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断章 六話

 

 明人や総馬が通う大学には少しおかしなサークルがあった。それは大学生活は他人に抱っこにおん部という非公式サークルだ。その名の通り、人の力だけを借りてより良い学生生活を送ろうというクズの集合体のようなサークルである。

 大学の名立たるクズはそこに所属している。だが、そんなサークルを立てたところで無償で助けに来るお人好しはさすがに居ない。だが、そのサークルは助けてもらう代わりに大学とは無関係の事を助けてるくれるのだという。そして、明人はそこの常連だった。


 明人と総馬、光の大学はビルや店が多くあり、総馬が通う喫茶店もその一つだ。

 その喫茶店の逆方向にあるビル群の中にそのサークルは存在した。朽ち果てたような小さい三階建てのビルは金貸し会社のビルとテナントが入っていないビルに挟まれており、明人はそそくさとそのビルの二階を目指す。二階に上がると、だっこにおん部と書かれた紙が無造作に貼ってある扉があった。未だ七時半という早い時間だが、明人は誰も居ないとは考えずにドアノブに手を掛ける。扉には鍵は掛かっておらず、誰かいるのがはっきり分かった。


 「失れさむっ!?」


 「ああ、また君か、大島明人くん」


 室内にはデスク六つ、パソコン六台が均等に左右三つに分かれ置かれており、その間を辛うじて一人歩けるくらいの通り道が確保されていた。後はファイルや紙類が詰め込まれた棚が二つ置かれている。

 その部屋の奥には同じくパソコンとほかのデスクに比べて大きいデスクが教壇の様に他の六つのデスクを見渡られるような配置に置かれており、現在、この部屋にはその大きいデスクに一人座っているのみだった。

 それは少し恰好が季節外れな男でこんな寒い時期に短パンと黒いカットシャツ。それでいて、この部屋は暖房さえ、付いていない。全体的にもやしのような男で、これでは風邪を引いてしまうのではないかと心配になる。だが、本人曰く、寒さも暑さも感じないとか。


 「あああ相変わらず寒いですすな、おお大八やや木先輩」


 寒さに弱い明人は口を震わせてそう大八木に問うと、大八木はデスクに置いてあるコーヒーメーカー近くにあるカップを手に取り、コーヒーを淹れ出した。


 「すまないな、こんなものしか無いが勘弁してくれ」


 大八木はそう言うと、扉の前で立っている明人の元に淹れたばかりのコーヒーカップを差し出した。明人は受け取り、どどどどうもあああありがとぅううござ、ございいますすすと会釈をしつつ、遠慮なくコーヒーを飲むと明人の体に暖かいコーヒーが入り、明人は少し震えを落ち着かせていった。


 「お、美味しいです、ありがとうございました」


 多少、口調が落ち着いた明人に大八木は良いの良いのと笑って肩を叩いた。


 「大事なおんぶだっこ先が冷えていたら困るからね、当然の事だよ、さぁ、上の階で話そうか」


 「わ、分かりました」


 大八木はニタニタと笑いながら、上の階に先導して歩いていく。辿り着くとそこには談話室と書かれたやはり無造作に貼られた紙が張り付いている扉があった。


 「早い時間に来るからあんまり温まってないかもね、僕は温度を感じるのが苦手だから分からないけど、もしここも寒かったらすまないね」


 「い、いえ、大丈夫です」


 鍵を開けた大八木に続き、明人が入るとその部屋は大八木の話に反して暖かく、明人は一息ついた。それを見た大八木は良かったねと笑いながら、その部屋にある長いソファに座った。この部屋は、物が少なく、真ん中にある長いソファが二つ、テーブルを挟んで置いてあるのみで、後は段ボールなどが置かれているという下の部屋とは比べ物にならないほどスカスカだ。明人は大八木の向かい側のソファに座りつつ、テーブルにコーヒーの入ったカップを置いた。


 「さてさて、今回はどんなものが入用だい? 君のレポートなら赤池(あかいけ)くんが喜ぶからね」


 赤池というのは明人と総馬の同級生で、明人のレポートをよくここを中継で金で買い取っている女生徒だ。明人は一度会ったことがあるが彼女はレポートを書く暇があるなら私は他の事をしたいですと言われた。

 だが、今回は金欲しさに来たのではない。明人は一度言うことをまとめると、声に出した。


 「今回は人探しをしてほしいんです」


 「人探しとはまたきな臭くてミステリアスな内容だね、いや、でも最近多いんだよ、そういう依頼」


 「そうなんですか」


 「しかもね、うちの大学の生徒やその関係者ばかりが攫われてるんだ」


 「……一人でも見つけられたのですか?」


 明人は少し顔を青ざめながら聞く。なぜなら探してほしい一人にはレイリ―がいる。頻繁に誘拐が発生し、それが同一犯なら、犯人はそいつだ。明人は自分の家の関係者と勘違いされ、レイリ―は連れ去られた。そう考えてしまう。素直に警察に行けばよかったと、誘拐まがいなことをしなければ良かったと。

 そして、大八木の一言が明人をさらに責め立てた。


 「残念ながら見つかっていない、警察も動いているし、僕の電話番にも毎日連夜、調査報告を聞きたいと嘆く人々の声で溢れている」


 そんなの見つからないも同意ではないか。明人は顔を青ざめてレイリ―に心の中で詫びる。狙われる要因を作ってしまったことを。


 大八木に総馬の探索を任せると、家に帰ると明人は驚いた。

 すでに帰った家政婦のおかげか、レイリーの部屋の穴が綺麗に塞がれていたのだ。明人はそれを見ると見直したようにクビにするのはやめてやろうと決めた。

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