(6)
「なんで?」
「亜夢にはいろいろやらされるからな。寮の部屋の掃除とか、教室の掃除とか、プール掃除とか」
「掃除ばっかりじゃない」
「今まで、そういうのじゃんけんで決めてたけど、それをババ抜きにすれば全部あたしが勝ったはず」
「逆に全部負けてたの?」
と美優が言うと、ゆっくりとアキナはうなずく。
「それもどうなのって思うけど……」
「あっ、美優。馬鹿にした。ゆっとくけどね、一対一のジャンケンは亜夢に勝てないから。めっちゃ動態視力いいのよ」
「動態視力? 見て逆を出すの?」
美優はあきれたような顔で亜夢を見る。
亜夢はまだ手元のトランプを見つめている。
奈々が苦笑いしながら、美優に答える。
「ちょっとずるいよね。けどそれはみんな同じ条件だから……」
「まあ、手の振り方とか癖で見抜くのとかわらない、っちゃ変わらないけど」
美優は気が付いたように人差し指を立てる。
「あ、じゃあ、ババ抜きだって考えを読めば?」
「それがそうはいかないんだよ」
アキナが言う。
「私は全然変なことを考えてれば亜夢がいくら読もうとしても読めないのはわかってるから」
「?」
「じゃあ、私達の考えは?」
「伝えようとしているなら読めるかもしれないけど、なんでもかんでも人の考えが分かるわけじゃないのよ」
「へぇ」
美優は納得したようだった。
四人は連休を利用して、海沿いの村に行く途中だった。
話は小林達が襲ってきた翌日に戻る。
亜夢達四人は、空き地で男たちと喧嘩しているのを通報され、亜夢は校長室に呼び出されていた。
皺だらけだが、誰より姿勢がいい白髪の老人、非科学的潜在力女子学園の校長はいつものように生徒を叱っていた。
「非科学的潜在力を使って、超能力で解決している限り、君たちはいつまでたっても社会に出ていけない。この片田舎から羽ばたけないんじゃぞ。確かに相手が悪い。復讐のために武器まで持ってきている。だが、それを超えるような武器で対抗してはいけないんじゃ。わかるな?」
「……」
「分かるな?」
老人の語気が強まった。
「はい」
「声が小さい」
「はい!」
老人は一人一人に紙を配ると言った。
「そこに反省文を書いてきなさい。反省文を見て、理解していない、と思った者は、もう一度ここに呼びだして説明する」
亜夢が言う。
「それパワハラ……」
人差し指を盾て左右に振った。
「違う。これは教育じゃ」
亜夢は、むすっとして校長を睨んだ。
「亜夢、あれ聞いてみてよ」
横に座っていた美優がそう言った。
「……」
「なんじゃ、聞かんうちに諦めるか?」
亜夢は口を開いた。
「校長。昨日、美優がまた精神制御されちゃったんだ。美優にも非科学的潜在力があるんだから、その精神制御に対抗できるはずなの。知っていたら方法を教えてくれないか?」
「……言葉遣いが酷いのぅ」
「えっ? そこ?」
「それに、いまさっき非科学的潜在力に超能力で対応するな、と言ったはずじゃがな。理解してはくれんのかな」
亜夢が身を乗り出した。
「それじゃあ、非科学的潜在力じゃない方法でもいいよ。とにかく、美優が精神制御から逃れられる術が知りたいんだ」
「……」
亜夢の真剣さは周りにも、校長にも伝わっていた。
「……」
黙ったまま校長は立ち上がって、窓から外を見る。
「確かに精神制御は良くないのぅ」
校長は何か思いあぐねているようだった。
ゆっくりとあるきながら話しだした。
「わしには洗脳やら、マインドコントロールを解くすべを知らん。ましてや超能力を使えんのだから、西園寺に降りかかる災厄の大きさや深刻さなど、とうてい理解できんだろう」
「えっ?」
「じゃが、過去に自分ではどうにもならないことや、自由を取り上げられたようなことは経験しちょる。それを何倍かにしたもの、と考えれば、今の西園寺が、どんなに辛く苦しいことかは想像出来る」
「……」
「わしには術を教えることができんが、知っているかもしれない人物を教えることは出来る」
亜夢が立ち上がって、校長に詰め寄る。
「それは誰ですか?」
「ここにはおらん。週末は連休になってるから尋ねるといい。話はしておく」
「着いたね」
着いたのは眼下に海が見える無人駅だった。
「汽車に乗るは久しぶりで嬉しかったけど、もうお腹いっぱいって感じだな」
アキナがそう言うと、奈々が言う。
「帰りも乗るんだよ」
それを聞いて、疲れた、という感じにアキナは顎を上げてしまう。
「亜夢、ここ、海沿いじゃなくて、山って感じだね」
「……」
美優の問いかけに亜夢は答えなかった。
「亜夢?」
「呼んでるんだぞ、亜夢」
アキナが言うが、亜夢はじっと海の方を見ている。
「亜夢どうしたの?」
奈々が亜夢の手を取ると、ようやく意識が戻ったように
「あ、ごめん。校長の言ったことを思い出してた」
「なんのこと?」
「この駅で降りて『ハツエ』を訪ねろって言ってた。『ハツエ』って言われてるだけで、住所とか、そういうの一切なかった。電話番号もしらないって」
「えっ?」
奈々がビックリして、「いまの聞いたよね」と言わんばかりにアキナと美優の方を振り返る。
「じゃ、ここから先どうするの?」
アキナがそう言う。
亜夢は腹をくくったように、
「私達でその『ハツエ』を探すしかない」
と手を広げてみせる。
「ちょっとまって、探すったってここ周りに家とかある?」




