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第一章 二話

 

 総馬の態度に憤慨した少女は総馬を見下ろせる位置までやってきた。彼女の乗っていた蟻は遠くで見るよりも大きく、周りの蟻も大きいと思うのにそれを一回り越しており、総馬の上に大きな影が落ちる。そして、頭上から少女の怒声が響く。


 「お前が先ほどからしているかしこまった態度に興味が湧いたけど、途中でやめるなんて興覚めね! でも私に興味を沸かせた褒美として、命は救ってあげる! さっきの馬に乗った男と女のように何も言わずに逃げ続けて文句を言ってくるようなら瞬殺だったけど、あなたはそこで私の軍勢が通り過ぎるまでその恰好で居るなら許してあげるわ!」


 その理不尽な言葉に総馬は少し愕然とするが、これ以上何か言って蟻に殺されるのは溜まったものではないと身を小さく丸くした。というか既に話の中で二人の犠牲者が居た。

 総馬が体を震わせていると少女の乗る巨大蟻は、総馬の身体スレスレの座高の高さを保ちながら跨いでいき、のそのそと歩いていく。巨大蟻の影が総馬の身体を通り抜けていき、完全に影が総馬から離れると、巨大蟻はなぜか動きを止めた。


 「今度はなんだ……」


 これ以上、総馬はこの蟻の軍団を見ていたいという感情は持ち合わせていない。出来ればさっさと通過して、二度と会いたくはないと思った総馬は止まった蟻が動くのを再開するのをじっと我慢し、待ち続けた。


 「青年、この砂漠をその服装で居るのは正直、バカとしか言いようが無いが、君はどこの村出身だい?」


 土下座をした総馬の背後から声が降り注ぐ。総馬はすぐに巨大蟻の上からだろうと察したが、先ほどの小さい女の子の声では無く、凛とした女性の声だったため、多分、お尻の部分に座っていた人物だろうか。だが、総馬は悩む。この体勢を崩し、後方の巨大蟻の方を向いて良いのだろうかと。向いたら向いたで小さい女の子が文句を言いだすのではないかと。ここからでも声を出せるかと総馬は腹を括った。


 だが、なんて言えば良い? ゲームから出れないなんてゲームキャラに言っても仕方がない。総馬は少し考え、声を上げた。


 「いえ! 実は自分がどうしてここに居るのかさっぱりなんです!」


 「え!? なんだって!? 盗賊団!?」


 「え!?」


 そんな事誰も言ってない。総馬は慌てて後ろに向けて、拒否をするように腕を振る。土下座をしながら後ろに向けて腕を振る。額は完全に砂に埋まった。


 傍から見たら情けない光景だが、盗賊団扱いはひどすぎる。にしても、あっちの声は聞こえるのに、こっちの声は聞こえづらいのか? ふと疑問に思ったが、総馬の体勢的に大声は地面に吸いこまれているに違いない。総馬は仮定し、納得した。


「少年、盗賊団を一人でやるのは団じゃないから前提から崩れてる! 親御さんには私からも謝ってあげるから、出身村を教えたまえ」


 上の人物からそんな優しい提案の声が上がる。だが、それは勘違いだし、突然一人飛び出して、一人で盗賊団を名乗ろうなんて馬鹿は居ないだろ。

 ここで黙れば何をされるか分からない。総馬なんとか地面に吸い込まれきれず、更には後ろの人物に届けと言う思いで叫んだ。


 「実は!!!!!!!!!!ここがどこだか!!!!!!!!分からないのです!!!!!!!!」


 精一杯の力を込めた頭と喉を震わす大声だった。これで届いたはずだ。届いてなかったとしても飲まず食わずのまま、数時間動いた総馬にはもう先ほどの大声を出す気力は無い。


 「げほっ、げほっ」


 叫びすぎて喉が痛い。現実でも声を荒げただけで咳が出るのにゲームでも声を荒げなければいけないのは不運すぎる。

 というか、早く返事が欲しい。上を見上げていいなら見上げるが、それでまたいちゃもんを付けられてはたまったものではない。総馬は耐え忍ぶ。


 「そうか! わかった! 今からそっちに行くからその状態を止めて良いぞ」


 え? こっちに来るのか? 思わず心の中でそう思う総馬だが、これ以上、大声を出さなくて良いとなるとそれには感謝だ。総馬はすぐさま土下座をやめ、立ち上がる。


 「うおっ!」


 総馬の腰と数センチくらいの差しかない辺りに蟻が蠢いており、総馬は思わず驚き、身体を思わず、後ろに仰け反らせてしまう。後方に身体が傾いていく。思わず目を瞑り、尻もちを着くと確信した。だが、なぜか、一向に地面に身体は倒れず、その場で停止した。いや、というよりは誰かが背中を腕で抑え、倒れないようにしてくれてるのだ。

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