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断章 四話


 そんな生活を送っていた明人は、レイリーを家政婦とは違い、どこに行動するのか不確定な総馬の事を考え、レイリーをキッチンの床下収納に避難させておいたのだ。明人は、レイリーに話しても仕方ないと思いつつも、総馬が消えたということを包み隠さずに愚痴のように話した。


 「でな、あいつは俺の高級ゲーミングソファに汗跡をベッタリ残してどこかに消えおったのだ! 許せん!」


 まったく困ったものだと、憤慨しつつもレイリーの方を見て本気で怒っているわけではないぞというために笑いながら話している。だが、レイリーの顔はなぜか曇っていった。


 「ど、どうかしたのか? 具合でも悪いか? わ、悪かったあんな床下に押し込めていたせいだな」


 「あ、いえ、今日はもう寝てもよろしいですか?」


 曇った顔のまま少し口角を上げて許可を求めてきたレイリ―を心配に思ったが、もう夜の十時を回ろとしていた。レイリ―の歳は不明だが見た目は少女だ。寝かせてあげようと明人は頷いた。


 「何か飲んだりするか?」


 「いえ、大丈夫です、おやすみなさい」


 「うむ、おやすみ、レイリー」


 明人の返事を聞いたレイリ―はお辞儀を一回すると、階段を登って行った。二階にレイリ―の個室がある。明人の部屋の隣の空き部屋を利用したものだ。本当なら入りきらなくなったフィギュアやグッズのために用意していたが、現在はレイリ―のための家具やおもちゃ、本などが置いてある。


 「さて、私も寝るとするか」


 明人はそうつぶやくと、自室に戻っていく。途中、家政婦にバレないように立ち入り禁止のシールが貼ってあるレイリ―の部屋を眺め、一言、声を掛けようと思ったが、寝ているなら申し訳ないと思い、そっと、自室に入っていった。


 すると、不意にスマホの着信音のようなものが静かに響いていた。それは総馬が持ってきていたカバンから聞こえてきていた。明人は少し考えたが、カバンの中から総馬のスマホを失敬する。画面に描かれていたのは、未市光みしひかりと出ていた。


 「み、未市嬢か、居留守を使うか、説明するか……」


 説明といってもどう説明すれば良いのか、明人が悩んでいると着信音は収まってしまう。未市嬢が本気で心配して電話を掛けていたのだとしたら悪いことをしたと明人は後悔した。しばらくスマホを見つめていると、また着信音が鳴り響いた。


 「仕方がない、腹を括ろう。」


 明人は意を決した様子で電話の着信ボタンを押した。すると、スマホのスピーカーからとてつもない雑音が響き出した。耳に流れる不快なノイズに明人は表情を歪める。


 「ななな!? なんだ!? 未市嬢!」


 「―――なさい」


 「き、聞こえんぞ! 未市じょ―――」


 ノイズがひどく、光が何を言ったのかが聞こえない。明人はもう一度聞きなおそうとした瞬間、一階から何かが割れる音が響いた。


 「今度はなんだ!?」


 「―――なさい!」


 「未市嬢! 聞こえない! 申し訳ないが、こちらも緊急事態だ、一回切らせて―――」


 「逃げなさい!!!!!」


 やっと聞こえたその言葉を明人が理解するには時間が足りなかった。

 一階の音と未市嬢の言葉。それらがリンクしていると気づいた時には明人の部屋には異臭が漂い始め、隣の音に向かう足音が二階の廊下から響いた。

 明人は嫌な予感を感じ、立ち上がろうとしたその時、態勢を大きく崩し、フィギュアの入った棚に寄り掛からせる。フィギュアが何個から揺れのせいか、床に落ちていく。明人は地面のフィギュアを眺めながら、自身の身体が重く、瞼が重くなっていくを実感していく。


 「レ、レイリ―……」


 明人は充満する部屋の中、自室の扉の方になんとか顔を上げ、確認すると隣の部屋で響く何かを破壊するような物音を聞きながら、意識を手放した。

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