え? ああ、俺の名前は……」
「もったいぶらずに言いなさいよ」
「……ダークアナライザーだ、よろしく」
「え?」
「へ、へー」
総馬は嘘をついた。
レイリーの時は意識が朦朧としてつい教えてしまったが、わざわざ本名を教える必要もない。昔はRPGのゲームのセーブデータを自身の名前にしていたが、今回は偽名を名乗ることにしたのだ。
レイリーには話を合わせてもらおうと目だけで会話を試みようとしたがすごい驚いた顔をされている。クローバーに至っては名前のセンスに引いているのだろうか、頬が引きつっている。
「い、良い名前ね」
「親が寝ずに考えてくれたんだ」
「それでダークアナライザー……」
「え!? え!? 違いますよね!? お兄さん、道し―――いたいたいたい!」
伝わってなかったようで、総馬はレイリーの足を踏んづけた。足を離すとレイリーはこちらを涙目で見てくるが、それ以上何かを言う事は無かった。
「あんたね、小さい女の子の足を踏むなんて最低よ」
「すまない、意識が朦朧として、ついな」
「あら、大丈夫? 今、水を出すわ!」
「え!? い、いらねああああ!!??」
また流された。
しかも今度は向かいの家に叩きつけられた。叩きつけられた家は屋根が落ち、壊れてしまったが誘拐されているから気にしないでいいはクローバーの言葉だ。絶対そんなわけないし、誘拐されたにしてはノリが軽すぎないかと総馬は逆に引いた。
「誘拐されて助けをどうしようか考えてたわりには余裕だな、どうすんだよ、この間にもこの村人たちは怖い思いしてんだろうが」
疑問をぶつけつつ、服を乾かそうと脱げなかった上着をレイリーに手伝ってもらい、なんとか脱ぐのに成功させると上着を乾かすため近くにあった洗濯を干すために使っていたのだろう物干し竿のような木の棒で作られたものの上に乗せた。
上着を脱ぐと白いシャツのようでそれよりも柔らかい素材で出来た服が顔を出し、長袖だが幾分涼しくなった。
「自分で脱げないのにどうやって着たのよ」
「勝手に着せられて気づいたら砂漠のど真ん中だったんだよ、というか謝る気は無いんだな」
「謝るわけないじゃない、私は善意でやったのよ!」
「ありがた迷惑だし、善意の押し付けという名の押し売りじゃねえか」
「は? なんだって?」
「もういいよ! それより街の人! 助けなくていいのかよ?」
「ああ、まぁ、ぶっちゃけ今、誘拐はされてるけど誘拐犯はとても親切な聖女様だから虐げられるとは思わないよ」
「それは誘拐なのか? 土地開発に来た人たちではなく?」
「自由が無いなら誘拐でしょ」
一理ある。このクローバーという女性の言葉に頷いた総馬は初めてこの女性の考えが理解できた気がした。自由なき良い暮らしは確かに本当に良い暮らしではない。それを連れ去られ、強制させれてるならそれは確かに誘拐だ。総馬は深く感心するとクローバーに疑問を投げかける。
「そういえば、どうしてクローバーさんはここに?」
「私はね、勇者なのよ」
この世界は与太話で出来ているのだろうか。総馬は苦笑いしかできなかった。




