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断章 三話

 

 明人はこれまで使ってこなかったお茶碗を見つめ、そんな事を思い出し、げんなりするが、すぐに気を取り直し、キッチンの隅に置いてあった炊飯器を開けた。すると、モクモクと白い湯気と共に暖かい白飯が顔を覗かせた。明人はそれを二つの茶碗によそっていく。


 「これ知っています! 餅ですね!」


 いつの間にか、キッチンに侵入していたレイリーは白飯とコロッケを見てそうはしゃぎだした。だが、餅など用意していない。


 「どれのことだ?」


 「その茶色いやつです!」


 コロッケを知らないのかと首を傾げつつ、コロッケと餅は形が少し似ているかもしれんなと笑みを浮かべた。


 「うむ、似てはいるが餅ではない、コロッケだ」


 「丸いですよ?」


 「確かにコロッケも丸いが、餅ほど丸くないし、丸いものが全部餅ではなかろう? どちからといえば、こっちの白い方を丸めたら餅が出来るな」


 白飯を指差し、そう言うとレイリーは目を輝かせて勢いよく首を縦に振って頷いた。


 「そうですね、うんこは餅じゃないですもんね! でも私の住んでいた場所ではこんなに白い―――」


 「げほっげほっ! こら! 食事前に汚い単語を出すではない!」


 「き、汚い? うんこのことですか?」


 「ああ、そうだ、少年でも駄目だが、可憐なる少女ならば汚い単語を平然と言うようなガサツな人間にはなってはいかんぞ!」


 「うちのおばあちゃんが肥料にう……そのやつを使っていたので、つい、ごめんなさい魔術師様」


 家庭の環境の関係性だったかと謝らせてしまった小さな女の子に罪悪感を覚えた明人は目を泳がせまくりつつもそれらしい事を言っていく。


 「そ、そなたのお、おばあ様がそういう仕事をしてるのならばし、仕方ないな、うむ、怒鳴って悪かった」


 家庭の環境によっては下ネタを言っても平然と出来る子ども特有の無邪気さとは恐ろしいと感じつつ、明人は何も知らずに怒鳴った自分が少し大人気なかったなと思う明人は頭を下げる。


 「だ、大丈夫ですよ! 魔術師様は農作業などとは無縁の高尚で人の役に立つお仕事をされてるんですよね! ならそういう単語が飛び交ううちの田舎とは違う環境ですから仕方ないですよ! 私もいつかそうなっておばあちゃんと一緒に魔術師様のこの広い家のような家をプレゼントしたいんです!」


 「う、うむ……頑張ってくれ、そ、それより! ご飯にしよう! 」


 「は、はい!」


 誤魔化しきった明人は、はっはっはと笑いながら、この女の子に罪悪感を抱く。少女を騙している自身を恥じたが、なんとなくアニメやドラマでしか見たことはないような兄妹のような会話をしているのではと興奮した明人は罪悪感を見て見ぬふりをし、この生活をもう少し続けたいと思い、三次元の子どもは苦手なんだが、なぜだろうと疑問に思ったがレイリーの純粋な笑顔や言葉に明人は心を弾ませた。


 その後、明人は驚いた。レイリーはほとんどの家電や食いものを知らず、米などもなく、豆や野菜を煮詰めたものしか食べたことがないという。

 お餅は、神父様がくれたとか言っていたが、海外の貧困層辺りの出身で、不法入国者ではとも思った。 でも、明人はレイリーが良い子で、家政婦が居る時は明人の部屋に隠れるなどの約束もちゃんと守った。明人は悪い子じゃないならなんでも構わんといった風に現状を楽しんでいた。


 そんなこんなで共同生活を始めた明人にとって、一番大変だったのは家政婦の目を欺くことだった。適当な子ども服を明人の自費で買うも、洗濯のため、なくなく家政婦にこれも頼むと子ども服を渡せば、一瞬、汚物を見るような目で見られ、また変な趣味が増えたのですかと罵られつつも、今更かと疑われずに済んだ。

 ある時は、ご飯の量を増やしてほしいと頼み、関取になるには遅いのではと謎の勘ぐりをされるも、なんとかばれることなく、一二月二三日まで共同生活をしてきた二人はまるで本当の兄妹のようになっており、レイリーは明人が偏った知識ではあるが新しい知識を偉そうに教えると嬉しそうな顔を浮かべた。

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