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断章 二話

 

 一二月二日、明人が学校から家に帰ると、家の入り口の前で小さい女の子―――レイリーはなぜか庭に入ろうと塀を登ろうとしていたのだ。


 「少女よ! 今なら許してやる! 即刻降りてこい!」


 「え! あ、ああああああ!!」


 だが、塀を登り切ろうとしていたレイリーは急な声に驚き、そのまま塀の中に落ちてしまったのだ。


 「大丈夫か!? 少女よ!」


 明人は急いで、家の門の扉を開け、急いで庭の方に行くと、そこにはレイリーが目を回して倒れていた。今現在とは違い、ボロボロの服を着ていたレイリーが可哀そうに思った明人はレイリーを家に迎えた。レイリーは目覚めると特に明人に恐怖を覚えたりしなかったのか、自己紹介をし出した。


 「私はレイリ―、助けてくれてありがとうお兄さん、えっと、お名前は?」


 「私は大島明人、この家の主人であり、SSS級魔術師だ」


 いつもの癖でRPロールプレイをしてしまう明人。相手は子どもだと少し自分を大きく見せようと言い放ってしまった。だが、その事で明人の心に少し影が落ちた。だが、その影も少女の言葉で一瞬で吹き飛んでしまう。


 「え!? お兄さん魔術師なんですか!? この世界にも魔術師って居るんですね!」


 「信じるのか!?」


 「え? 嘘なのですか?」


 レイリーの表情がだんだん萎れていく花のように悲しい表情になっていく。だが、すかさず明人は右手の手のひらを前に突き出した。


 「嘘ではない! 私は魔術師だ! しかもそんじょそこらの魔術師ではない! SSS級だ!」


 こう言いのけると、レイリーの顔がパッと太陽のような笑顔になる。


 「すごいです! 私なんか魔法二種類しか使えない新人ですが魔術師様は何種類も使えるのですよね!」


 「う、うむ、どうだ、凄かろう、ふっふっふ」


 明人は内心ドキドキと鼓動を激しくしていた。レイリーは本気で驚き、尊敬のまなざしを向けてきていたのだ。明人は、彼女の言葉の中で出たこの世界と自身も魔法が使えるというような単語に興味を惹かれるが、それよりもこの少女は明人を魔術師だと簡単に信じたことに明人自身驚いていた。普通の子どもはこんなたわごとなかなか信じないはずだったからだ。


 ソースは明人の従兄弟。十二歳にして神童ともてはやされている従兄弟に何度か、自身は魔術師で、世界を守るため、道化を演じていると堂々と語ったのだが、なら魔術を見せてくれと興味もなさそうな声で言われ、魔術もとい、手品を見せたのだが全戦全敗でタネを見破れた経験があり、明人は少し子どもが苦手になった。アニメの嫁は別だが。

 それ以来、明人はその従兄弟と会話をしても、すぐに論破されるようになってしまい、その光景を親や親せきが集まる集会で見られ、当時高校生だった明人は[十二歳に論破され、挙句の果てに言い返せなくなる高校生]と笑われ、肩身をどんどん狭くしてしまった。


 「魔術師殿! 魔術師殿!」


 「え!? う、うむ? なんだ?」


 「ま、魔術を! 魔術を見せてくだされ!」


 「う、うん!?」


 昔のトラウマを呼び起こし、ブルーな表情を浮かべている間に、明人はレイリーから魔術を見せてくれとせがまれていたらしい。それを聞いた明人はキョドってしまい、声が裏返る。

 一瞬、この子も疑いだしたのかと不安になったが、その瞳はキラキラと輝いていた。従兄弟の冷めきった眼とは雲泥の差だ。あの冷めた目も苦手だが、こうして出来もしない魔術を期待されるのもなかなかに苦手かもしれないと明人は目を合わせないように泳がせる。


 「魔術師様大丈夫ですか?」


 「う、うん? うむ、大丈夫だ、魔術だな? 魔術魔術」


 「はい! 魔術を見せてください!」


 「だが、まずは腹ごしらえだ! 飯を振舞ってやろう!」


 「よろしいのですか!?」


 「私は寛大な魔術師だからな、飯くらい食わしてやるさ、はっはっは……ふう」


 なんとか誤魔化せた事に安堵した明人は料理器具や食器が並んでいるキッチンに行き、家政婦が用意してくれたであろうスーパーの総菜より少し大きめのコロッケとキャベツの千切りが綺麗に丸い皿に乗っているものを見つけた。家政婦が作ったコロッケは大きながらも四つも作られているが、明人は普段、こんな量はペロリと食べてしまう。明人は別の皿を取り出し、レイリーのため、二つのコロッケとキャベツの千切り半分を別皿によそっていく。


 家政婦が綺麗に揃えたようには出来なかったが、明人は特に気にもせずに、さらに自身が使っている丼もの用の茶碗と予備で置いてあった可愛い犬の絵が描かれたお茶碗を取り出した。家政婦が明人に客や友人出来たときのためと用意したものだ。明人はそんな余計なお世話をする家政婦に余計な事はしなくていいからと涙目ながらに言いたいのを我慢しているのは、家政婦に居なくなられると困ることだらけだからだ。

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