(3)
「まるで反重力を使って浮いているように見えた」
「超能力もそういう奇跡の力を使えるわけじゃないの」
美優は奈々がいないことに気が付いて、あたりを見回した。
奈々は亜夢の前で腕を合わせ、何かアピールしているようだった。
「すごいよ亜夢、なんかキレが増したみたい」
「そうかな」
「すごいよ、すごい。まるで飛んでいるようだったし」
「ん~、けど。もっと長く遠くとべるよう練習しないとね」
「えらいなぁ、亜夢は」
美優の視線に気づいたのか、アキナが言った。
「あの二人は、いっつもあんな感じだ」
「あの二人って、出来てんの?」
美優はアキナを睨みつけるように言った。
「デキテルって?」
「あそこまでなのか、一線を越えているのか、ってこと」
「えっ? そんなの…… そんなこと…… どんなこと? あるわけないじゃん」
アキナは視線が定まらず、足がバタバタしている。
「アキナ、女の子同士でも肉体関係はアリだと思う?」
「……そ、そんなこと聞かれても」
美優はニヤリと笑った。
「私はアリだと思う。現に私、亜夢とラブホに入ったし」
「ラっ……」
アキナは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
美優はアキナをほったらかして、亜夢のところに駆け寄った。
「亜夢、すごいね。もう一回見せてよ」
近くで見ると、すごい汗をかいていて、息も切れていた。
「美優、亜夢はすごいから楽々やっているみたいに見えるけど、これ、簡単な事じゃないんだよ」
あんただって超能力使えないんだから、わからないだろうが、と美優は思った。
「あ、いいよ。練習だから、やって見せるね」
「ありがとう!」
美優は亜夢に気付かれないように奈々に『あっかんべー』をした。
「行くよ」
ゆっくり大きくステップを踏んでから、亜夢が走り出す。
土管の近くに来ると、飛び上がって、見えない滑り台の上をスライドするように土管に入っていく。
「!」
確かに細かく土埃が立っている。空気を操っている証拠だ。
そして亜夢が反対側から出てくると、その周囲の草が巻き上がるように動く。
「空気の流れが……」
美優に目には亜夢の動きの周りにある、空気の流れが見え始めていた。
亜夢は鮮やかに空を舞い、再び二人の前に降り立った。
「すごい!」
奈々がまた駆け寄る。
「私も……」
美優は奈々のことが気にならなくなっていた。
見た空気の流れを、自分も作れるかも。そう思って、土管に向かって駆け出していた。
「!」
美優は飛び上がって、足を前に頬りだすと、そのまま地面にお尻をついてしまった。
「あれ?」
「美優、あなた何やってるの?」
奈々が言った。
亜夢は小走りに美優に駆け寄った。
そして、手を差し伸べ……
「!」
「亜夢、大丈夫。痛くなかったし」
もしかして、と亜夢は思った。
美優はもう覚醒し始めているのかも知れない。
お尻をつく寸前、亜夢には美優の体が浮いたようにみえた。
「美優、今の……」
「みーつけ」
男の声だった。
視線をむけると、空き地の端にバイクに乗ったロン毛の男がいた。つづけて、バイクのエンジン音が聞こえてくる。
「おっ、いるいる。女子四人だぜ」
そいつは腹にさらしを巻いて、上半身裸だった。
「ちょうどいいな…… って、一人足りねぇじゃねぇか。一人連れてこいって、呼び出させるか」
半帽に黒いマスクをした男はそう言った。
「ひと気のないところで見つかるとは都合がいいな」
そう言ったのはバットを持っている男だった。
「気を付けろ、土管の近くに立ってる女だ」
その声は灰色のつなぎを来た男……
「……小林」
「えっ、変態とか、痴漢だっていう人?」
亜夢の声に、美優は慌てて立ち上がる。
「ここに何しに来た」
「わかるだろ。何度も馬鹿にされたままじゃ済まねぇんだよ」
次々とバイクから降り、男五人は空き地に入ってくる。
「まったく、ヒカジョとは言え、こんなガキどもにビビるなんて」
バットを持った男が言った。そいつが体つきも一番大きく、態度も大きかった。
亜夢が男たちの方へ近づいて、左手を伸ばす。
「この娘達に手出したら承知しないよ」
「ああ。まずはお前で徹底的に遊んでやるから安心しな」
バットを振り出して、両手で竹刀のように構えた。
そして、顎をクイッと動かすと、残りの連中が突っ込んできた。
さらしを巻いた男が、しゃがんで手を開いて地面に着けていた。
「くらぇ」
バカは行動する前に声にだしてしまう。
亜夢は念動力で風を起こし、土埃をそのまま相手に返した。
「ぐはっ、何しやがる」
「バカ、やる前にしゃべるからだ」
半帽に黒マスクの男は、そう言って棒を突き出してくる。
亜夢は左右にステップしながら避けると、今度はつくのではなく、水平に振り回し始めた。
今度は後ろに下がって避けるが、後ろにはアキナや奈々、美優がいる。
続けて踏み込んで振り回す棒を、亜夢は片手で受けにいく。
一瞬、手のひらの手前で棒が止まった。
「なにっ?」
そのまま亜夢は棒を掴んで引き、半帽の男が倒れ込みながら突っ込んでくるところに、右こぶしを振り下ろした。
「ぐぇ……」
亜夢の拳が当たったか、当たらないかのあたりで男は、地面に突っ伏して、動かなくなった。
「やるね」
バットを持った男は姿勢を保ったまま、亜夢との間合いを詰めていた。
「くらぇ」
さらしを巻いた男が両手で土を放った。
空に飛散した土は、再びさらしを巻いた男の顔面に返された。
「ぐはっ、何しやがる」
「だから、やる前に言うなよ」
そう言うと、バットを持った男が、次の男に指図した。
ロン毛の男が、ファイティングポーズをとって前に出てくる。
フットワークの感じから、ボクシングの心得があることが分かる。