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断章 五話

 

 「明人様、明人様、お目覚めください、明人様」


 「うっ、ここは……はっ!? レイリ―!」


 淡々とした調子の声が明人の耳に入ってくる。明人はそれが家政婦の声だと気づいたと同時に昨日の事を思い出し、家にある置時計を見る。針は六時半を指しており、昨日の夜からずっと眠らされていた事が分かった明人は慌てたように隣の部屋に向かった。


 「こ、これは……」


 自室を出た明人は隣室の状態に絶句した。扉は破壊され、室内はタンスのガラスが粉々になっており、レイリーのために用意していたおもちゃや本がまるで燃やされたかのような状態になっていた。だが、一番、目を疑ったのは、外側の壁に大きな穴が空いていたことだ。見た判断でしかできないが、まるで小さな爆発でも起こったかのようだ。

 明人がゆっくりその空いた穴から地面を見つめた。壁の破片や窓に掛けてあったピンクのカーテンの燃えカスが庭の至る所に落ちていた。


 「これはどういうことなのでしょうか」


 後からやってきた家政婦がキツく問い詰めるように明人に尋ねた。だが、明人に説明は難しかった。明人でさえ、どうして部屋がこうなったのか知りたいほどだ。


 「……近所の人々から何か聞いていないか? 警察が来たとか」


 「いえ、特には」


 「は? そんなわけなかろう! 壁がぶち破られるほどの衝撃だぞ! かなりの音が響いたはずだ!」


 家政婦の報告に納得できない明人は声を荒げるが、家政婦は顔色を変えずに首を傾げる。


 「そんな大きい音が鳴ったのなら明人様も起きたのでは?」


 「私は眠らされたのだ!」


 「誰にです?」


 「それは分らん、唐突に窓ガラスが壊れたのを聞いて隣の部屋を確認しようとしたら急に意識が無くなったのだ」


 「……? なぜ一階ではなく、隣室を?」


 明人は少し戸惑う。言った方が良いのか、はたまた誤魔化すか。だが、どんな言い訳をしたらこの部屋の悲惨な状況を説明できるのだろうか。


 「それに明人様が読みそうではない絵本や文学小説、おもちゃも明人様のうすら寒い美少女物ではなく、女の子用のお人形やぬいぐるみ、ここに誰か居たんですか?」


 「ぎっぐう!?」


 「え、うそでしょ、明人様、自らぎっぐう!?ってバカなんですか?」


 確かに今のは間抜けもいいとこな返事だったが、バカ呼ばわりされるのは心外だ。それにこの家政婦にだけはバカにされたくないと思い、声を荒げる。


 「そ、それを言うなら家政婦の癖にジャージってバカなのか!?」


 「それは今更では無いですか?」


 この家政婦はほかの家政婦のようにメイド服や綺麗なエプロンなどは着ない。いつもジャージだ。というより、この家政婦、若くないかと前から思っていた。親父が雇ったというが最初家に来たときは金髪のヤンキー女がうちを我が物顔で占領しに来たのかと思ったほどだ。

 現在は金髪の髪は黒くなり、敬語も上手くなったがいまだに毒舌は飛んでくる。それに苦し紛れに放った明人の抵抗の言葉に対してはなんだこいつみたいな蔑称を秘めた目で見てくる。


 「……無敵かあんたは」


 「無敵のイージス艦女と巷では呼ばれていました」


 「家政婦には特段必須とは思えない異名なんだが」


 「あー、なら私の職業は家政婦兼自由の追い人ですかね……」


 「そうか、なら穴を埋めておいてくれ自由の追い人さん、私は用事が―――いだだだ!!」


 たわ言を抜かす家政婦から逃げ出そうと手を振って部屋から出ようとすると、肩を家政婦に捕まれる。結構な力で抑えられ、肩が少し痛み出す。


 「何、誤魔化して行こうとしてるんですか、説明をしてください」


 淡々としているが、答えない限りは絶対離さないという意思を感じさせる力強さで掴まれる肩を案じ、明人は観念したように説明を始めた。家政婦は肩から手を放し、明人の事を見つめる。まじめに聞くためというよりも、こいつは一体どんな悪事をしたんだ。さあ、自白しろと迫る刑事のような眼差しだった。 そんな視線に不満を持った明人だったが、渋々とレイリ―をこの一か月未満、隠していたこと。昨日、友達を呼び、その友が突如消失したことを説明していく。だが、話を進めるうちに家政婦の目が真実を追い求める刑事の目から、ゴミを見る目に変わっていった。


 「―――ということなんだが」


 「つまり、女の子を誘拐して一か月間、隠していたのを友人にバレ、証拠の女の子ごと友人を粉々に壁ごと吹き飛ばしたと」


 「それはまずい! 偏見を捨てるんだ! 私はそんな極悪人ではない!」


 仕事で来ているとはいえ、雇われている家の息子に対してその言い草はなんなんだ!? と明人は家政婦に驚くことばかりだ。さすがにこいつをクビにしてもいいのではと明人は思い出す。


 「いえ、もう変態紳士でも変態仮面でもぶっちゃけどうでもいいんですがどうするんですか?」


 「お前をクビに……え? なんの話だ?」


 「私をクビにするのは自由ですが、明人様の首は大丈夫でしょうか」


 「どういう意味だ?」


 「さすがに幼子と友を一人殺したら死刑は免れないかと」


 「だから殺してない! なんでそういう方向にいきたがるかな!?」


 「冗談です、では、状況をまとめて、そのうえでどうするか決めましょう」


 「う、うむ」


 この状況で肝心なのは襲撃犯は誰で、レイリーはどこに連れ去られたか。そして、総馬の失踪とは関係があるのかどうかだ。

 だが、明人は人探しには自信があった。それは明人の副業と関係があった。

 そして、明人はある場所に行くため、なぜか近隣の人にバレていない穴をどうするかを家政婦に任せ、明人は適当な私服に着替えるとそそくさと大学に向かった。その際、総馬の残したスマホで昨日、謎の電話をしてきた光に再度通話を掛けまくったが出ることはなかった。

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