断章 一話
一二月二十三日。大島明人宅。明人は困り果てていた。明人はふと自身が愛用しているソファに目を向ける。
「いやぁ、来年の夏、どこのホラー番組に送るか悩ましいな」
スマホの撮影機能を起動させつつ、そんな事を冗談交じりでつぶやく明人だったが、内心は困り果てていた。目の前には愛用のソファにこびついた人型の汗跡。そこにはっきりと人が居たことが見てわかる。 そして、その人型の汗を作り出した人物はRDGMを付け、ゲームをしていたはずの自身の友人、道下総馬。ここまでは明人も理解できた。だが、理解できないのは、RDGMだけを残し、肉体を蒸発させた友人のことだ。
「これは僧侶とかエクソシストとか呼んだ方が良いのだろうか」
明人は普段、ホラー物は見ないが、幽霊とかオカルトは基本、こういう筋だろうと踏んだのだ。なれば、善は急げと言わんばかりに、明人はスマホで検索を始めた。
検索キーワードは≪美少女 霊媒師≫
「おいおい、これはまずいぞ、美少女霊媒師が探しても居ないではないか!」
漢・大島明人、悲痛な叫び。仕方ないとばかりに明人は≪美少女 霊媒師≫を消し、≪美少女 エクソシスト≫と打ち込んでいく。
「これは金髪ロリのエクソシストを希望す……居ないではないか!」
その後、美少女坊主や、美少女警官などを検索していくが、まるで出てこない。明人は不機嫌な表情を浮かべながら、自身の部屋から出ると、下の階に降り、リビングに入る。リビングは大きいソファにテレビや、空気清浄機などが置いてあり、部屋は綺麗な状態だった。明人の親が雇った家政婦が監視兼掃除を毎日のように明人が学校で居ない時間に来ては家事をしていくためだ。
「まったく! 需要を理解していない世の中だ! どんな状況でも救ってくれるのは常に美少女が良いとなぜわからん!」
明人は憤慨しつつ、冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出し、ラッパ飲みをしつつ、リビングにある三人は座れるソファに体を大きく身を任す。
「にしてもほんとにどこ行ったんだ? あいつ」
総馬は親友であり、無二の盟友である。そんな彼の事を心配する明人だったが、いまいち、状況が掴めず、警察に連絡しても良かったが、急に消えたなんて信じてくれるだろうか。というか警察に家に入られるのは明人的にはマズかった。部屋のキッチンに目を向け、明人は唸る。
「うーん、おい! 出てきていいぞ!」
明人がキッチンに向かって叫ぶ。すると、キッチンの方から何かの扉が開く音と共に一人の少女がキッチンから姿を見せた。その少女は明人と一緒のデザインの子ども用の白いタキシードを着ており、髪は黒く、肌がぷにぷにとした少女だった。第三者が見れば完全に誘拐、もしくは監禁だと思われる光景だ。
「大島ぁ! ここ臭いです!」
語尾に小さい単語が見え隠れするように喋る少女に明人は声を荒げだす。
「レイリー、可憐な少女が大島ぁ! なんて昔の工事現場の親父みたいな喋り方したらダメだ! そこは明人にぃにか明人お兄ちゃんだろ、ちなみに臭いのは俺がつけているぬか漬けの匂いだ、諦めろ、俺が自室での来客の時はそこに居ると約束したろ?」
「それはわかりますけど、大島ぁ、もう友達は帰ったのですか?」
「だから大島ぁではなく、明人にぃにか明人おにいちゃ―――」
「大島ぁと呼べと言ったのは大島ぁではないですか!」
「いや、それはそうなのだが!」
明人は話を聞かないレイリーに明人は食い下がっていく。そんなレイリーと明人の出会いは一二月の初めだった。




