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序章に入る前の小話

元々あった小説を二千文字前後に収めて投稿しなおしたバージョンです


 一二月二十五日。クリスマス。

 特に雪も降っておらず、物心ついた子ども達は親から聞いていた話とは違うとブー垂れそうな、そんな光景が広がっていた。それもそのはず。一面、砂漠世界の炎天下にはこれから雪が降るなど誰も考えないだろう。

 そんな砂漠の世界にぽつりと置かれた町があった。だが、そこは既に廃墟だった。道に面して建てられた殺風景な商店街。何件かは既に砂漠に覆われ、潰されそうになっている。その奥には廃墟の様な住宅地が広がり、ボロボロの小屋が乱立していた。と言ってもそこに住んでいる人など皆無であろう事はその風景が教えてくれた。そんなゴーストタウンに一人の男。ボロボロのローブを羽織り、フードの部分が男の顔を完全に隠しきっている。


 「誰も居ないのか」


 しわがれたカラカラの声を放つ。男は水をしばらく含まずここまで来たことを思わせる声だ。だが男は期待外れだというように肩を大きく落としながら商店街を見てまわる。


 「水水水水水」


 恨みごとの様に唸りながら男は喉の渇きを癒そうと飲料水が無いかと、店にある木箱や棚を無差別に調べ上げていく。だが、店にはどこにも水はなく、食料や雑貨があるだけだ。食料も果物などを食べればいいかとも思ったが店が放置されていたせいか動物に食い散らかされたのか、地面に果物が散乱していた。さすがにこれを食べるのは気が引けた男はため息を吐いた。


 「はぁ、勘弁してくれ、普通の水は無いのか……ん?」


 男は絶望に打ちひしがれ、砂漠に両手を着きかけようとしたその時、砂漠の砂に消されていない足跡を見つけた。一瞬自分のかと思ったがまだ男はこの先を歩いていない。見るからに新しい足跡だった。男は周りを慌ただしく見渡していく。だが、周りに人影は見えない。


 「まさか幻覚か」


 目を擦りだす男。だが、何度擦ってもその足跡は現存していた。やはり幻覚ではない。確かにそこにある。あるのだ。足跡が。つまり近くに人が居るのだ。水を持っている人が。いや、実際持っているかは分からないが。男には藁にも縋る思いだった。そんな男の耳に背後から不可解な音が入り込んでくる。


 「っ!」


 男は勢いよく振り返り、その音を確認する。すると、男より少し離れた建物の影に女の子を発見できた。

 歳は十代ほどと予想する。彼女の恰好は白いタキシードでこの場では場違いな格好に見えるがなんと偶然な事に自身も同じ服装を着ていたため、深く考えなかった。その女の子の黒く綺麗な髪であろうその髪は砂漠の砂で固まっていたが、とても可愛らしい顔をしており、可憐な少女という感じだ。

 そんな女の子が確かに男の事をじっと眺めていた。まるで自分の友人のような恰好をした女の子に少し違和感や懐かしみ、さらには今現在の自分の格好と同じという共通点がある事の親しみを感じ、男は身体を揺らした。


 「そ、そこの君!」


 フードの奥から震えた声が一面に木霊する。女の子は声を掛けられた事に驚いたのか、周りをキョロキョロと見渡し出す。このままではいけない。男はそう思い、早歩きで女の子に近づく。


 「おい! そこの女の子!」


 「ひっ!」


 女の子は驚いたせいか、逃げ出そうと足を後退させる。だが、早かったのは男だった。女の子は目を見開き、身体を震わした。男との距離はかなりあったはずなのに男はいつの間にか自分に触れる場所まで来ていたのだ。男はすかさず、女の子の肩を掴む。女の子の目が恐怖に染まる。


 「きみぃ!」


 「は、はい!」


 「水!」


 「え?」


 女の子から素っ頓狂な声が上がる。だが、男は気にせず、フードを脱ぎ去った。すると、女の子の顔がみるみる赤くなっていく。


 「ず、ずいぶん整ったお顔をされていますね」


 震えた声で称賛の言葉が上がる。それもそのはず、この男の顔は絶世の美青年だったのだ。綺麗な赤色の髪に、整った顔。恰好が貴族の様な恰好ならまるで王子様だ。だが、その王子様の様な顔は歪んでいく。


 「そんなどうでもいいことより水をくれないか!!」


 「え、ええ」


 女の子の困惑した声。だが、男が目を血ばらせ、水と連呼していく。その光景はある意味ホラーだ。そんな男がここに居るわけは二日前に遡る。

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