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第一章 三話


 恐る恐る目を開くと、総馬を支えていたのはボロボロのローブを着込んでいた人物だった。ローブのフードは脱げており、驚いたことに眼前にはまるで王子様の様な人物が居た。髪は銀と黄色が混ざったような色で、目を鋭く尖っているが、顔の輪郭は整っている。身体の造りはローブで身体の線が隠れており、分からないが、女子高とかだとモテそうな感じだ。女子に。


 だが、総馬はそんな人物に感謝の念を抱き、感謝の言葉を言おうとするよりも先にこの女性が放つ異臭に驚いた。まるで何かが腐ったような匂いで総馬は顔をしかめる。


 「おや、どうしたんだい? そんな嫌そうな顔をして、女性に助けられるのは恥かい?」


 「あ、いえ! 違うんです!」


 凛々しい声が少し不安そうなトーンになっていく彼女に総馬は必死にそういうわけじゃないということを伝える。だが、こんな凛々しい人物から漂うはずがないであろうこの異臭はどこから来るのか、これほどまでにTHE・イケメンというような女性がこんな異臭がするはずないと総馬は考える。


 一つの答えに辿り着いた。ローブだ。これだけボロボロなら当たり前だ。総馬は彼女が放つ異臭をそう決めつけ、彼女に対して同情する。

きっと巨大蟻のお尻の上に居たのも、あの女の子が近くに来るのを嫌がったからなのかもしれない。あの女王様気質な女の子の事だし、あれぐらいの年頃の子はズケズケと物を言う年頃だ。仕方ない。ローブを捨てられてないのは、誰かの形見、いや、子どもの頃からずっと手離せずに居る毛布的な……。総馬はあれこれと考え、二人に対しての嫌悪感を勝手に払しょくしていく。


 「俺は全然平気です! 大丈夫です!」


 「え? 何がだい?」


 総馬の勝手な想像の餌食にされた女性は想像のし過ぎで感極まった総馬の発言に小首を傾げる。


 「大丈夫です、隠さなくても」


 「いや、本当に意味が分からないよ、というかそろそろ自分で立ちたまえ」


 彼女の指摘に総馬は今の自分の状態を思い出し、慌てて彼女から離れる。彼女から離れると、自然にあの腐臭の様な匂いも薄れていく。彼女の顔をよく見ると、鋭く尖った眼が合う。彼女の鋭い眼から少し不可思議な瞳がこちらを見つめていた。どう、不可思議かと言うと、まるで鳥の様な瞳だったのだ。


 「君、喉ガラガラだね、ほら、水だ」


 「水!?」


 彼女が取り出したのは片手で収まるほどの瓶で、総馬はひったくる様にその瓶を奪い取り、その蓋を開けて呑み込んでいく。

 乾いた喉にその水が入り込み、喉を柔らかくしていく。あっという間に水は無くなり、総馬は吐息を漏らしながら彼女に瓶を返す。


 「良い飲みっぷりだったよ、ほんとに何も飲まず食わずでここを歩いていたのか、君は」


 「は、はい、ありがとうございます」


 総馬が礼を述べると、彼女はニコッとその端正な顔にある口を開ける。瓶をローブの中に戻した女性は総馬にニコニコと問いかける。


 「で、君はどこから来たんだい?」


 「え、あ、あの、俺もどうしてここに居るの分からなくて」


 「それは大変だね、うーん、助けてあげたいけど、うち、うるさいの多いからなぁ……」


 蟻が支配する国がこのゲームの舞台なのか? 最近は物を人にするのが流行っていると明人から聞いたことがある。

このゲームはそういう蟻の人間化したのが登場人物なのかもしれない。あれこれと予想を立てる総馬だったが、そんな事は彼女の次の行動で総馬の頭の片隅に追いやられる。


 「ほら、少年」


 「え!? うおっ!? ちょっ!? なんでローブの下が下着なんですか!?」


 そう。彼女は突然ローブを脱ぐと総馬に放ってきたのだ。しかもローブの下の彼女は下着一式のみというなんとも目のやり場に困る服装だった。女性は不思議そうな表情を浮かべる。総馬は困った。控えめな胸だがそのほどよく筋肉が付いたスレンダーなスタイルは目に毒だ。救いはただ布で包まれているというエロさを感じさせない服装だ。なんとか目を逸らし、ローブを突き返す。


 「返します! こんな所でその恰好は危ないですよ!」


「普段は何も着てないから大丈夫だよ? 変に目立つからって理由で落ちてたの持ち逃げしただけだしね」


「あんなにでかい蟻が居たら目立つもくそ無いと思いますけどね! いや、そういう問題じゃなくて普段から下着姿でずっと居るんですか?」


「普段はこの布も付けないよ」


「まさかの裸族……」


 このお姉さんは中々に野性的な感性をお持ちの様だ。なるべく姿を見ないよう気をつける総馬だったが不意に突き返したローブをさらに突き返される。


 「とにかくそれはあげるよ、こんな場所でその綺麗な格好は生存率を下げるよ」


 「いや、ほぼ全裸の方がやばいですよ」


「大丈夫大丈夫、私、この恰好の方が落ち着くし、どうせ砂漠からもう退去するからね、君とそのローブはうちには連れて帰れないからそれをやろう!」


 彼女は親指を思い切り立てた。砂漠の中に置かれ、もう既に砂まみれの彼女のほぼ裸体の姿を見て、確かに大丈夫そうだと総馬は少しぎこちなさそうにローブを羽織る。生暖かい。総馬は目の前の女性を見つめ、少し頭が沸騰される。


 「大丈夫?」


 顔が真っ赤になっているのを心配されたのか、彼女は総馬に顔を近づける。総馬はその美顔に見惚れかけるが、突然、総馬の鼻に酷い腐臭が流れ込んでくる。


 「うっ!?」


 先ほど、ローブを着ていた時よりも強烈なにおいだった。そして総馬は理解した。ローブを貰い、着ている間、匂いは無かった。だが、彼女が近づいた際、酷い腐臭に襲われた。つまり、この腐臭は彼女の匂いだ。


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